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Kiss of Monster 01  作者: 奏路野仁
3/43

003

ひたすら文句を聞かされ

「そもそもどうしてアナタあんな吸血鬼と知り合いなのよ。」

と聞かれたので、たまたま居合わせただけだと説明しようとしたその時

彼女の肩越しに1頭の犬が目に入る。

公園に犬。

飼い主がいてリードがあって。なら何の違和感も無い。

ゆっくりと、ふらりふらりと近寄ってくる。

コントの中の酔っぱらいのようなその歩き方はこの場面では異様で異常だ。

ああまただ

言うと同時に立ち上がると彼女は

「またって何よ。」

初めての事じゃない。

黒い影のような「何か」を纏った犬。

遊びたいのではない。敵意をもった唸り声。

ごめんなさい。

胸倉を掴んだままの彼女のその腕を取り、引き寄せ身体を入れ替えた。

殆ど同時にその犬は飛びかかり、噛みつかれる前に肩から体当たりして弾いた。

種類は判らない。中型犬、大きいが痩せている。

それでもその突進の反動で転がりそうなった。彼女は慌てて僕を支えてくれた。

彼女は僕の前に出て

「少し下がっていなさい。」

フッ。と息を整え格闘技のそれっぽく構えた。

転がった犬のような何かは天地を見失いジタバタと足掻き、起き上がり

フラフラと再び僕達に近寄る。

ある程度の距離まで歩み、大きな口を開け猛然と飛びかかった。

彼女は踏み込みと同時に数センチだけ自身の身体を横にズラす。

すれ違い際に犬の下顎にショートアッパーがカウンターで決まる。

きりもみしながら舞い、ドシャリと肉の塊の落ちる音。

彼女は殴った手を2度3度振り再び構えて立ち上がるのを待つ。

犬はやはり同じようにジタバタともがく。

呆気にとられている場合ではない。一目散に犬に飛び乗った。

彼女が静止するより速く、犬が起き上がる前に跨った。

抵抗して噛み付こうとする犬の首の下に腕を潜り込ませ力の限り抑え込む。

初めての事じゃない。

犬に纏わりついている黒い影を掴み、引き剥がす。

頭の中で「バチン」と音が響く。影は文字通り霧散する。

腕の下で、犬は苦しそうに泣いている。慌てて腕を離すが起き上がろうとはしない。

ただただ力なく鳴いている。

ごめんなさい。ごめんなさい。

「もういいわ。」

彼女は僕の肩に手をおいて言った。

彼女の隣には大きな男性が立ち僕を見下ろしている。

彼は腰を落とし、犬を撫でると静かになった。

「あとは任せない。」

彼は犬を抱え

「付いてきなさい。」

と神社へと石段を登る。

途中何度か後ろへ倒れそのまま転がりそうになるのを必死で堪えた。

長い階段が恨めしい。

神楽殿の脇の小道を抜け、少し離れて家がある。

僕は1人広い客間で待たされた。

ほどなく彼女が戻り

「連絡して支度するからそれまで待っていなさいって。」

とお茶を持って来た。

手を伸ばすとまだ震えていたので慌てて引っ込めた。

彼女は僕の隣に座り、1口飲み、大きく息を吐いてから言った。

「さっきはありがとう。」

ごめんなさい。

「どうして謝るのよ。」

手は大丈夫ですか?他に怪我はしていませんか?

「え?ええ。」

「本当はね、アナタがこんな目に合わないように。」

「ワタシと絢ちゃんはアナタと姫との関わりを止めさせようとしていたの。」

何を言っているのか判らない。あれは僕の責任だ。

きっと僕が呼び寄せた「何か」だ。

「でももういいわ。」

「こっちを向いて。ほら。」

と無理やり顔を向けさせられる。

彼女は白く綺麗なハンカチで僕の目元を、涙のあとを拭ってくれた。

「ワタシは南室綴(ナムロ ツヅ)。」

僕は

「知っているわ。真壁(マカベ) (キズナ)君。」

そう言いながら乱れた僕の髪を整えるように撫でた。


お姫様が戻る前に、僕はあの大男に車で家まで送ってもらうことになった。

後に彼はお姫様「橘結タチバナ ユイ)」の父親であると知る。

彼は保健所に連絡をして身支度を整えて犬を預けるついでに僕を家まで届ける。

南室綴がそのまま留守番をして橘結を待ち事情を説明する。

無言の車内。保健所でも僕は車から降りず待たされた。

「この先だったね。」

この人は僕の家を知っている。

彼は車を止め、僕に続いて家の中へと。

祖母が迎え出て、彼を見て、僕を見て、

何かを察したように黙って頷き祖父を呼んだ。


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