018
午後の授業が始まる寸前に南室綴が僕に耳打ちするように
「放課後いつものファミレスに集合するわよ。」
別に隠すような事でも無いのにとその時は思っていたが理由があった。
「梢ちゃんにも連絡したから一緒に行くのよ。」
「ワタシ達は少し遅れるけど。」
「いいわね。必ずあの子達と一緒に行くのよ。」
と念を押された。
言われるままその3人とファミレスへ。
「で、何で梢にだけ連絡いくんだ?」
いちばんマト落ち着いているからでしょうね。
「マト?マトってにゃんだマカベキズナ。」
「そうよ。誰より腹黒いこずちゃんがマトモとかあり得ないって。」
腹黒いのですか?
「誰がハラグロ蜘蛛女かっ。よし見ろ。見ろマカベキズナっ。」
「そこの毛深い獣女よりすべっすべでそこのドブ色した雪女より真っ白な美しいバディをっ。」
「ちゃんと処理してるわっ。」
「ドブって何だっ。」
コントが始まったようなのでドリンクバーに行こう。
とするが揃って「逃げるなっ」と掴まれる。
「オマエのために集まってるんだぞっ判ってるのか?」
そうなんですか?でもどうして。
「あのワン公が嬉しそうに「ボスさんピンチですよー」て教えてくれた。」
はい?
「まったく自覚ないの?私達のクラスまでとピリピリしたの伝わってきたのに。」
自覚って何です?
「マカベキズナのクラスに留学生来たでしょ。ヴァンパイアの妹。」
あーはい。兄を追ってきた健気な妹。
「アナタ彼女に何したよのよ。」
と、南室綴が言った。橘結と小室絢も現れた。
何って何もしていませんよ。
本当に心当たりないの?あの時屋上で何していたの?」
えーっとエリクが僕をトモダチだと紹介しただけですよ。
「それでどうしてあんな状況になるのよ。」
あの、あんな状況とかピンチとか何なんです?さっぱり話が見えない。
「紹実ちゃんが心配して話を聞けって言うから呼び出したけどコレじゃあ無駄ね。」
三原先生が?
「保健室の紹実ちゃんが「危険かも」て感じたのよ?それでさつきまで話していたんだから。」
僕が転校生のサーラ・プナイリンナに狙われている?
理由がまるで判らないし気付きもしなかった。
「アナタ見なかったの?彼女の周囲にクラスメイト達が集まっていたでしょ。」
「下手するとその子達からも狙われるのよ?」
どうしてそうなる。
「今日は私達のクラスで済んだけど明日以降広がるかもしれない。」
「あ、判った。」
南室綴の説明に柏木梢が気付く。
「それで私達と一緒に行けって言ったのね。」
「ええ。」
どーゆー事?
「護衛よ。何かあったら守ってもらおうと思って。そのお願いをしようと皆も呼んだの。」
「頼まれるまでもねぇっマカベキズニャはアタシが守るっ。かかってきやがれっ」
学園抗争バトル物になるの?
1人で大丈夫か?家まで送ろうか?等々散々心配されたが
それほどの距離でもなし学校の外だから心配はないよと1人歩いた。
大通りから路地へと入ると、この辺りの住宅地に不似合いの黒く大きな車。
カタギの人は乗らなそうな。多分ロールスロイスだ。
車を見ないように反対車線を歩いた。
すれ違う前に運転席のドアが開き、いかにもな黒いスーツを纏った男が降り、後部座席のドアを開く。
現れたのは、サーラ・プナイリンナ。
「この私を待たせるなんて本当に度胸があるのね。」
相当気が立っているようだが待ち合わせした覚えはない。
「乗りなさい。」
帰りを待っていたのであれば申し訳ないことをした。
と罪滅ぼし的な意味を込めて乗り込んだのが悪かった。
後部座席は広く、運転席とは仕切りで遮られ小さな窓があるだけ。
座り心地は最高だがとても「快適」とは言えない。
サーラ・プナイリンナは顔こそこちら向けないが、ずっと僕に敵意を向ける。
お待たせして申し訳ありません。
「どゔてもいいわ。どうでも良くはないけど今はどうでもいい。」
「狭い車の中で誰が作ったかも判らないようなモノを食べさせられた事なんてどうでもいい。」
車内のコンビニ袋。これか。
何にせよ口を開いてくれたのだからと、間を置かず続けた。
それでその、ご用件をお伺いしてよろしいでしょうか
「正直に答えるのよ。アナタ、兄に何をしたの?」
何って何も。
「正直にって言ったわよね。」
え?はい。トモダチになってくれと言われたのでそうしただけで。
それまで目を合わせなかった彼女が僕を睨む。
怖い。と思うその前に綺麗な瞳に吸い込まれそうになった。
「アナタ人の子でしょ。なのにどうして?」
エーリッキ・プナ入りンナは、妹に危害及ぶ可能性を考慮し隠していた。
それは守られなければならない。
何か適当な理由をでっち上げ説得しなければ。
「アナタがまだ嘘を吐いていないのは判るわ。でも」
その時車が大きく揺れた。
その勢いで彼女は僕に覆い被さる。
「何をしているのっ。」
この状況を作った運転手にではなく、勝手に下敷きにされている僕に文句をぶつけた。
2度3度と車が揺れ、速度が上がる。
「申し訳ありませんお嬢様。」
スピーカーから聞こえたのはそれが最後。
彼女は身を乗り出し仕切りを開こうとスイッチを押す。
静かに開くと同時に風が流れ込む。
砕けたフロントガラス。ぐったりと力なくハンドルに凭れる運転手。
その目の前に電柱。そして蛇。