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異世界フランケンシュタイナー  作者: 雪村宗夫
パーティ対決編
181/256

ラザライオン3

ヒナコデスから「まぁまぁ槍」なる名前で認識されている四天王の槍使いウォーレン・クラーツは、本名をウォーレン・フォン・クラーツと言い、代々騎士団に勤める男爵家の次男として生まれていた。

ウォーレンは10歳年上の兄と二人兄弟で、両親と兄は幼いウォーレンを可愛がり彼は何不自由無く育つ。

武門で成り立っていたクラーツ家の跡取りである兄は厳しく育てられ、彼が18歳の時には貴族学校で大剣同士では無敗を誇っていた。対してウォーレンは兄に遠慮してか決して剣を握ろうとせず、両親は優しいだけで気概の感じられないウォーレンの将来を不安視していた。そんなウォーレンが10歳の時、兄が弟を鍛えるべく剣を用意した時に事件が起きた。ウォーレンは剣の代わりに物干し竿を使い、しかもそれで兄に勝ってしまったのである。実はウォーレンには生まれつき「見切り」と「弱点看破」のスキルが備わっており、兄の攻撃を見切りつつ、弱点を物干し竿で突く事で兄に勝利する事が出来たのである。

この勝負を見ていた両親と10歳年下の弟に敗北した兄はウォーレンの天賦の際に驚きそして喜んだ。

兄は積極的にウォーレンに武の道を勧め、両親は高級な槍をウォーレンに買い与えた。

ウォーレンは両親と兄の期待に応え12歳の時には帝都で最強の槍使いと呼ばれるまでになった。

騎士団に入り家を出た兄は、長期休暇で家に戻る度にウォーレンとの勝負を求め、

それを「まぁまぁ兄さん」と拒むうちに「まぁまぁ」がウォーレンの口癖となる。

ウォーレンが17歳となり、既に兄が家督を継ぎ自身がどう身を立てるか悩んでいた時に彼は2人の男を目撃する。サワーとストレイツォである。

何の気なしに行った帝都武闘大会での決勝戦、サワーとストレイツォの戦いがウォーレンの人生を決定する。自分と歳も変わらない二人の激しい戦い。一見するとサワーの圧倒的な勝利にしか見えない戦いだったが、スキル「見切り」を持つウォーレンにはストレイツォの必死な敗北への足掻きが手に取るように理解出来、そして共感出来た。その日のうちに両親へ冒険者として名を上げてみせると宣言し冒険者ギルドへ冒険者登録をしたウォーレン。数日後にサワーとストレイツォそれぞれと会話する事が出来たが、サワーとは全く会話にならなかった。逆にストレイツォはウォーレンが決勝戦でのストレイツォの気持ちをそこまで理解してくれたのかと感激しウォーレンの実力も判らないままパーティ登録をしてしまう。

だが結果としてウォーレンとストレイツォのパーティは帝都でも最高の攻撃力を持ち、二人の冒険者ランクはどんどん上がって行く。そんな二人と魔物討伐で偶々一緒になったアームドとエクセルが意気投合し4人パーティとなりパーティ名を四天王としてからのウォーレン達は向かう所敵無しで遂にはA級まで上り詰め帝国最強パーティと呼ばれる様になる。


そんなウォーレンがラジャの群れに襲われながら焦りを感じていた。

ラザライオンの痕跡を探していた際に数体のラジャに襲われた時には何も危険は感じていなかったが、ラジャの応援を求める遠吠えに応じて来た群れの数がウォーレンの想定外だったのである。

「くそ!もう20匹はやったぞ!何故減らない!!」

ストレイツォの叫びにウォーレンは不安を増加させながらも表には出さず答える。

「まぁまぁストレイツォさん落ち着いて」

(まずい!なんだこの数は!?マイケルの演奏で盾役のアームドに攻撃を集中させているから保ってはいるが、2人のどちらかが崩れれば終わる!)

そんなウォーレンの焦りや不安を無視する様にラジャの増援が遠吠えと共に現れる。

「ファイアーアロー!!...これってまずいって思ってるでしょウォーレン。安心していいわよ私今まで本気出してなかったから!!」

ウォーレンに宣言するやいなやラジャへ走り込むアスカ。

「何を!?」

ウォーレンの叫びはアスカの右ストレートパンチにより飛ばされるラジャの姿を見て止まってしまう。

アスカの両手には鉄製のベアナックルが装備されていた。

「魔女っ子肉弾戦って意外でしょ!」

アスカはアームドを襲っていたラジャをミドルキックの連打で蹴散らかす。

「アスカ!すげーじゃねーか!」

「ナイスだアスカ!!」

「助かったぞアスカ!」

「アスカサーンスゴイネー」

ストレイツォ達の声にウォーレンも内心で同意する。

(有能な魔道士と思っていたがまさか格闘家とは!これは行ける!)

その時だった、巨大な咆哮が響き渡る。ウォーレンは確認するまでもなくラザライオンの出現を理解した。

(無理だ。終わりだ。なんて事だ、俺がラザライオンなんて言い出したばかりに)

「アスカさん!ストレイツォさん!撤退です!もう無理です!此処は私とアームドさんで時間を稼ぎます!アームドさんすみません付き合って下さい!」

「しょうがないな!帝都に戻ったら酒を奢れよ?」

アームドの答えにウォーレンは内心で謝罪する。

(すみません帝都で奢るのは無理だと思います、あの世があるのならあの世のお酒で許して下さい!)

「何言ってるの!私も戦うわよ!!」

残って戦おうとするアスカを見てウォーレンはストレイツォにアイコンタクトを送る。

それだけでストレイツォはウォーレンの覚悟を理解しアスカを脇に抱えて走り出す。

ストレイツォの突然の動きに一部のラジャが反応して襲いかかろうとするが、マイケルの突然の演奏で攻撃の矛先をマイケルへと変える。マイケルはバイオリン演奏を続けながらラジャの攻撃を躱し続ける。

「マイケル!?」

ウォーレンは驚きのあまり叫んでしまう、犠牲になるのは自分とアームドの2人だけで良い、その想いがウォーレンを叫ばせたのである。

「ウォーレン、ワタシ居た方が、皆ニゲレル」

マイケルの言葉にウォーレンは目頭が熱くなるのを感じる。

「ウォーレン!死ぬな!」

「アームド!新しい羽飾り探しとくぞ!!」

「私はまだ戦えるー!!!!」

パーティメンバーの声を背に聴きながらウォーレンは自身の気力が上がっている事を自覚する。

「さて、ラジャの群れとラザライオン。今日の私は手強いですよ」

そうウォーレンが呟いた瞬間であった。

ラジャの群れにヒナコデスがママチャリで突っ込んで行ったのは。

ヒナコデスのママチャリアタックの衝撃でラジャの群れは混乱に陥る。

「今です!!マイケル!!アームド煙幕!!」

ウォーレンの叫びに反応しマイケルはバイオリン演奏によりラジャの群れの意識をヒナコデスへ向け、アームドは煙幕によりウォーレン達の姿を隠す。

「四天王撤退!!!」

ウォーレンの叫びで全員が逃走する。走るストレイツォに抱えられたアスカがウォーレンに確認する。

「ねぇ、助けないの?」

「引き際を間違えてはいけません、ヒナコデスさんも我々を救う為に理解して突撃してくれたのです。此処で我々が踏み止まる事は彼女の意思を踏み躙る行為になります...」

走りながら悲しげな表情でウォーレンは話し続ける。

「しかし、これだけは言わせて下さい!ヒナコデスさん!貴女の勇気ある行動に敬意を表します!!」

こうしてウォーレン達は無事にラジャの群れから撤退する事が出来た。

ただウォーレンは気付いていない。

ヒナコデスが自分を犠牲に救おうと考えていなかった事に、まさか助けに来た自分を生贄にするとは想像もしていなかった事に、そして自分達がラジャやラザライオンよりも巨大で恐ろしい者を敵に回してしまった事に。



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