ヒナコデス対ウェイジェイ
俺は今ウェイジェイって奴に連れられ、一目で高級と判る品々に囲まれて接待を受けている。
時限装置の爆破後に玉座っぽい所出たら、兵隊達に囲まれたんで毒霧で一掃してたらウェイジェイが名乗りながら近づいて来てご馳走するって言ってきた。正直ウェイジェイの目が詐欺師の目に見えたから相手の出方を伺うつもりで俺に喧嘩売って来たジジイの場所教えろと言ったら案内しやがった。
正直、俺は自分の予想と違う反応をする人間は信用出来ない。
ジジイの家の兵隊を叩きのめし、家を燃やしジジイにローリングクレイドルを掛けてもウェイジェイは涼しい顔で笑っていた。裕福な家庭で育った人間には理解出来ないかも知れないが、傾いた寒い家で育った俺なら判る!ウェイジェイ!コイツは臭い!!悪者の匂いがブンブンするぜーっ!!
テーブルにディッシュカバー?ドーム状の蓋に隠された料理がメイドによって運ばれて来る。
メイドの手が震えているのを俺は見逃さない、何故ならば日本に戻った2ヶ月の間にシャーロック・ホームズの踊る人形事件を最初の方だけ読んだからだ!
ホームズは小さな事から全体を推理する。俺もそう、メイドの震えと対面するウェイジェイの余裕ある表情から推理するのだ!
「ヒナコデス殿、どうぞお食べ下さい」
うおー!!??推理する時間ねーーー!!!あとヒナコデス殿って!!
「あーヒナコデスさんで良いよ、あとコレはやっぱり猿の頭だったりする訳?俺はグロ耐性無いよ?」
「ふはは、ではお言葉に甘えてヒナコデスさん、それは猿の頭ではありませんよ。どうぞ見てみて下さい」
俺の推理、猿の頭はハズレたか。くそー開けるしか無いのか。
俺は恐る恐る蓋を開ける。そこには俺的にカニの王様タラバ蟹の太い足の山が積まれていた。
赤く輝くタラバガニの足!トゲトゲしさが尚の事、身の旨さを想像させる!!
「タラバだ!!!」
「そうタラバです」
俺はウェイジェイの答えを無視して足の殻割りに取り組む。
「ハサミ無いの!?」
俺の問いにメイドがハサミを持って来る、手が震えていて怖い、刃先をコッチにむけんな。
ハサミを奪ってタラバガニと格闘、そして勝利のご褒美!プリップリのタラバ足!!
「ウマーーー!!」
「ヒナコデスさん、こちらの日本酒は大吟醸になります、エルビア王国から取り寄せてあった物です」
大吟醸!!ワイングラスに注がれる大吟醸、まるでフルーツの様な甘い香り、最高だ!
タラバガニの味わいは爽やかに消え、やや甘口のフルーティなそれでいて「米」である事が理解出来る風味が口内に広がる。そして又タラバガニが食べたくなる。
「良い!!良いよ君!!君は解ってる!!ウェイジェイくん!!」
ウェイジェイくんは良い奴だった、悪者の匂いなんて全然しない。するのはフルーティな香りがだけだ。
「タラバガニなんて久しぶりだよー!!」
「タラバガニ?ヒナコデスさん、コレは猛毒タラバグモですよ」
ウェイジェイが笑いながら言った。その表情に俺は一瞬殺意を抱いた。
「ウェイジェイくん...毒グモを食べさせたの?」
俺の本気睨みをウェイジェイは全く気にしていない。
「ヒナコデスさんには耐毒スキルがありますよね?私には2つのスキルがあり、一つが相手のスキルを鑑定する事が出来るんですよ」
毒耐性持ってるからって毒喰わせて良い訳ない。
「んで、もう一つは?」
「もう一つのスキルは『オモテナシ』と言います、相手の喜ぶ物が判るスキルですね、このスキルを駆使して私は領民が何を求めているか知り成功を収めたのですよ。そしてヒナコデスさんにはこの猛毒タラバグモが喜ばれると判ったので用意させました」
「なるほど....」
納得はいかない、けど確かに美味い、つか美味い!大吟醸最高!!
「そかー!気を使わせたねー!!良いよー!良い!ウェイジェイくん良い!」
ウェイジェイくんは良い奴だ!タラバガニなんてなん年ぶりだ?父ちゃんにも食べさせてやりたい。
俺がタラバガニを食べているとメイドが又震えながら料理を運んで来た。
又蓋で中が見えない。俺は推理する、コレは猿の頭だ。
「コレは猿の頭かい?」
「いえいえヒナコデスさん、フグ刺しですよ」
「フグ刺し!!」
フグ刺しと聞いて慌てて蓋を取ると輝く様な薄切りされた白い刺身が並んでいた。
「こちらのポン酢でお食べ下さい」
メイドが震えながらポン酢の小皿を差出す。
「なー、これも毒なのか?」
俺はウェイジェイに確認する。
「ええ、一欠片で致死量の猛毒モンスターですね、しかしそれ以前に生で肉を食べる人間は居ませんよ」
そんなもん客に出すなよ!!しかしフグ刺し輝いているなー、旨そうだなー、一口だけ試しに。
「ウマーーーー!!!淡白でありながらそれでいて奥深く!そしてこの歯応えはエロス!!官能的な食感!!ウーマーイーゾーー!!!」
素晴らしい!!タラバガニ日本酒フグ日本酒タラバガニで無限ループ行ける!!
「お気に召して何より、私のスキル『オモテナシ』の素晴らしさを解ってもらえたら幸いです」
オモテナシ良いねー!!
「そしてヒナコデスさん、行きます。オモテナシ!!!」
一瞬ウェイジェイの目が見開く。
「判りました、今ヒナコデスさんが一番喜ぶ物は骨つき肉とワインの組み合わせです」
「えー?日本酒と魚介類で今最高の気分だから別に肉は要らないけどなー」
「ヒナコデスさん、猛毒タラバグモも猛毒フグリアンも地上に棲む甲殻類モンスターです。魚介類ではありません」
フグリアンって.....。俺何喰わされたんだ??
10分後に出て来た骨つき肉と20年物だと言うワインは過去最高のご馳走だった。