014
「結と杏達はまあ複雑って言うか面倒な事になっているからなぁ。」
もう1人いたって件なら聞きました。それを承知で知らないフリをして言いました。
胸がチクチクする。
「お前の気持ちは判るよ。」
彼女は、彼女こそ責任を感じていた。
年長者として相談役として僕の母がしたように振る舞っていたのに
悩み苦しんでいた少女を救えず、橘結にその重荷を背負わせてしまった。
どれほど後悔しようとそれを慰めてくれる僕の母もいない。
「まあでもキズナが自分を責める必要は無いと思うぞ。」
今度こそ。と、三原紹実は僕を救おうとしてくれている。
「オマエはオマエにしか出来ないことをしたんだ。」
僕は何もしていない。何も出来ない。何もない。
「纏姉ちゃんだって何も無かったよ。」
僕は母とは違う。
「そんなの当たり前だろ。」
「そーゆー事じゃなくてさ、何もかも上手く立ち回れる奴なんていないって事。」
「かえって胡散臭いわそんな奴。」
それもそうですね。
「キズナはキズナのままでいい。」
「いろいろ小賢しいこと考えてたくさん傷付いてこい。」
「いつでもお姉さまが癒やしてやるから。」
少し引っ掛かるような事を言ってくれるのが嬉しかった。
ありがとうお姉ちゃん。
「ぐわっ。」
「実際言われるととこっ恥ずかしいなぁ。」
彼女はわざとらしくゴホンと咳払いして
「学校では先生と呼びなさい。」
胸にはチクチクした感じは残っているがこれは魔女の魔法でも消さないだろう。
三原先生は
「教室戻れ。さぼり癖付けるな。私に呼ばれていたって言っていから。」
と背中を押して送り出してくれた。
登校2日目で不登校とか僕も望んでいないが
どんな顔して皆と顔を合わせればいいのだろうか。
きっともうお互いに話しをしている筈だ。ああ教室戻りたくない。
保健室にいましたとだけ伝え席に着くと授業はすぐに終わった。
小室絢が慌てるように教室から出るのが見えた。どうでもいい。寝る。
机に伏せようとすると橘結と南室綴が僕の席の前に。帰りたい。
「あの。キズナ君。えっと。」
言葉を探している。僕を傷つけないようにしているのだろうか。
見兼ねた南室綴が口を挟む。
「寝るの待って。今絢ちゃんが呼びに行ったから。」
穏やかなその言い様だが覚悟だけはしておこう。
「で、何処にいたの?」
図書館に行ってそこで寝ちゃって、保健室で寝直してました。
「昨日の疲れが出たのね。大丈夫なの?」
え?はい。
「来ないわね。何やってるのよもう。」
現れない小室絢を迎えに南室綴も教室を出る。
残される橘結。気まずい。
昼休み僕を探していたって。
「あ、うん。」
橘結は言いたい事を整理しているようだ。
少し考え、決意したよう1度キュッと唇を噛みしてから顔を上げる。
「あの、キズナ君。」
はい。
「ありがとう。」
はい?
「昼休みに伝えたくて探していたの。」
ドアに何かぶつかるような大きな音に2人で驚きそちらを見ると
小室絢がどうやら半分しか開いていないドアにぶつかり
さらに机やら椅子やらをドカドカ跳ね飛ばすように橘結に駆け寄り飛びついた。
かなり強く抱きしめている。
「痛いよ絢ちゃん。」
それでもしばらく小室絢は橘結を離さなかった。
何がどうしてこうなった?
その後ろをゆっくりと南室綴が戻る。その背後に宮田杏、栄椿、柏木梢が続く。
「ほら。直接言いなさい。」
南室綴が3人の背中を押す。
「お、おうっ。梢頼む。」
「なっ無理っ。椿ちゃん云ってっ。」
「ひっ。」
何かをなすり合いしている。
「何やってるのよ。姫ですらちゃんと言えたのよ。」
南室綴の言葉にようやく小室絢が反応し
「ですらって何だ綴。失礼だぞ。」
3人は少し離れてまた何やら打ち合わせている。
そして僕の前に3人並び立ち
「せーの」
「マカベキズナ君。アリガトウゴザイマシタ。」
小学生が言わされているような。
「はいよく言えました。」
この人達はさっきから何を言っている?