ロウジーの決意
敵のボスらしき魔族を一撃で倒したヒナコデスは皆へ叫んだ。
「元気デスカー!!」
魔族。つまりは昆虫系魔物の合成された元マリーンドルフ領の人間だったあろう者に体の一部を食されてしまっていて命の危機にあった兵士達はヒナコデスの範囲回復スキルにより一命を取り留め、ウェックスのカミルポーションにより完全回復する。
兵士達にとっては範囲回復スキルの効果で助かった事は知りようも無く、ウェックスこそが一介の商人でありながら危険を顧みず命がけで自身を救ってくれた英雄であり、この一件によりウェックスは「英雄商人」の名で呼ばれる事となる。
「よし!もっと前進して兵士達を助けよう!」
ヒナコデスの掛け声に対し周囲の反応は無かった。
「ヒナコデスさん、後はウェックスさんとセイゴードンさんにお任せして私達は一旦ロビンソンさんの所へ戻りましょう」
カシムの言葉に首を傾げるヒナコデス。
「ん?俺の回復スキル、この先の兵士達にも結構使えると思うよ?」
ヒナコデスの疑問にキージーが答える。
「師匠、私の気配察知スキルによると最早この先に敵は居ません!完全なる勝利です!
ですから師匠は本陣にお戻り下さい」
「あー、そうなんだ。んじゃウェックス後よろしくね!」
「任せて下さいヒナコデスさん」
ウェックスが軽くヒナコデスにお辞儀をする。
「んじゃ帰ろうぜマシンレディ」
ヒナコデスに呼ばれたマシンレディは一瞬その言葉に震えた。
マシンレディ即ち、ロウジー・フォン・エルビアは理解していた。この先に生き延びた兵士が居ない事を。
仲間達がヒナコデスに気を使い死者の姿を見せない様にしている事を。
これまでの交流で皆が理解していた。ヒナコデスがアホである事を。しかし同時に思う事がある、
『アホな人間』とは『優しい人間』なのだと、そして『殺し合い』とは無縁の人間である事を。
ヒナコデスには『アホ』のままでいて欲しい、殺し合いや憎しみとは関わり合わないで欲しい、そんな思いで皆がヒナコデスを本陣へ帰そうとしている事を。
そしてロウジーは思う、『私もアホになりたい』と。
仮面を被り、ガガガギギギとしか話さない事がなんと楽しかった事か。このままヒナコデスと供に本陣へ帰り、ヒナコデスと馬鹿な話を楽しむ事が出来たらどんなに幸せか。
しかしロウジーは目を閉じ思い起こす。
この先に倒れた兵士達は自身を王位へと願い命を散らせた人達なのだと、その者達の死に顔を無視して許される訳が無いのだと、この道を進む責務があるのだと、そうロウジーは心を定め、白い仮面を顔から外し額まで上げヒナコデスに答える。
「すまないヒナコデス、私にはこの道の先を確認する責務があるんだ。もうお前とは一緒に行け無いんだ」
「ん?何それ?なんか重いよ?まー良いや、んじゃ俺先に帰る」
「あぁ待ってくださいヒナコデスさん移動用装備に着替えますから」
「なんだよカシム、又変な装備するんじゃ無いだろうなーってそれスケボー!?って空飛んでねー!?てか何故赤いライフジャケット!?」
二人のやりとりを見ながらロウジーは呟く。「カシム、気を使わせてしまいましたね....」
ヒナコデスと供にカシムとマールンが戻り、他のメンバーは死者の埋葬の為に残る。
先行していた部隊の内、救う事が出来たのは3割に過ぎなかった。
残りの7割は無残に食い千切られ、見るに耐えかねる有様であったが、ロウジー達は犠牲者を全て埋葬していった。
ロウジー達は今回の魔族との戦いでそれぞれ魔族を撃破してはいたが、共通して各々が感じていた事が一つあった。それは『何らかのヒナコデスの支援スキルが働いていたのでは無いか』と言う物であった。
戦った魔族達の装甲は厚くそして硬く、とても通常の状態では刃物が通るとは思えない、しかし今日は敵を圧倒する事が出来た。なんの理由も無しにそんな事が出来る筈が無い、やはりヒナコデスの範囲スキルの効果であろう。そう感じていたのである。
実際、ヒナコデスの攻撃力向上支援スキル「ダー!」は、本人が無意識で発する「ダー」によっても発動していた為、「どっちの方角 ダー」や「ダンシング だー!!」により重ね掛けの効果があった事は事実である。
埋葬を終え本陣に戻ったロウジーはロビンソンと意見を交わす。
恐らくヒナコデスの支援スキル無しに魔族に勝つ事は出来ない、そして正面から戦っても勝つ事は出来ないと。二人は長い時間話し合い結論を出す。それは主力を囮とした全面攻勢を行い、手薄となった主城へヒナコデスと一精鋭部隊が突入し魔王の首を取るという作戦案であった。
ロウジーとロビンソンはヒナコデスを呼び出しその旨を伝える。
ヒナコデスは答えた。
「えー!?それって魔王の城に単身乗り込む勇者じゃん!!俺は勇者じゃなくて軍師よ!?」
ここに来て尚軍師に拘るヒナコデスであった。