ヒルダ
カミルの街で冒険者ギルド職員を務めるヒルダはこの年成人したばかりの女性である。
父親がハルバット領で公務に勤めており、18歳の年にその父親の推薦でギルド職員になる事となった。
元々要領が良く、父親譲りの冷静な判断力と母親譲りの美貌が伴う事で、
勤め出して半年後にはカミルの冒険者ギルド職員の中で最も人気のある職員になっていた。
そのカミルの街の冒険者ギルドでは受付カウンターが4つ並んでおり、内1つが「素材買取カウンター」となっていた為、クエストを受ける冒険者達は3つのカウンターに並ぶ事になるのだが、
人気のある職員が担当するカウンターには行列が出来るので、ある意味上司から見れば行列の長さは評価対象となっており、又冒険者達にとっても「応援したい職員」の受付カウンターに並び、行列の長さを競い合う事を一種の娯楽として楽しんでいた。
そんなギルド職員人気ナンバーワンのヒルダであったが、その日の気分は最悪であった。
今日の休みを交代する事で押し付けた「血塗れフランケン」への最初で最期になるはずのE級昇格条件の説明。
それが昨日「血塗れフランケン」がギルドへ来ていない事を聞き、自分が請け負う羽目に会うのではと感じたからである。
(最悪!あの変態女なんで昨日来ないのよ!)
ヒルダは心の中で罵っていたが、冒険者達からは普段通りのヒルダにしか見えなかった。
気分は最悪でも要領の良いヒルダは他人にそれを悟られる事無く業務に勤める事が出来たからである。
突然冒険者ギルド内の雰囲気が豹変する。
ヒルダは「奴」が来た事を悟ってしまう。
ギルドの出入り口には脳天と両耳に角が生えた異形の兜をした派手な鎧の人物が居た。
(あれがヒナコデス・フランケンシュタイナー.....なんと言う非常識)
ヒルダはそう感じたが、危機感はそこまで感じなかった。
何故ならば自身の前には冒険者達の列があり、両隣の同僚達の列の方が待たずに済む為、血塗れフランケンの対応は同僚達が請け負う事になると考えたからである。
(とりあえず関わらずに済むのが救いね)
ヒルダが安心した直後異変が起きる。
ヒルダの前へ並んで居た冒険者達が一人、又一人と去って行くのだ。
(!?何!?何事!?)
ヒルダは混乱したが、答えは簡潔だった。
「血塗れフランケン」から冒険者達は避難したのである。
結果ヒルダの前から行列は消失し、「血塗れフランケン」が悠々とヒルダへ向かい歩いて来る。
ヒルダは一度息を大きく吐くと冷静さを取り戻し笑顔で「血塗れフランケン」を迎えた。
ギルド職員達との会議で決定した「実現不可能な昇格条件」を笑顔で伝えつつ「大抵の方は2ヵ月で昇格されます」と軽く牽制したヒルダ。
(とりあえずノルマはクリアしたわね。後はこの変態が冒険者を諦めてくれれば全て解決よ)
内心では問題を見事に解決出来たと高揚もしていた。
「薬草の納品クエスト、これ手持ちの薬草でも良い?」
ヒナコデス・フランケンシュタイナーのこの質問に「yes」と答えた事をヒルダは後悔する事になる。
突然目の前に叩きつけられた異形の植物。棘だらけで人類を拒否しているとしか思えないその植物はカウンターに叩きつけられる事で中から緑の粘液がもれだしている。
「ひとーつ」
響き渡るヒナコデス・フランケンシュタイナーの声。
(え!?何!?)
ヒルダは混乱した。
「あの、これは」
言葉は叩きつけられた2つ目の植物で遮られてしまう。
「ふたーつ」
(え!?これを薬草と言い張るつもり!?)
更に叩きつけられる植物、棘が辺りに飛散する。
ヒルダの目に遠目に見ていた冒険者の一人の頬に刺さり悶絶したのが見えた。
「みーっつ」
(何もない空間から出してる!?)
「よーっつ」
(え!?え!?)
叩きつけられた謎の植物の粘液はカウンターを滴りヒルダの膝にまで垂れていた。
「いつーつ」
(まさか!?300まで!?私達の企みは解ってるとの脅し!?)
「むーっつ」
「た...タスケ」
「ななーっつ」
ヒルダは涙を流しながら周囲に救いを求めるが、誰もヒルダと目を合わせようとしない。
誰もが「それは薬草じゃ無い」と考えてはいたが、その事を主張すれば「いや薬草だって」と言いながら強制的に飲ませようとする「血塗れフランケン」の姿を容易に思い浮かべる事が出来たからである。
「はちー」
(やっつじゃ無いんだ!?)と感じる余裕は誰にも無かった。
「きゅー」
「ひー!!!!!!」
ヒルダの悲鳴が冒険者ギルドに響き渡ったその時、二階からギルドマスターであるアレキサンドリアが降りて来てフランケンシュタイナーへ言い放った。
「フランケンシュタイナー、二階へ行こうか。カウンターがベトベトだ」
以後職員達はギルドマスターへ絶対の忠誠を誓う事となった。
しかしその日ヒルダの前に冒険者達が並ぶ事は無かった。
謎の粘液に汚れたヒルダに掛ける言葉が無かったからである。




