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Kiss of Monster 01  作者: 奏路野仁
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020

すぐに朝食を用意するからその間にシャワーを浴びるよう勧められたのだが

熱いお湯を浴びてもハッキリ目が醒めない。

部屋を出ると同じようなドアがいくつも目に入った。

ホテルのようだ。朝食って何処だろう。

大きく太い柱が1階ロビーから2階まで伸びて吹き抜けになっている。

とりあえず階段を降りるとその降り口に執事のような格好をした人がいて

僕を食堂まで案内し、さらに荷物を預かり椅子まで引いてくれる。

すぐにエリクとサーラも現れ食事が運ばれる。

豪華な朝食だ。

昨日の事が夢だったのか、まだ夢なのか。それともただの冗談だったのか。

「これも食べなさいよ。あれも美味しわよ。」

サーラ・プナイリンナは別人のように笑顔を僕に向ける。

ファミレスでの危惧は一体何だったのか。

送迎車はリムジンになっていた。

後部座席が対面式になっている車なんて本当にあるのか。

無意識にフと蛇に噛まれた腕を擦っていると

「痛いの?」

サーラ・プナイリンナが覗き込む。

あ、いや。大丈夫。心配してくれてありがとう。

「心配なんかしていないわ。気になっただけよ。」

リムジンが学校に到着する。登校中の生徒達の視線が集まる。

ドアを開く運転手に「ありがとう」と言いながら降りるその姿すらサマになる。

2人が降りてほんの数秒で居合わせた生徒達が吸い寄せられる。

僕が最後に車を降りても誰もこちらを見ていない。

心の底からホッとした。

どうやら宮田杏達を巻き込んだバトル展開は避けられそうだ。

2人は取り巻き達を引き連れ先を歩くが

僕の頭は未だ重く。少々フラフラしながらも玄関に辿り着く。

待っていたのは小室絢だった。

「説明しろ。」

挨拶しようとするより速く、結構な力で壁に押し付けられた。

全く力が入らず無抵抗なまま叩きつけられて壁に頭をぶつけてしまった。

さすがに小室絢も驚き小さく「あっ」と漏らしたが

それでも彼女は僕を壁に押さえつけたまま僕の言葉を待った。

説明。

あの後、サーラ・プナイリンナに拐われて彼女が襲撃されて

蛇の毒とかで眠ってしまってそのまま泊めてもらった。

意識が朦朧としていたが伝えられたと思う。

小室絢は僕を睨み続け、

「悪かったな。」

「姫を裏切るなよ。」

ようやく腕を離してくれた。

裏切るなんてあり得ないと答える前にズルズルと崩れ落ち

次に目が覚めると保健室にいた。

お昼近くになっていて、心配してくれていた三原先生に全てを話すと

「保健室の常連だな。」

と頭を撫でられた。


昼休みに教室に戻るとサーラ・プナイリンナが駆け寄り

「大丈夫?」

うん。もう大丈夫。

「そう。よかった。」

その笑顔はダメだ。

「それでその。ちょっといいかな。」

屋上は暑かった。誰もいない。

彼女は日射しを避けるよう陰に入る。

「トモダチとして聞きたいのだけど。」

「アナタ、エリ兄がどうしてこの国に来たのか知っている?」

留学だと聞いたよ。この学校に来た理由までは判らないな。

これは僕がサーラ・プナイリンナに吐いた最初で最後の嘘。

「アナタも知らないのね。」

ゴメン。何か隠しているなら本当はトモダチじゃないのかも知れないな。

「そんな事はないわ。」

「エリクは、兄はアナタの事イイ奴だって言っていた。」

「人の子を褒めるなんて今まで一度だってないのよ。」

「それどころか、ああこれは言わなくていいわね。」

何かをいい掛けて止めた。

「悪かったわね。まだ体調も悪いでしょうに。」

構わないよ。そうしたくなる気持ちは判るから。

君は本当にエリクが好きなんだね。

「なっ。何よ。本当に変な人の子。」

サーラ・プナイリンナは何も知らされていない。

ただ純粋に大好きな兄を追いかけ地球を半周した。

それでも、だからこそ彼女を守ろうとするエリクを裏切ってはならない。

この日から、サーラ・プナイリンナは変な「人の子」に興味を抱いたらしく何かと僕に声をかける。

取り巻き達の、特に男子生徒達の目が怖いのでそれとなく言うと

「気にする必要はないわ。」

「食料にもならないし。まあ何かと便利なのは確かね。良かったら何人か貸すわよ。」

と笑う。冗談に聞こえない。

それを聞き、彼女との会話中に教室を見渡すが男子生徒どころか誰一人関心を示さない。

橘結も、南室綴も、小室絢も。

隣のクラスの宮田杏、栄椿、柏木梢も姿を現さない。メールさえも一切来ない。

僕はサーラ・プナイリンナからの招待を再三断っていたのだが

「ボクからも頼むよ。」

とのエリクの頼みに度々夕食をご馳走になった。

後日、どうしてサーラが僕と親しくするのかを理解するのだが

彼女を思い出す度に、もっと相手をしていればと悔やむ日々が続く。

やがて最初で最後の「高校一年生の夏休み」。

サーラ・プナイリンナは海に行こうと誘う。

断る理由を並べるのだがエリクは「どうしても」と強く僕に頼んだ。

泳げなくてもいいなら。と返事をすると

サーラはとても喜んだ。

子供のように。16歳の少女の笑顔が見えた。


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