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Kiss of Monster 01  作者: 奏路野仁
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002

初登校。保護者と受付を済ませ体育館で長い式典。

保護者は引き上げ生徒は教室へ。

ザワついているのは初日だからではない。

絵に描いたようなイケメン男子高校生がいるからだ。

当然、僕ではない。だが僕は彼を知っている。

「あれ」は昨日神社に現れた王子様。

知り合いなのか、初対面なのか知らないが

女子生徒達か彼の周囲に集まっている。

教師が現れ、高校生としての自覚やら諸注意やら諸連絡を述べ

その日は解散となった。

大半が地元の子なのだろう。既に知り合い同士のグループが出来上がっている。

それならそれで構わない。

イジメられるくらいなら、「いない」と思われた方がマシだ。

プリントをカバンに押し込み立ち上がろうとすると1人の女子が僕を睨み

「姫が呼んでいる。」

姫?何?

「いいから来い。」

彼女は僕の髪を鷲掴み、立ち上がらせそのまま引き摺るように歩く。

教室を出て階段を登らされ屋上へ。待っていたのは2人の女子生徒。

1人は知っている。

神社で巫女装束を纏った「お姫様」

「ちょっと何してるのよっ。」

彼女は僕の髪を掴む腕を振りほどく。

「ごめんなさい。絢ちゃんも謝りなさいよ。」

「ふん。」

「絢ちゃんに何か頼む時は「手荒な事はしないで」て言わないとダメよ。」

もう1人の女子が笑いながら言った。

お姫様は「キッ」とその女子を睨んでから僕に向き直り

「本当にごめんなさいキズナ君。」

どうして僕の名前を知っている?名簿を見ただけか。

「私の事、覚えてる?」

先日の事なら覚えていません。僕は何も見ていない。何も知らない。

多分、これが模範解答。

僕が知る必要の無い世界。関係のない日常。

もう2度とあの神社には

言いかけたところで冷たい風。

ドアは僕の背中越しにある。風は前から吹いた。

いつからかそこにいたのか。それとも今現れたのか。

王子様。

つい口に出してしまった。

と、2人の女子が「お姫様」の盾のように彼との間に立ち塞がった。

「キミ達はボクが何者なのか判るようだ。」

「昨日のアレもそうなの?」

「そうですプリンセッサ。彼もヴァンピーリ。一族の名を汚す者。」

ヴァンピーリ

尖った犬歯。蝙蝠のような影。

ヴァンパイア。

こんなファンタジーな存在を僕は驚きもせずに受け止める。


「それ」が見えるとはっきり自覚したのは、退院して間もなくのある日。

今でも、いや一生忘れないであろう光景。

小学校への集団登校の途中。

最初、猫のような犬のような「それ」は本物の動物の影程度に思った。

車道の向こうからこちらに飛び出して

危ないっと目を伏せたがそれは車に轢かれる事無く僕の足元を走り去った。

しかも、他の子達には見えていない。

僕は「それ」を追った。

まだ歩くのもぎこちない僕が集団登校中にフラリと輪から抜けてしまえば

上級生たちが何事かと追いかけるのは当然。

近くのマンションに駆け上がり、閉じられているドアの中に消えた。

深呼吸してからチャイムを押した。が返事は無い。

ドアノブに手をかけると静かにドアが開いた。

「誰の家だよ」「勝手に入っていいの?」等々後ろで声がする。

自分の鼓動が煩くてよく聞き取れない。

玄関からキッチン。リビング。隣の寝室へ。

ベッドの上には誰かが寝ていて、その上に動物の形をした「それ」がいて

僕を見ている。

後ろで誰かが叫んだ。誰が呼んだのか知らないが警察が現れて

僕たち全員連れて行かれた。

数人の刑事に全く同じように見たまま起きたままを語った。

その最中に犯人が自首したらしく、僕達とは何の繋がりも無い事が判るまで

何度も何度も執拗に同じ話をさせられた。

後日、ベッドで横になって死んでいた人は自分の家で子犬を飼っていたと知るのだが

その子犬は今も生きている。

だから幽霊なんかじゃない。だから「それ」が何かも判らない。


あの時のように、彼はその「お姫様」に跪き、言った。

「プリンセッサ。ユイ・タチバナ。ボクにその力を貸していただきたい。」

彼女は答える。

「顔を上げてください。先日もはっきりお断りした筈です。」

「これはアナタのためでもあるプリンセッサ。」

彼は続ける

「アナタの名はボクの国まで届いている。アナタは狙われている。」

その脅迫には、お姫様の盾となっている二人の女子が返した。

「そのために私達がいるのよ。」

「姫はオレ達が守る。ヴァンパイアが相手だろうとな。」

誰1人譲らない。

ところで

僕はまたお芝居を見ているのか?

と、背中にドンっとドアが開かれ当たる。

教師が見回りに来た。

「新入生かー。今日は早く帰れよーここはもう閉めるぞ。」

その言葉に従い大人しく階段を降りた。が

ヴァンパイアはいない。きっともう屋上にもいないだろう。

彼女達とこれ以上関わる前に僕も走って逃げた。

階段を駆け下り教室でカバンを掴み玄関で靴を履き

まだ片方踵が入っていない内に校庭を抜けて正門へ

どうやって先回りしたんだ?

屋上でお姫様と一緒にた女子生徒が

すっかり身支度を整えて待ち構えていた。

「ちょっといいかしら。」

文字にするとお願いしているように見えるが実際はただの強要。

「行きましょう。」

行くって、何処へ?

「神社よ。」

彼女は僕の後ろを少し離れて歩く。

神社へと続く石段の手前の丘の上の公園。

「ちょっとここで時間潰しましょう。」

「姫達は少しあとから来るから。」

駅前で買い物をするので遅れる。だからその間2人でお話しましょうと言った。

これ以上お話する事はありません。

「こっちにはあるのよ。」

放課後に校門で待ち合わせしているみたいでイヤだったから場所を変えた。だとか

一緒に歩いているの見られたくないから離れて歩いた。だとか

それはもう完全に悪口だった。

初対面の女子にここまで嫌われる奴も珍しいだろう。

僕は自分が薄気味悪い存在だと自覚している。怪物のように扱われるのは慣れている。

だからって傷付かないわけじゃない。

「座って。」

公園のベンチに座り、彼女は立ったまま一方的に話し続ける。

「ワタシ達はどうでもいいのよ。アナタにどう思われようとね。」

愚痴のような、文句は続く。

「でも姫が勘違いされたままなのが気に食わないのよ。」

「判るでしょ?判らなくてもいいわ。」

「アナタが勝手に勘違いしていてもワタシ達には全くもってどうでもいいの。」

「でもあの子があんな顔してお願いしたら断れるわけないでしょ。」

何の話をしているのか判らない。判らないまま彼女はさらに感情的になる。

「あの日の夜。姫から聞いたわ。」

「でもワタシはアナタの事を知らない。」

「アナタ何者なの?どうして姫がアナタとトモダチになりたいなんて言い出すの?」

とうとう僕は胸倉を捕まれ脅されるのだが何の話をしているのか理解できないままだ。

「ちゃんと断るのよ。」

「これから姫がその話をすると思うわ。」

「だから丁寧にお断りしてすぐに帰りなさい。」


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