015
チャイムが鳴ってしまう。
「放課後いつものファミレス行きましょう。」
南室綴が仕切りその場は解散される。
いつものって言われても。あ、僕は誘われていない。
そして放課後。
フィンランドからの留学生エーリッキ・プナイリンナは女子達に囲まれるより速く僕の元に駆け寄り
「ちょっといいかな。」
返事する間もなく強引に腕を取られ教室から連れ出されてしまった。
また連行だ。
屋上には誰もいない。ドアを締めてもまだ僕の腕を離さない。
「キミは何者だ?」
もう笑っていない。怖いくらいだ。でも怒っているわけでは無いと判る。
彼は何を確認したいのだろう。
僕は何者でもない。
「あの日、キミはあの男の正体を掴み、僕が何者なのかも知っている。」
「お姫様と親しく、キャットウーマン達もキミを慕う。そしてあのライカンはキミをボスと呼ぶ。」
「何者でもない?信じられると思う?」
さらに強く握られた腕が痛くて顔を歪めてしまった。
「あ、ゴメン。」
慌てて手を離す彼はきっとイイ奴なのだろう。
本当に僕は何者でも無い。何というか皆が誤解して。僕はそれに巻き込まれただけなんだ。
彼は僕の弁解を聞きながらじっと目の奥を覗き込む。
「キミは真実を伝えている。」
彼は大きく深呼吸をする。何かを諦めたのかとても無念そうな残念そうな。
どうしたの。何かあったの?
キミには昨日助けてもらって、そのお礼だってちゃんとしていない。
頼りないとは思うけど僕に出来る事があるなら
僕の言葉に呆れたのだろうか。彼は笑って
「大丈夫。ボクこそすまなかったね無理やり。」
そんなのはいいよ。君が
「もう行った方がいい。皆が待っているよ。」
彼は屋上のドアを開け僕を追い出す。
待っているって誰が。
どうにも賑やかな隣のクラスの前を通り、カバンを取りに教室に戻ると
橘結、南室綴、小室絢が何故か僕を待っていた。
「用事は済んだのね?」
え?あ、はい。多分。
「それじゃ行きましょう。」
行くって何処へ
「ファミレスに行くって言ったでしょ。」
揃って教室を出る。まだ隣のクラスは賑やかだ。
校庭まで出ると
「ちょうどいいわ。」
南室綴はPDAを取り出す。
「ほら。アナタも出しなさい。」
つい昨日、待ち合わせしているの見られたくないだの一緒に歩くのがイヤだのと
「そうだな連絡先交換しておくか。」
小室絢も取り出し、橘結はカバンの中を漁っている。
「何よガラケーって。」
「まあいいわ赤外線通信で」
「待った。ファミレス行ってからしようぜ。」
「それもそうね。急ぐわよ。」
小室絢と橘結が
「速いよっ。」
と文句を言うくらいの早歩き。ほぼ走っている。
「速くしないと抜け駆けできないでしょ。」
初めてのファミレス。初めてのドリンクバーでもたもたしている間に
取り上げられた僕の携帯電話には3人分の連絡先が登録されていた。
「さてと、あの子達が来る前にコチラの話しだけしておましょう。」
席に着く早々南室綴が仕切り話し始める。
「結論から言うとね、姫とあの3人はトモダチに戻ったわ。」
簡単に言ってのける。
「真壁君。アナタはワタシ達が言えなかった事、」
「ワタシ達から言ってはいけない一言を言ってくれたのね。」
「アナタのその「無知のフリ」に感謝するわ。」
昼休み、宮田杏達は揃って橘結の前に現れる。
「相当ビクビクしてたわよ。」
「マカベキズナはアタシ達を身体を張って守ってくれた。」
「だからアタシ達も身体を張ってアイツのトモダチだと示さないとならない。」
「アイツはアタシ達のトモダチだ。」
「そのトモダチがアンタとトモダチになって欲しいとお願いしてきた。」
「だからっ。」
「アタシ達はアンタとトモダチになってやってもいい。。」
完全に上から目線だったわ。と南室綴が笑う。
「でもそれ聞いていた姫がポロポロ泣き出しちゃって。」
橘結を見ると彼女は恥ずかしそうに俯き、それを小室絢が抱き寄せていた。
「で、姫が杏ちゃんの手を取ろうとしたの。でも彼女一度引っ込めだの。」
「それから恐る恐る。もう猫丸出しよ。チョンて姫の手を触って。」
「その手を姫がギュッて握って、その上に椿ちゃんと梢ちゃんも手を乗せて。」
「姫がずっとありがとうって言いながら泣くものだから」
「3人してワッて姫に抱きついて皆して大泣きして。ちょっとした見世物になってたのよ。」
一息つくように紅茶を啜り、南室綴は続ける。
「あの子達もずっとそうしたかった筈なの。」
「当たり前の話なのに。ワタシはそれを気付かないフリをしていたのね。」
南室綴は目を伏せ言った。
「ワタシ達はずっとアナタのような人を待っていたのよ。」