031
アレクサンドラは拐った僕をサーラに自慢しようと持ち込んだのだろう。
だがそこは廃墟。
サーラ・プナイリンナが来日した際に住処としていたホテル跡。
もうとっくに使われなくなった古いラブホテルを改修したのだが
彼女が帰国する際に全て元通り「廃墟」に戻した。
「ここにいるのは間違いない。」
と揃って口にした。
朽ち果て鍵の掛からないドアを蹴り飛ばしたのは宮田杏。
何がどうしてそうなったのかを教えてくれたのは三原紹実だった。
彼女はとても楽しそうに
「漫画とかであるじゃん。」
男子高校生が他校との抗争を繰り広げるあれ。
「有り余る情熱をぶつける相手が欲しいだけ。誰だっていいのよ。」
人の子だろうと「継ぐ者」だろうと持て余す青春。らしい。
だから三原先生は一切手出しをしなかった。
ただ
「キズナを無傷で連れて戻らなければ問答無用で建物ごと焼き尽くす。」
とだけ脅した。
先走る宮田杏を止めるエリク
「下がれ。これはボクの責任だ。」
「うるさい黙れ。アタシに命令するな。」
「そうね。それにアナタ女子に手を上げられるの?」
柏木梢は相手の正体を掴んでいる。
「キミは相手が誰なのか知っているのか?」
「推測しだだけよ。ほら椿ちゃんも行くわよ。」
「それはいいけどボク達3人じゃフェアじやなくない?」
「構わないわ。相手もきっと3人いるから。」
ゴルゴンの3姉妹。
神話だとか物語だとかおとぎ話の住人。
目の前にヴァンパイアやウールヴヘジンがいなければ信じない。
実はメデューサが3女で
長女ステンノー次女エヴリァレなんて聞かされてもそれが何だって言うんだ。
「心配するな。たいした怪我じゃない。」
「ボク達治りが速いからね。」
「1週間もあれば完治するわよ。」
3人は本当の事を言っている。
それでもアチコチ痣だらけで、包帯も巻いている。
皆に心配をかけて怪我までさせたのは僕の不注意が原因だ。
僕なんか放おっておけば良かったのに
そうすれば皆こんな怪我を
「オマエそれ本気で言ってるのか。」
宮田杏を「怖い」と思ったのは後にもも先にもこの一瞬だけだった。
僕はどう責任を取ればいい?どうすれば許してもらえる?
「だから許すも何も。」
と飛びかかろうとする宮田杏を抑える柏木梢
「待った。待って杏ちゃん。」
「離せっコイツいっぺん」
「待ってって。考えがあるのよ。杏ちゃんも納得できるから。」
3人は部屋の隅に集まり何やら打ち合わせている。
時折悲鳴や叫びのような何とも不穏な声が聞こえる。
「よし決まった。マカベキズナ責任取れよ。」
え?今?
「そうだ今だ。あっ待て。今か?後にするか?」
「ボク今がいい。」
「何言ってるのよ。時間とか場所とか回数とか制約つけちゃダメよ。」
何の話だ?
「さすが腹黒だな。よし梢任せた。」
「誰がハラグロコケグモよ。」
「いいからほらこずちゃん。頼むよ。ボク達じゃ巧いこと言えないから。」
柏木梢は咳払いをして
「今後、私達3人がそれを望んたら」
「いついかなる時間、いかなる場所、いかなる状況においても」
「一切の例外も拒否もなく、」
躊躇?決意かだ
「は、は、ハグさせなさい。」
「ギャーッ言っちゃった。言っちゃったよっ。」
「ナデナデって言ってなかった?何でハードル上げた?」
何を言っているのかさっぱりだ。
サーラとの別れに凹む僕を慰めてくたれあの日のように
彼女達は僕を包んでくれた。
「オマエが無事で良かった。」
「良かったねー。」
「ホントよ心配かけて。」
皆も無事でよかった。あまり無茶しないで。本当にごめんなさい。ありがとう。
僕が女子高生3人に抱きつかれていると部屋のドアが静かに開く
橘結
一体何事かと思ったのだろう。言葉を失っている。
気付いた柏木梢。
「ほら姫ちゃんおいで。」
橘結は泣きながらその輪に加わった。
「アイツら途中で逃げやがった。」
と宮田杏は言うが
サーラ・プナイリンナの姿はなく、兄のエリクがどうやら他の「人ならざる者」を連れている。
そしてその3人はとても怒って喧嘩を売ってきた。
それこそ「やらなきゃやられる」とでも思ったのだろう。
様子を伺っていたエリクは「最新SF映画でも再現できないバトル」と笑った。
アレクサンドラの「妹はどこ」の質問に「国にいる」と答えると
何でこんな事しているのかと僕を置いてあっさりと引き上げた。
「ヴァンパイアに惚れられたって理由でメデューサに誘拐される機会なんてそう無いわよ。」
南室綴は呆れるように言う。僕だって聞いたことがない。
「出会った頃から変わった子だと思っていたけど本当にヘンよ。」
「何を今更」
と皆が笑う。




