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異世界フランケンシュタイナー  作者: 雪村宗夫
カミルの街
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ラングの冒険

俺の名前はラング。つい先日までC級冒険者だった。

俺は所謂中堅冒険者で、特に秀でた能力がある訳でも無くこのままC級冒険者として引退し、引退後はギルド職員にでもなれればと考えていた。

ギルド職員になるには余程のコネか、人望が無ければ無理だ。

俺にはコネが無い。だから新人冒険者に指導する事で人望を高めてやると考えていたんだ。


そんな俺の運命を変える出会いが「ヒナコデス」との出会いだ。

初めて会った時、奴は手ぶらで派手な鎧だけを纏っていた。

俺は「頭のおかしい奴」としかヒナコデスを思えなかった。

少し絡んで脅してやろうと考えた俺が正しい選択をしたのか今でも解らない。

俺は叩きのめされ、俺を助けようとした仲間達まで叩きのめされた。

更には所持金を全て奪われ、謎の粘液を飲まされ、俺達の金なのに「奢ってやる」的な感じで酒を無理矢理飲まされた。

「なかった事にしてやる」と言われた瞬間涙が出た。

俺達パーティメンバーはその日から、立ち直るまで暫くの時間が必要だった。

だが落ち込んでばかりはいられない、皆生活があるのだ。

復帰して冒険者ギルドに戻った俺達への視線は冷たかった。

「謎の粘液を飲まされたパーティ」としてあからさまに避けられた。宿に戻って泣いた。

あの日、自信を取り戻すべく絡んだ高貴の娘、高級な服に身を包んだ娘に絡む事で何とか縁を結ぼうと考えた。ヒナコデスだった。


何故そんな服装でギルドに来る!?

理解出来なかった。理解出来ないまま強制的にパーティを組まされた

遠くで仲間達が必死に首を横に振っているのが見えた。

断る事が出来ないまま俺は目頭が熱くなるのを感じた。

ヒナコデスはいきなり「アースドラゴン」を討伐しようと言い出す。

有り得ない。ドラゴンを倒せる人間など居ない。

俺は「遠いから」と何とかヒナコデスを説得する事が出来た。

ヒナコデスは「だったらビッグベア」と言う。

コイツは頭がおかしい。ビッグベアはC級パーティが手を出せる様な代物では無い。

俺は必死にビッグシープ討伐を訴えた。遠くでパーティメンバーが応援してくれているのが見えた。

だがヒナコデスは訳がわからない理屈で無理矢理ビッグベア討伐を決定していた。

遠くでパーティメンバーがうなだれているのが見えた。


街を出て森へ入るとパーティメンバーの狩人ホールがゴブリンの存在を伝えて来た。

ホールは有能な狩人だ、奴に任せておけば無駄な戦いは避けられる。

そう安心した矢先、ヒナコデスは大声で叫び始めやがった。

(アイツ俺達を殺す気か!?)

そう考えた俺達だったが、それが違う事はすぐに理解出来た。

ヒナコデス・フランケンシュタイナーは非常識な強者だったのだ。


ゴブリン達の武器は毒が塗られており、かすり傷さえ致命傷になり兼ねないゴブリンとの接近戦闘は余程の実力者で無ければ不可能だ。

それなのにヒナコデスは素手でゴブリンに立ち向かう。

そして蹴り。あんな鋭い蹴りは見た事が無い!と言うか実際には早すぎて見えない。

吹き飛んだゴブリンと、ヒナコデスの体位で「蹴りを放った」と想像しただけだ。

そしてその威力!一撃だ!あのしぶとい生命力のゴブリンを蹴り一発で絶命させている。

俺達はなんて怪物に絡んでしまったんだ。

そう後悔した矢先、キラービーの群れが襲いかかって来やがった。

正直「終わった」と覚悟を決めていた。


流石にキラービーの群れに勝てる人間は存在しない、これがあの瞬間までの常識だったからだ。

俺達は見た、ヒナコデスが濃い緑色の息を吹きかけるのを。

唯息を吹きかけるだけで大地に落ちていくキラービーの姿を。

「人間じゃねー」

そう呟いた瞬間、目の前が真っ暗になり意識を失ってしまった。

目を覚ますと口の中が棘だらけだ、パーティメンバーの顔を見ると口の周りが緑色に汚れていた。

(又やられた)

諦めの境地か涙は出なかった。

ふと大地を見ると高級素材であるキラービーが数十匹と落ちている。

もうこれだけあれば充分だと幾ら訴えてもヒナコデスはこちらの意見を聞こうとしない。

「ビッグベアに苦しむ人々の為」って、

「ビッグベアは素材を求めてのクエストで困ってる人なんて居ねーよ!」と叫ぶホールの口を塞ぎ 、とりあえず休憩を取ることにした。

休憩中、キラービーをどうやって持ち帰るかメンバーと相談していると、

ヒナコデスが次々とキラービーとゴブリンを吸収して行く。

「喰っている!?」俺のつぶやきにホールが「恐らく空間魔法で収納している」と教えてくれた。

危なかった、恐怖で逃げ出す所だった。

ヒナコデスが食事休憩にと出してきた「おでん」とやらは恐ろしかった。

謎の卵はパーティメンバーの誰もが口にしようとはしなかった。

皆「コンニャク」と言う黒いスライムを食べたが味が無かった。

だが皆「美味しい」と答えた。それ以外の答えは無かった。


それから半刻後、遂にビッグベアに遭遇した時、真のヒナコデスの恐ろしさを知る事になる。

カミルの街でこれまで「ビッグベア討伐クエスト」は誰も手を出さないクエストだった。

ビッグベアは強者であり、B級パーティをもってしても勝てるかどうかは時の運だからだ。

そんなビッグベアに対しヒナコデスが行った行為は平手で叩くだけ。女性がやる張り手を喉元にやっている。所謂ビンタとは逆に叩いてはいるが結局は喉元へのビンタだ。

あり得ない!ここで女子力発揮かよ!

そう思ったがビッグベアの動きが鈍い、もしや効いている??

次の瞬間ヒナコデスはビッグベアの背後に回り、何処にそんな力が有るのかビッグベアを後方に凄い勢いで投げた。

しかも投げた姿勢のままブリッジしつつビッグベアを押さえ込んでいる。

側から見ればビッグベアがあの投げ技一発で絶命しているのは明らかだがヒナコデスはトドメを刺す様に指示してくる。

まさかパーティメンバー全員で倒した事にする気か?!

驚きと感動、この時の気持ちはなかなか言い表す事が出来無い。


無事に街へ帰還しギルドへの報告を済ませると、ヒナコデスは素材を売って手に入れた金貨をメンバー全員に分配してくれた。

ヒナコデス一人で得た素材で有るのに関わらず!

パーティリーダーであった俺はヒナコデスが去った後、ギルドよりビッグベア討伐の報酬としてB級への特別昇格を受ける事が出来た。但しギルドからはヒナコデスとのパーティ担当にも任命されてしまったが。

とりあえずC級冒険者で終わる筈の俺がヒナコデスのお陰でB級冒険者になる事が出来たってわけさ。

これが幸か不幸かはまだ判らないけどな。




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