フグリアンクイーン2
蔦のゲートを潜り抜けると其処は体育館位の広い空間で、一番奥に巨大なフグリアンが一匹、そしてその周りには大量の縦長の卵がビッシリと地面から生えている。フグリアンクイーンはデカイ。高さは2mちょっと位しか無いが胴体が長くそして膨らんでいて気持ち悪い。カマキリみたいな体型だ。しかしそれ以上に気になるのはフグリアンクイーンの顔だ。あれはフグの顔では無い、横に伸びたヒレと不気味な目、下から見える変な口、あれは正しく『エイ』だ!!
「行くぞ!」
ストレイツォが掛け声をかけ皆でクイーンに走り込んで行ったが待って欲しい、皆はアレがフグリアンクイーンで良いのか!?アレはエイ・リアンだぞ!?俺は納得いかないよ!?アレをフグリアンと呼ぶのは!?
だいたい〜って戦い始まっちゃったよ。羽飾りの無くなった盾がクイーンに突っ込む、クイーンの体に付いている6本の昆虫型の手が盾男を襲うが盾男は全ての攻撃をガードする。
盾男に攻撃が集中する中、ストレイツォが鎌でクイーンの胴体に斬りかかる。体液が吹き出しているがクイーンに怯む様子は無い。槍男も突きの連打を放って攻撃をしている、もしかしてコイツらカッコいいのか!?そう思った瞬間、クイーンの胸が開き中から多数の長い触手が飛び出してストレイツォ達を襲った。
まるでムチの様にストレイツォ達を攻撃する触手、結構ヤバイかもと焦った時にストレイツォ達の体が光輝く。「ナイス回復タイミングだエクセル!」ストレイツォが叫ぶ。エクセルを見ると例の命乞いポーズをやりながら輝いている、どうやら回復魔法らしい。いきなり俺の側に熱を感じ、そっちを見るとアスカの両手に巨大な炎の玉が回転している。「これでも喰らいなさい!!ファイヤーボールマックス!!」
何がマックスなのか、マックスってダサくないか、そんな俺の疑問を無視してアスカの攻撃はクイーンの顔面へ炸裂する。「くっ!硬いわね!」硬いらしい。激しい戦いの中マイケルの動きが凄い。襲いかかる触手を華麗に回避しながらバイオリン演奏を続けている。その姿は神々しく『カッコいい!』『シビれる!』なのだが、カッコいいだけで何の意味があるのか俺には判らない。しかし皆が「ナイスマイケル」「良いぞマイケル」と言っているから意味があるのだろう。6人パーティでのクイーン戦、観ていて熱くなる位カッコ良い、連携してる感じがあるしこれこそが冒険者なんだろうとも思う。しかしあまりにも良い感じで連携取れてるが故に俺が入る余地が無い。例えるなら大縄跳びで凄い記録作ってる最中のチームに、横からいきなり入れるかという話である。俺にはそんな度胸は無い。基本俺はチームプレイが出来ない女なのだ。戦いは優勢だし俺の出る幕はない、そう思った時気づいてしまう。腹が減っている事に。
よく考えたら今日は何も食ってない。昨日飲みすぎたから起きて直ぐは食欲無くて、そのまま冒険者ギルド行って此処に来てる。そろそろ17時とかだよなきっと、ご飯食べないとダメだよこれ。
問題は何を食べるか、折角の帝都の夜、ここは軽い食事に抑えて本番は21時の居酒屋ディナーだろ!
という事であれば採れたて新鮮フグリアンの姿焼きかな、ホントはフグ刺しが良いけど包丁無いし。
塩は異次元ポケットに有るから塩焼きにして食べよう、ツモ男爵から受け取った日本酒でクイっと軽く一杯、洞窟で飲む酒なんて結構粋なのかもしれないし。
俺は異次元ポケットからフグリアンの死体を取り出す。問題は俺が食べたいのはフグの塩焼きであり、胴体であるリアンの部分が邪魔な事である。耳削ぎチョップで首を落とせるか試すが落とせない。
俺はまずフグリアンの死体にチョークスリーパーを仕掛ける。俺の腕の中で何かが折れる音がする。
料理には下準備が大事なのだ。俺は有刺鉄線釘バットを異次元ポケットから取り出し首の外殻を削り始める。結構硬く中々削り取る事が出来ない。
「クイーンの目が!!」「ヤバイ!!来るぞ!!」「身を守れ!!」「俺が回復する!!」
なんか騒がしいが助けを求められていないので気にしない。
釘バットで外殻を削る、中から黄色の触手がウネウネと飛び出して来る。俺は思った、美味しいかもしれないと。俺は冬になると『ナマコ』を捌いて酒の肴にする。ナマコは包丁で刺された瞬間身が硬直し中から糸状の黄色い内臓が飛び出して来るがコレが珍味というか旨いのだ。ナマコの命を奪った罪悪感などナマコの旨さの前に吹き飛んでしまう。そのナマコの内臓に似た感じなのだ。試しに舐めてみる。
塩の効いたクチュクチュとした面白い食感、これで腹一杯になるのは良く無いが、酒の肴には中々良い。
「クイーンが怒り狂っているぞ!!」「攻撃スピードが倍加した!!きをつけろ!!」
なんか大変そうだけど、こっちはこっちで大変なんだ。
俺は気合を入れて釘バットをフルスイングし、なんとか首をもぎ取る事に成功する。
最早フグリアンでは無く只のフグだ。俺はフグに塩をまぶすとフライパンに乗せビッグファイアーで加熱を始める。「みんな頑張れ!あと少しだ!」「トドメだー!!!」「やったぞーー!!!」
どうやら終わったらしい。こっちもあと少しで焼けそうだ。
「ちょっとヒナコデス!!クイーンの目の前で子供の死体をいたぶるってどう言う神経してるの!?」
「へっ?」
アスカがめっちゃ睨んでいる。俺の鼻腔に香しい焼き魚の匂いが広がる。焼き上がりだ。
「途中からクイーンが怒り狂っていた原因はお前か....」
ストレイツォが冷たい目で俺を見ている。
「まぁまぁ......ストレイツォさん....」
まぁまぁが弱いよ!!もっとまぁまぁ言えよ槍!!
一口食べる、口内に広がるフグリアンの甘さと塩のハーモニー、其処へ迎える日本酒!良い!!フグリアンの塩焼き良い!!
「とりあえず討伐は完了って事で良いよな、帰るぞ!」
なんか皆んな冷たい気がする。
「フグリアン大きいから皆の分あるよ!食べてみない?」
フグリアンの頭はかなり大きく皆で食べても丁度良い位だったので勧めてみる。
「喰うかボケ!!」
返事をしたのはストレイツォのみ、後は皆で無視された。
どうやら俺はこのパーティを追放されたらしい。