カシム2
ハルバット領へ転属となったカシムを領主であるマウナ・フォン・ハルバットは心から歓迎した。
王都にて武術大会3連覇という名声、王都で最も麗しいと言われた剣士、そんなカシムを歓迎しない訳が無かった。
しかしカシムは何故か他者との交流を拒み騎士団の中で孤立して行く。
マウナ・フォン・ハルバットはいつしかカシムを騎士団長にとは思っていたが、孤立したカシムを騎士団長とする事は出来なかった。
カシムはその実力から無敗の副団長として騎士団を指揮する事となる。
副団長としてのカシムは可もなく不可もなく無難に勤めて続け、カシムは24歳になった。
武術大会3連覇と言う記録は現在も破られておらず、彼が王国最強と言われる所以となっている。
そんなカシムであったが、オークキングが既に討伐された事を悟った後取った行動は、ハルバット領へ戻るのでも、カミルの街へ向かうのでも無くカミルの街を素通りし魔物の生息する地域へ向かう事だった。
彼の直感が「そこへ向かえ」と訴えたのである。
カシムは魔物の生息地域に辿り着く前に自身の探していた相手を発見する。
ヒナコデスである。
遠く前方を歩くヒナコデスを発見したカシムは、「アイツがオークキングを討伐した」と確信していた。
(見た事も無い派手な鎧、角が3本生えた悪趣味な兜、武器も無し。そして背が低い...女か)
カシムはヒナコデスに気付かれぬ様注意深く尾行する。
実際、王国最強の呼び声高い彼の尾行に気付ける存在は王国内に存在しないのだ。
ヒナコデスがまるで散歩する様に森の奥地へ入って行く姿を見てカシムは驚く。
(森の魔物など相手では無いと言う事か!)
魔物からすれば、人間の女性の匂い程食欲や性欲を誘う物は無く!何の対処もせず突き進むヒナコデスはカシムにとって異端としか思えなかった。
程なくカシムはヒナコデスの目的を悟る。
(ワイバーンを狩る気か...)
遠く空を飛ぶワイバーンの群れをいち早く発見したカシムはそのワイバーンこそがヒナコデスの目的だと直感力で悟ったのである。
(確かにオークキングに勝てるのであればワイバーンも相手にはなるまい、だがワイバーンは空を飛ぶ相手、
どう対処する気だ?)
尾行を続けるカシムの前で遂にヒナコデスの闘いが始まる。
「プロレス流奥義!フランケンシュタイナー!!」
ヒナコデスの雄叫びと共にフランケンシュタイナーがワイバーンに決まる。
その姿を見てカシムは驚愕した。
(何という滑らかな動き!!そして破壊力!!人間にあの様な動きが可能なのか!?
もし俺がアイツと闘うとしてあの奥義とやらは躱せるのか!?)
カシムの直感が「躱せない」事を自身に悟らせる。
(恐らくあの技には派生がある!もし剣でカウンターを取ろうとしても別の入り方で首を挟まれてしまう!
そして首を挟まれたら最後投げられるしか無い!)
カシムがヒナコデスとの闘いに想いを馳せる間にヒナコデスはドラゴンストップを発動させる。
カシムの耳にはドラゴンストップがはっきりと聞こえた。
「我々は殺し合いをウィウィウィタ訳じゃ無い!」
カシムに衝撃が走った。
カシムが今まで求めていた物は一撃必殺のカウンターによる「殺人剣」
しかし今目の前の強者が魔物相手に訴えていたのは殺し合いでは無い闘い言ってみれば「活人剣」
殺し合いでは無い闘いにカシムは心が躍るのを感じる。
しかしカシムの期待を裏切りワイバーン達は集団でヒナコデスを襲おうとしている。
(所詮は魔物か、しかし集団で来られると流石のオークキングキラーも持つまい、援護するか)
そうカシムが考えた矢先、ヒナコデスは毒霧を吹き更に着火爆破させる。
例え宮廷魔術師でも不可能な巨大な爆発、それを見てカシムは叫んでしまう。
「おーー!!」
それは感動の叫び。冷淡と呼ばれたカシムが発した事の無い叫びだった。
ヒナコデスが木々に火が燃え移った事に気付きペットボトルの水を口に含み吹く為マスクを脱ぐ。
「可憐だ.....」
マスクを脱いだヒナコデスの仕草に心を奪われてしまうカシム。
この付近では見ない黒毛のショートカット。大きくそしてよく動く瞳、笑えばとても可愛いと思える大きな口、カシムの心に熱い物が宿った。
「山火事はイヤなんじゃ〜!!」
叫びながら水を吐くヒナコデスを見て涙を流すカシム。
(その通りだ!山火事はダメだ!....浴びたい!あの水を浴びたい!あれは聖水だ!!)
気配を消しつつ燃える木々に近づきヒナコデスの吹くペットボトル水を浴びるカシム。
「ファイヤー!!」
時折聞こえるヒナコデスの「炎よ消えろ」の願いを込めた叫びにカシムも同調してしまう。
「ファイヤー!!」
一通りの消化活動を終えたヒナコデスはいきなり有刺鉄線を生き物の様に操り陣を作り上げる。
(!?一体何を!?)
困惑するカシムに気付かないままヒナコデスは自ら自爆する。
その瞬間、カシムの脳内アドレナリンは最大限に分泌され、吹き飛ぶヒナコデスがスローモーションの様に脳裏に焼き付いた。そしてカシムは叫ぶ。
「うぉーーーー!!!!スゲェー!!!!」
爆発の衝撃で周囲に意識の向かないヒナコデスはもう一度有刺鉄線の陣を作り上げる。
(まさか!?もう一度!?もう一度!?)
感動のあまりヒナコデスに近づこうとするカシム、
突如聞こえる何者かの声「危険です!お下がりください!」立ち止まるカシム。
自爆するヒナコデス。
「うぉーーーー!!!!うぉーーーー!!!!スゲェープロレス流!!!」
両足を大地に叩きつけ興奮を隠せないカシム。
この世界におけるプロレスファン誕生の瞬間であった。




