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異世界フランケンシュタイナー  作者: 雪村宗夫
第2部 帝国編
153/256

召喚されし者

相良家の節分はいつの頃からか戦いの場となっている。

戦いの原因は「恵方巻き」にある。

相良家で初めて恵方巻きを食べた日、『食べている間には喋ってはいけない』と言う制約に目を付けた父ちゃんが皆が食べ始めたのを確認すると、いきなり一発ギャグを始めたのだ。

「びょ〜〜ん」鼻に両拳を当て掛け声と共に伸ばす父ちゃんを見た家族全員は恵方巻きを吹き出してしまう。鼻の穴に入った米に苦しむ俺達を無視し恵方巻きを食べ切った父ちゃんが「初代恵方巻きチャンピオン」となった。

俺は翌年、皆が食べ始めるのを見計らい事前に用意したテロップを使って戦いに挑んだが、家族を笑わせる事は出来ず逆に皆から集中攻撃を受け惨敗した。

この年の「恵方巻きチャンピオン」は股間に両手を当て「バナナマン!!」と叫けびつつ両手を広げたお母さんだった。壮絶な下ネタだった。

この年から恵方巻きは心理戦の様相も入り始める。

恵方巻きを食する事を先行し、食べ終えた後に攻撃を仕掛ける先行型。

皆が食べ始めるのを待つ追い込み型。

「何もしませんよ」とアピールしつつ、食するスピードを急激に上げる事で意表を突いた笑いを攻め込む意表型など数多くの戦略が生まれた。

そして今年、俺は先行逃げ切りを選択した。図らずも家族全員が先行逃げ切りを選択している。

先行逃げ切りの場合は食べるスピード勝負になるが慌てすぎると逆に可笑しくなって自爆し吹いてしまう。

平常心で速度を維持しつつ食べるのがコツだ。つまり恵方巻きの基本に戻るのだ!無心で食べる、それだけだ!今年こそ俺が『恵方巻きチャンピオン』になってみせる!

俺は恵方巻きの味に意識を向ける。思えば今年程「恵方巻き」の味に集中した事は無かった。

皆が一心に同じ方角を見て恵方巻きを食べている。足元には4匹の猫がまとわりついている。今年1匹家に紛れ込んで来て増えてしまった。

恵方巻きはまだまだ長い、そう思った瞬間だった。

俺の見ていた今年の方角にあった本棚がいきなり禿げたヒゲの王様に変わってしまった。

禿げたヒゲの王様、完全に笑わせに来ている。しかし長年の戦いは俺のメンタルを鍛えていた。

俺は禿げヒゲ王様を無視して恵方巻きを食べる。赤いマントと抱えた王冠、王冠で禿げ隠せよ。

俺は食べながら禿げヒゲ王様を睨む事で笑いを堪える。

「余がベイラー八世である!勇者よ!汝は武力の者か?智力の者か?」

禿げヒゲ王様が低い声で話し掛けてくる。ヤバイ吹きそうだ。

俺は必死に堪えて恵方巻きを食べる、その時俺の口内に異変が生じる。この感じは...わさびトラップだ!!

父ちゃんがわさびトラップを仕掛けてやがった!クソ!!恵方巻きチャンピオンに誇りは無いのか!?

鼻に走るわさびの刺激、今年の恵方巻きはノールールデスマッチだったのか!道理で父ちゃんが大人しいと思っていた!!

「余の問いに答えよ!!」

うっせー禿げ!!こっちは必死なんだ!!食い終わるまで待て!!

俺は右手で王様を制する。トランキーロ焦るなよと。

わさびトラップを切り抜け残り僅か!行ける!!

俺は口内に残り全ての恵方巻きを放り込む。モグモグタイムだ!!

モグモグタイムしながら周囲を見回す、槍を持った騎士や偉そうな「ザ・貴族」がうようよ居る。

どうやら俺は又変な所へ来たらしい。

モグモグしている俺の頭の中に響くメッセージ。


魔力を探知、現在リュックを所持して居ない為リュックの能力をホットパンツのポケットに移行しました。


俺は脳内アナウンスで思い出した。美脚アピールで笑いを取ろうと寒い中裸足でホットパンツを履いていた事を。

俺はホットパンツのポケットからブーツを取り出して履く、ホットパンツとロングブーツの組み合わせは悪くは無い筈だ。

「余の問いを無視するか!!」

「うっせー禿げ!!」

あっ心の声が口から出ちゃった。ちょっとマズイかもしれない!!

「失礼しました。問いが何なのか聞いておりませんでしたので、ワンモアチャンスワンモアタイム、もう一度言ってくださいプリーズ」

英語を混ぜて対白人対応型丁寧語で応対した、あーでもこの世界の人にはどう伝わるのかな英語って。

「陛下は勇者殿が武力の者か智力の者かを問いておられる、答えよ勇者殿」

右手の偉そうな40歳位のイケメンオッさんが代わりに答えてくれた。

勇者?俺は勇者なんかじゃない。勇者とは多分勇気がある奴の事だ。ゾンビを斬る事が出来るグロ耐性がある奴の事だ。俺はお化け屋敷には入れないしホラー映画も見る事が出来ないグロ耐性の無い女の子なのだ。

今年の9月で21歳になるが女の子で未だ行けるのか不明だが。因みに彼氏居ない歴も同じ年月だ。

身長160センチ、体重53キロ、少し細くなって胴体がくびれている。胸は有るが足は長く無い。

160センチでホットパンツのブーツか...。いやいやそうじゃ無い、質問に答えなければ。

カッコいい感じで余裕ある所を見せよう。

「フッ!人に物を尋ねる前に名を名乗ったらどうだ。俺の名はヒナコデス!人呼んでヒナコデス・フランケンシュタイナーだ!!」

俺がカッコ良くボーズを決めようと前進し屈もうとした瞬間、見えない壁に額をぶつけ悶絶する。

「ククク!愚か者め!その場は召喚すると共に召喚された者を封ずる役目を負っておる。

そして従属の魔法を受け入れぬ限り貴様は其処から出る事は出来ぬ!!」

左の白髪ジジイが嘲笑しながら俺を指差した。

ハイこいつら敵決定。女勇者を奴隷にするなんて!なんてエロい!!俺はエロいのは好きだが自分がやられるとなると話しは変わる。

「おいジジイ、今出せば許してやる。早く出せ」

「黙れ愚か者!精々足掻くが良い!2日後に従属するかどうか返事を貰おうかの」

あーあー折角の好意を。

俺は周囲を確認する。4本の石柱に俺は囲まれており、これが俺を封じているのであろう。

ホットパンツのポケットから有刺鉄線電流爆破装置を取り出す。

有刺鉄線は生き物の様に伸びて行くが見えない壁に当たって方向を逸らされる。

そっかー、有刺鉄線は通らないのかー。熱線レーザーやるか毒霧大爆破するか、でも有刺鉄線のリング作る気持ちってこの程度だったんだなー。

そう思った瞬間、有刺鉄線が金色に輝き石柱目掛けて凄まじい速度で突撃する。

有刺鉄線は石柱を貫通し正方形のリングを作り上げる。

「な!?」「馬鹿な!?」「あり得ん!?」

周囲の奴らが驚いた声をあげているが奴らは勘違いをしている。

驚くべきはこれからなのだ。有刺鉄線電流爆破装置に時限爆破装置を追加する。時間は3分で良いや。

「3分やろう、選択肢は二つ。一つ俺を出す、勿論出した後にはお仕置きタイムだ。二つ全員此処から逃げる。まーお仕置きタイムは無いけどこの場は消失するな。ほらあと2分だぞ?」

「危険です!!お下がり下さい!!」

周囲に響くアナウンス。

「分かった!!解放する!!許して欲しい!!」

王様が叫んだ、そして思い出した。この装置は爆破しないと回収出来ない事を、そして止める手段が無かった事を。俺は冷や汗をかきつつ王様を無視する事にした。俺の耳には聞こえていないのだ!

「さぁどうする!?俺を解放するか!?それとも逃げるか!?」

「解放した!!もう解放したんだ!!」

ジジイが叫んでる、石柱も有刺鉄線に貫かれた1本以外は地面に倒れた。おそらく本当に解放したんだろう。

しかし俺はジジイと逆方向を向いて言った。「あと1分!もう逃げないとお前ら死ぬぞ?」

俺の耳にはジジイの声が小さく聞き取れなかったのだ!

「残り1分!!残り1分!!お逃げ下さい!!お逃げ下さい!!」

アナウンス音声に人々が勢い良く逃げ始める、完全にパニックだ。

王様が王座の後ろにある隠し扉に消えていった。

「残り30秒!残り30秒!」

周囲に人影は無くなった事を確認すると俺はダッシュで玉座の後ろの隠し扉へ向かい壁を押す。

「残り10秒!残り10秒!」

隠し扉は開く事が無く、俺は大爆破に巻き込まれる。

爆風を感じながら思った、耐熱スキルあって良かったと。


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