過去編
街の警備員っぽいヒゲ男が俺に近づくなりコッチへ来いと言ってきた。
もしや違いの判るヒゲ男なのか?
V I P扱いにちょっと嬉しくなって来る。
ヒゲ男から見て有能そうな人間は別口から入るのであろう。
並び始めてからV IPゲート(勝手に命名)に選ばれし勇者達が入って行くのを見ている。
俺も勇者と認めた訳だなヒゲ男よ、なかなか見所のあるヒゲだ。
と考えていたらV IPゲートじゃないぞコッチ、あれ?別室?
なんか個室に連れられてしまった。しかも男3人に囲まれてしまってる。
これはアレだ、俺の美貌にやられたパターンだ。毒霧吹く覚悟はしておこう。
「お前名前は?」
ヒゲ男が名前を聞いて来た。
名前....名前か。
俺の名前は相良日菜子、20歳。
家族や友人からは「ひなこちゃん」とか「ひなっち」と呼ばれていた。
だから俺も自分の事を「俺」ではなく「日菜子」もしくは「ひなっち」と呼んでいた。
家族に「ひなこも食べるよー」「ひなこもお風呂入るー」等 言っていた訳だ。高校1年の夏までは。
高1の夏休み前、教室前で男子生徒達のある会話を聞いてしまった。
「なんか自分の事名前で呼ぶ女子って頭悪そうだよねー」
衝撃が走った。男子生徒に頭悪そうに思われていた。
思えば俺が書いていた日記は
「日菜子は今日映画を観た、面白かった、ポップコーンこぼした。」等と、
一見三人称だが実は一人称という変な感じになっていたのではとその時気付いたのだ。
男子生徒に頭悪そう言われ日記を読み返し、確かに頭悪そうだと同意してしまった屈辱に、俺は自分を名前で呼ぶ事を封印する事にした。
自己を封印する事は苦難に満ちていた。16年間自己を「日菜子」と呼び続けていたのだ、ちょっとしたきっかけでついつい封印は解けてしまう。
此処は過激な一人称に替えてしまおう。そう考えた俺は当時流行の兆しがあった「僕っ娘」
これを進化させた「俺っ娘」に生まれ変わる事にした。
更に進化させた「俺っち」も検討したが、時代がまだ追いついていないと判断し「俺っ娘」になったのだ!
いかんいかん、思わず脳内が過去編になってしまった。
名前かー此処は異世界、日本人の名前とは別れを告げる時が来てしまったのかー。
「名前はなんだと聞いている!!」
「日菜子です!!」
しまった!思わず本名言っちゃったよ。
「ヒナコデスだな」
チガーウ!!!
不味い、マズイ、不味い!!
このままだと、この世界の偉い人に自己紹介する度に「日菜子ですです」言わないといかん!その都度に悶絶する!!
落ち着け俺!巻き返せ俺!
「ヒナコデス・フランケンシュタイナー....俺の生まれた地方では名前を呼ぶのは家族だけだ、フランケンシュタイナーと呼んでくれれば良い。」
切り抜けた!!!クールに決めた!しかも「ヒナコデス・フランケンシュタイナー」
咄嗟に出た割に悪く無いぞ、フランケンシュタイナー伯爵とかになれそう。
「....フランケンシュタイナー、貴様の目的はなんだ?」
ヒゲ男も面白い事聞くなー。目的ねー平穏無事な生活だよなーぶっちゃけ。
でも此処は敢えて言おう。
「おでん革命だ!いしし」
どっかのアニメキャラっぽく笑顔を追加してやったぜ。完璧な美少女だろ?
さっきは敬語無しだったからフレンドリーに攻めてその落差で好感度アップだ!
二十歳を美少女と呼ぶかわからんけど日本人は若く見えるから良いっしょ!
男3人の反応を待つが返事が無い。
しかもコイツら貧乏揺りが酷いな〜、
「おでん食べてみます?」
更に敬語でトドメだぜ!
3人の貧乏揺りが更に酷くなってきた、返事くらいしろよ。
「いや、やめておこう。フランケンシュタイナー、この街には冒険者ギルドがある。そこで是非冒険者として登録して貰いたい。」
3人のうちの一番年配が静かに言ってきた。
冒険者ギルドかーなんかカッコいいなースキル「プロレスラー」強そうだし有りかもな。
「判りました、訪ねてみます。」
V IPゲートの更に上だったのかなー?
俺は待ち時間も短く街に入らせて貰えた。




