燃えろヒナコデス
俺の『元気デスカー』に対する周囲の反応は酷かった。
悲鳴、悲鳴の阿鼻叫喚。さんしがなくて阿鼻叫喚。
えと女性陣、何故泣き叫ぶ?男性陣、何故俺を怯えた目で見つめる?
いやいや、どう考えたって人類の敵はこの爬虫類男の方だよね??
「えと、コイツよ?悪いのコイツ、いきなり剣抜いて襲いかかって来たのもコイツだし、
どう考えても人間じゃないよコイツ」
床に倒れた爬虫類男を指差して周囲に自分は正義の味方だとアピールする。
「ああ、確かにデギン卿が先に剣を抜いていた。デギン卿がご乱心したのは確かだ。責を問われるのはデギン卿であろう。しかしながら人間じゃないと言う差別的な発言は頂けませんな」
えらい高級そうな身なりをしたおっさんが俺に対してクレームをつけてきた。
「いや、コイツ俺の事を殺しに来てたって!大体コイツが人間のふりしてたので判るでしょ!?悪者がどちらかは!」
「ふぅー。又してもリザードマンに対する差別的な発言、その様な前世代的考えが世界を悪い方へと導くのだと何故気付かないのですか!」
貴族に差別について説教喰らってる、てか貴族階級が存在してる時点で差別的社会じゃねーの?
「いやだから知らないよ?リザードマンがどんなのか、でもコイツは明らかに人間のふりしてて正体隠してたんだって!悪者はコイツだって!」
「デギン卿が悪か、それともそうで無いかは関係ありません。今問題なのは貴女の差別的思考が問題なのです!」
「いやでも」
「いやでもではありませんぞ!種別間差別が無駄な戦いを産むと何故理解しないのですか!ごふェッ!?」
おっさんの興奮が頂点に達したと思ったら、いきなり口から血を吹き出した。
「は!?」
おっさんの胸から爬虫類男の腕が生えている。いつのまにか爬虫類男が回復して貴族おっさんの体を素手で突き破ったのだ。床へ崩れ落ちる貴族おっさん、爬虫類男は貴族おっさんの内臓を掴み取り食っていた。
「元気デスカー!!!元気デスカー!!!元気デスカー!!!」
貴族おっさんへ回復スキルをやりつつ体の傷口にサボテンエキスを流し込む。
速さを優先したのでサボテンを割る時に棘が手に刺さったが気にしない。
「クククお前は馬鹿か!元気な訳があるまい!其奴はもう助からん、そして私は食事を食べてすっかり回復したぞ?貴様らを此処で皆殺しに出来る位にな!!」
爬虫類男が呪文を唱えると俺の体は炎に包まれる。
「ククク!死ね!馬鹿な女よ!!」
周囲の動きが慌しくなる、警備兵が5人同時に槍を持ち爬虫類男へ突進していたが爬虫類男の剣技で次々と斬り伏せられている。
「元気デスカー!!!元気デスカー!!!」
警備兵達にも回復スキルを発動させる。熱さは感じ無いが息苦しい。
「へはぁへはぁ」
例の呼吸法をすると息苦しさが収まる。
貴族おっさんの手がピクリと動いた。もう大丈夫な様だ、おっさんの手が俺に近すぎて火傷になっているが死ぬより良いだろう。
おっさんが助かった事で冷静に考える余裕が生まれる。
馬鹿って言ったよ俺の事、邪神さま信仰のくせに!!
ストレスゲージが一気に上昇する。
炎消せよ!!いつまで燃えるんだよ!!効果無いのに気付かないのかよ!!
爬虫類男は燃える俺に背を向けて衛兵隊と交戦している。
ジャーマンだ、この怒りを鎮めるにはジャーマンしか無い。
しかし只のジャーマンで済むと思ったら大間違いだ!
スキルを発動した俺は異次元ポケットからサポーターを取り出して左腕に装着し、サポーターの位置調整を始める。爬虫類男はまだ俺が動ける事に気付いていない。助走を開始!俺の走るスピードで炎が消えていくのが判る、爬虫類男は未だ此方に気付かない。
爬虫類男の後頭部まで後2メートル!もういいや、喉元へのウェスタンラリアットは諦めた、延髄へのウェスタンラリアットだ!!来た来た来た!!踏み込む体が爬虫類男の横へ並ぶと同時に振り抜く左腕!
サポーター部に走る甘美な衝撃、撃ち抜いた快感が、やってやったと言う快感が全身に広がる。
爬虫類男は顔面から床に突っ伏している。
右腕を天に突き上げ叫ぶ。
「ウィーーーー!!!」
あースッキリした!でも未だ終わらせる訳にはいかない。
「今のは燃やされた俺の分....」
床に突っ伏した爬虫類男の腰を両手でロックし強引に引きづり起こす。
「これは馬鹿って呼ばれた俺の分だーー!!!!」
爬虫類男の腰を持ち上げそのままブリッジへ移行、頂点の高さまでは敢えてゆっくりと、
そしてそこから床目掛けて落とす様に!!!ジャーマンスープレックスホールドだ!!!
凄まじい破壊音と共に床がひび割れる。美しいブリッジを決めたまま固定、爬虫類男!!後悔したか!!
警備兵達が集まる。
「ヒナコデスさん!ありがとうございます!!」
「助かりました!!」「ご協力に感謝します!」「後の事はお任せ下さい!」
ブリッジしたまま感謝の言葉を聞く。
もうロック外しても大丈夫かな?
ジャーマンを解除し立ち上がる、爬虫類男は泡を吹いて完全に意識を失っている。
パーティ会場は色々な物が破壊され大変な事になっている。こんな所の清掃はやりたくない。
「もう大丈夫なら帰って良いのかな?」
警備兵の1人に聞く。
「はい!ありがとうございました!後日正式にお礼があると思われますのでこの時に!」
帰れて良かった、下手に残ってたら掃除の仕事を手伝わされる。
俺は軽く挨拶を済ませ会場を後にする。
「あの爬虫類を殺せー!!人間の敵を殺せー!!!」
背後で種族間差別の撤廃を訴えてた貴族おっさんが叫んでた、
人外差別派に鞍替えしたらしいが俺には関係ない。
俺はおっさんの叫びを無視してウェイジェイの屋敷へと帰る事にした。