026
まさか本当にくるなんて。
夏休みの7時前とかどんな罰ゲーム。
こっちは何をどうしようかと緊張と覚悟で殆ど眠れなかったのに
「オマ、キズナ君とりあえずシャワー浴びて目を覚ましたら?」
宮田杏の言う通り熱いシャワーと濃い珈琲で目を覚まそう。
その間、3人は祖母の作る朝食に舌鼓を打つ。
それで作戦会議って。
食後はお茶を啜りながら祖父母とお喋り。
それでその
「あーもうウジウジと。男なら当たって砕けろ。男なら当たって砕けろっ。」
「二回言っても砕けちゃダメでしょ。ボクと姫ぽんの将来の為に頑張っ」
「私達の事はいいから。自分がどうしたいのか考えるのよ。」
三人のこの適当な助言(?)に祖父母は揃って良いことを言うと褒める。
どこがだ
付いてきてくれる(少なくもと後を付けるくらいはする)と思っていたのだが
そのまま祖父母の話し相手をして、立ち上がって見送ろうともしない。
駅に到着したのは10時10分前。橘結はいた。
彼女はすぐに僕に気付いて手を振る。
ゴメンなさい。お待たせしました。。
「待ってないよ。」
それと急に呼び出してゴメンなさい。
「大丈夫。今日は暇だから。」
柏木梢の唯一の「作戦」
「駅前の喫茶店で全部話せ」
「そこで全部話すんだぞ。夏休みの情事だったり淡い経験とか全部。」
情事や経験はともかく、作戦に従い彼女を誘う。
だがこれは作戦などではなかった。と後に判明する。
「あのメール考えたの梢ちゃん?」
席に着くと彼女は世間話のように切り出した。
うん。携帯取り上げられて。
「キズナ君からメール着て何だろうと思って見たらディア結にゃんでしょ。吹き出しちゃったよ。」
僕もまさかあのメールで返信もらえるとは思わなかった。
「誰か(あの三人しか考えられないが)の冗談かもと思ったけど。」
「私もその、えっと、キズナ君とお話したいなぁって。」
お話。「これきりにしましょう」と言われてもおかしくない。
橘さんの話しの前に、言っておく事があるんだ。
「うん?」
夏休み前のあのファミレスで皆で話し合ったあの後
サーラに拐われ、蛇の毒で眠ってしまいそのまま泊まる事になった。
翌日に小室絢に話した内容と全く同じ。
橘結は口を挟まずそれを指摘する事無く全部聞いてくれた。
結果的に、グンデの言う「ボスのピンチ」は回避されたものの
その後サーラは親しく接するようになり
夏休みに入ってすぐ泊まりで海に行った。エリクも一緒に。
「楽しかった?いいなぁ。私も海行きたい。」
あれ?
「写メとか撮った?」
え?あ、うん。
何だこの反応。恐る恐る携帯を渡すと彼女は笑顔でそれを眺める。
「すごーい。こんな大きなお城作ったんだ。」だの
「キレイな夕陽ねー。」だの
それはトモダチの旅行の写真を見ているような反応。
ああそうか。
僕は橘結とこの「距離感」のトモダチなのかと理解した。
ヴァンパイアが橘結の脅威だとか
そんな事マカベキズナには関係無いでしょ。と橘結は考えている。
だから僕が誰と何処に行こうと関心は
「あのねキズナ君。」
橘結は僕の推測を否定するかのように告白する。
「あの日、三原先生からキズナ君が危険だって聞かされて心配したの。」
宮田杏達に護衛の協力を依頼したのは南室綴ではなく橘結の案だった。
僕の身を案じたものの、その翌日小室絢からの報告。
ただそれは
「アイツはヴァンパイア兄妹に拐かされているかもしれない。」
が前提となっての推測でしかなかったる
橘結はそれを確認しようとするが小室絢はそれを咎めた。
その報告は当然宮田杏達も受ける。
あの時期、誰も僕に関わろうとしなかったのはそれが理由。
彼女達は橘結を最優先で守らなければならない。
それは入学2日目、僕と宮田杏、栄椿、柏木梢が揃って神社に呼ばれたあの夜。
彼女達3人は橘家の庇護を受けると同時に橘結の護衛の約束を交わしたから。
それでもその後度々6人で行われたファミレスでの「作戦会議」において
宮田杏達は、本当に「橘結とのトモダチ関係を解消する」とまで言い出したらしい。
と、ここまで話すと喫茶店に南室綴と小室絢が現れる。
入店ではない。「最初から」この喫茶店にいた。
「まったく。最初からちゃんと説明すればこんな手間掛けなくて済んだのに。」
南室綴が僕の隣に座る早々文句を言いながらも経緯を話してくれた。
夏休みになり、数日するとヴァンパイアとライカンスロープの気配がこの街から消え
6人でのエルロンドの会議。
ようやく8月1日真意を確かめるべく旅の仲間が出発し僕を訪れる。
真意って?
「絢ちゃんの言った事が本当かどうかよ。その前にアナタが生きているかの確認が先だけど。」
冗談ではなかった。
「腑抜けた顔してたけど無事だったって連絡きたわ。」
作戦は、旅の仲間達による僕の生存確認とヴァンパイア化されていないかの確認から。
そして
「アナタの口から直接事の顛末を確認する事。」
「重要なのは、それが誘導尋問や強制ではなく自発的に告白するか。」
昨日、僕が3人に何も言わなければ、作戦はそれで終わる。
今日こうして橘結に全てを説明する機会は与えられていなかった。
つまりは橘結の「キズナ君から直接話しを聞きたい」を叶えるためだけに立てられたとても面倒な作戦。




