魔道士ギルド
程なく魔道士ギルドへ到着する。石で出来た5階建ビルって感じの建物で周囲より一段高い。
入り口の扉も重厚な感じで高級感が漂っている。中へ入ると広いスペースに席があり、如何にも魔法使いな面々が至る所で座りながら談笑していた。正面にはカウンターがあり雰囲気的には銀行か市役所の様な感じだった。冒険者ギルドと違い何処か落ち着いた雰囲気で喧嘩等が起きる感じでは無かった。
俺はこう言う紳士淑女的な場所こそ似合う女性なのである。優雅にカウンターへ赴き受付嬢に尋ねた。
「魔力測定をお願いしたい」
俺の声に周囲の視線が集まる。そして同時にひそひそ話も聴こえて来る。
「おい、なんだあの太もも女、恥ずかしくないのか」
「あの格好で魔道士なのか??」
「魔力測定をあの年で受けるとは、よほどの未開の地から来たと思える」
「あの民族衣装と言い余程の蛮族ですな」
何か酷い言われ様だ。確かにホットパンツは冬に履くものでは無いし俺は脚線美には自信が無い。だからと言ってそこまで言われてしまうとストレスゲージが上がってしまう。
「あの、失礼ですが魔力測定は通常5歳児が受ける様になっていますが今まで測定した事が無いのですか?」
ねーよ。知らねーよそんな五歳児ルール。
「すみません、知りませんでした。測定した事が無いんで」
周囲の篭った笑い声が聞こえる。俺に気を遣い笑いを堪えている様だ。逆に笑ってくれればその代償を払わせるのに、堪えられると俺も堪えるしか無くなる。昨日のパーティ追放と言い今のできこと言い、俺のストレスゲージが変な方向に伸びている感じがする。このモヤモヤ、なんかスッキリしたい。
そう思った瞬間、頭の中に流れるメッセージ。
ヒナコデスのスッキリしたい気持ちを確認。
精神回復スキル「ハッスル」を習得。
おお!何か覚えた!!精神回復スキルだよ!
「それでは此方の水晶玉に手をかざして下さい」
うぉ!?受付嬢との会話が進んでいたのか!!頭の中のメッセージに夢中だったよ!やべえ!
俺は動揺を隠しながら落ち着いて受付嬢に返事をする。
「この水晶玉はどの位の魔力まで測定出来ますか?ハッキリ言って俺の魔力の大きさに水晶玉が耐えられるか心配で」此れはぶっちゃけ本気だ。この世界に来て見た魔法の数々、ぶっちゃけアスカのファイヤーボールマックスだっけかな、アレ俺のビッグファイヤーのが絶対威力あるし熱線レーザーの相手にもならない。
つまり熱線レーザーとビッグファイヤーを魔力を気にせず使える俺は、魔力が桁違いに大きい可能性があるのだ。「問題有りません。この水晶玉は魔力20000まで計測出来ます」
割れるな、これは。魔力20000がどんな数値かは分からないがこれがフラグだとは理解出来る。
俺の膨大な魔力によりこの水晶玉は真っ二つに割れ魔道士ギルドが大騒ぎになり奥の部屋へ通される事になるのだ。む、通された後の展開が読めない。おお凄い人だとモテ期到来なら良いが、水晶玉代金を押し付けられ莫大な借金を背負ってしまうパターンもある。危険かも知れない。
「この水晶玉が俺の魔力に耐えきれず割れてしまった場合の責任は誰が取る?俺は水晶玉代金を払う気は無いぞ?」腰に手をやり水晶を指差して強気の姿勢で交渉をする。
「どうやらヒナコデスさん、魔力が20000を超えているようですよ。ホントですか?」
ナギーの独り言がうるさい。離れていて姿は見えないのに声だけ聴こえて来る。
「ナギーうるさい」
「.....ヒナコデスさん、どうやらこちらの声に気付いたようです」
そら気付くわ!!
「あの、よろしいですか?水晶玉が割れた場合はギルドが保証しますので安心して下さい」
受付嬢が馬鹿にしたような笑い顔で言った。
「言質とった!みんな聞いてたよね!!」
俺が振り返って魔法使い達を見ると皆が苦笑していた。
見てろよお前らビビらせてやる!!
俺は水晶玉に手をかざして気合を入れる。
水晶玉に何やら色が浮かびあがる。横長の黒い長方形に横に二本金色のラインが見える。
まるで断層の様だ。水晶玉に割れる気配は無い、俺の魔力は20000に届いていなかった様だ。
受付嬢が水晶玉の模様と俺の顔を何度も見返している。
「これは〜断層ですか?」
受付嬢に聞いてみる。
「よく解りましたね、これは魔力の断層です。この黒い部分が魔力が0を表していて金色の部分が魔力を示しています。しかし....」
「ヒナコデスさんの魔力は断層のようです」
ナギーの独り言がうるさい。
「では測定結果をお願いします!」
水晶玉は割れなかったけど受付嬢の反応で判る、この断層は良いのだろう。
「あ、ハイ!測定結果は魔力0です、魔力無しですね。しかし良く魔力無しで測定を受けようと思いましたね!?恥ずかしく無いんですか!?」
「0!?なんで!?金色は!?金色の部分は!?」
「は〜、金色の部分は確かに魔力なんですが、全体として黒が占める割合から魔力が0判定になります、貴方スキルか何かで収納魔法を使えるのでは?」
う!?読まれている!!ズバリその通りだ。
「たまに居るんですよ、スキルの収納魔法が容量大きくて勘違いしてしまう方が」
受付嬢の目が完全に俺を見下していた。
「お騒がせしました」
振り返ると魔法使い達が顔を抑え笑いを堪えて居る。
受付嬢が背中から声を掛けて来た。
「水晶玉使用料をまだ頂いておりません!」
その声に吹き出す魔法使い達。
俺は受付嬢に銀貨2枚を支払って魔道士ギルドを出る。
自分がミジメで悲しすぎる。何か運の流れが悪いのかも知れない。
ここは覚えたての精神回復スキル「ハッスル」を試すしか無い。
俺は「ハッスル」を発動した。すると俺の両腕が腰の横でジョギングの感じで動き出す、但し左右揃った動きだ。同時に俺の腰が前後に振られる、両腕が前に行った時腰は後方へ振られ、両腕が後ろに行った時は腰は前に突き出される。「う〜〜、ハッスル!ハッスル!」「ハッスル!ハッスル!」動きと共に叫ぶ俺。
気持ちが良い、確かに精神回復の効果がある。しかし向かいの洋服店内にある鏡に映る俺の姿はホットパンツで腰を振る変態にしか見えなかった。俺は静かにハッスルを止めマホーナに話しかけた。
「次はどこ行く?」