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異世界フランケンシュタイナー  作者: 雪村宗夫
動乱
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王都会議2

ゴールズ・フォン・エルビアの子であるオーガス・フォン・エルビア5歳こそを時期国王へと考えていたフェールズ公爵派閥の貴族達にとって、近頃王都で新型ポーションや格安の塩で話題に上がるカミルの街で前王弟であるシールズ・フォン・エルビアの娘として名乗りを上げたロウジーの存在は無視出来る物では無かった。貴族間ではカミルの街が短期間で莫大な資金を手に入れた事とロウジーの決起軍蜂起は無関係では無く、対魔族の戦いの後に起こるであろう後継者争いに向けフェールズ公爵派として一本化する事が大事との認識が広まっていたのである。ハルバット領の全てがロウジーに付いたとしても精々3000人にも満たない戦力であり、その程度で有れば何の問題も無い筈であった。

しかし事態は急変する。フェールズ公爵派であった筈のリーチ男爵が決起軍に参加、リーチ男爵に説得された中小の貴族達が続々と決起軍に参加表明し、その兵力は8000人にまで膨れ上がる。

「リーチ男爵は何を考えているのだ!!」「所詮は平民上がり、偶々勇者と共に居ただけの血筋よ!」

貴族達の間ではリーチ男爵への罵倒が交わされ、更には勇者タカハシとその仲間達にまで及んだ。まさかリーチ男爵がヒナコデスに無理矢理部下にされたとは思いもしなかったのである。

フェールズ公爵も当初は軽く見ていた決起軍であったが此処に至っては魔族と同等にまで危険視していた。

「だが所詮は寄せ集め、会議にて決起軍を威圧し中小の貴族を此方へ引き入れれば後は何とでもなる」

フェールズ公爵はそう結論付け王都会議へと向かう。


王都会議ではテーブルを挟みフェールズ公爵派と決起軍側が向かい合う形で席が用意され、フェールズ公爵派の間には「決起軍を威圧し力の差を見せつけ公爵派への転身を図るようにする事」が会議の目的とされ、対魔族に関しての発言は個人の判断に任せるとの指示が入る。

戦力比で言えば8000人と言う数字は無視は出来ないがフェールズ公爵派の総数で言えば半数以下であり、

しかも会議での舌戦で有ればと貴族達には余裕が生まれる。

「さて、どの様な田舎者が現れる事やら」「何も解らぬ小娘に礼儀を教えてやるとしますか」

決起軍を待つ貴族達は紅茶を飲みつつ談笑していた。

「ロウジー様入られます」

警備の者の宣言と共に扉が開かれ、ロウジーを先頭に決起軍の主要メンバーが入って来たが、貴族達の視線はロウジーでは無く3人目に入って来た女性に釘付けであった、ヒナコデスである。


ヒナコデスはルチャ装備をしており、マスクこそ外していたが見た事も無い素材で出来た、見た事も無い派手な鎧を装着した、一見美人だがよく見たら歯が出て半笑いのアホ顔はそれだけで注目の的だったが、ヒナコデスは既に日本酒を飲んでおり、千鳥足でフラフラと歩いていて誰の目から見ても酔っ払いであった。

(なんだあのアホは!?酒を飲んで貴族達の参加する王都会議に出るのか!?しかも席順で決起軍のNo.3?

どうなっているのだ決起軍は!?大丈夫なのか!?)

貴族達の中にはヒナコデスの存在によって潜在的な敵である筈の決起軍の心配をしてしまう程ヒナコデスは酔っていた。

一度はヒナコデスの存在に動揺し、本来の目的をも忘れかけた貴族達であったが、

フェールズ公爵の「そろそろ会議を始めるとしよう」との言葉に心を落ち着かせ、

異端であるヒナコデスは無視する事にし当初の予定通り決起軍の揺さぶりにかかる。

「決起軍の参加自体は問題はありませんが指揮系統の一本化は必要なのではありませんか?」

「決起軍はあくまでもロウジー様の軍、どなたかの下に入るつもりはありませんな」

「貴殿がロウジー殿に貴族に取り立てられたロビンソンとやらか、

爵位も無い者があまり大きな声で囀るな」

徐々に熱くなる会議、予定通りの展開であり貴族達は此処から決起軍の結束を崩していく計画であった。

「ツモ男爵!このゲソのスルメと生牡蠣最高!日本酒に合う!!」

「ヒナコデス様、お声を小さく!あと生牡蠣ではありません、生ヒルですよ」

「....生ヒル〜?」

突如響くヒナコデスの声、貴族達は一瞬止まってしまう。

(会議中でも飲み始めた!しかもツマミ用意してるぞ!?ってデビルヒルじゃないか!!)

(あの武闘派のツモ男爵が!まるで執事では無いか!?ってデビルヒルを喰わせて毒殺しようと??)

(デビルヒルを生で食べているのか!?死ぬぞ!?化け物か!!)

デビルヒルは沼地に潜みありとあらゆる魔物の生き血を吸うモンスターで、その体液は猛毒を含み毒殺や毒矢に用いられている。そんなデビルヒルは見た目からも、そして人間も魔物と同等に血を吸われる為モンスターとしても広く知られ忌み嫌われていた。そんなデビルヒルを生で食べているヒナコデスを貴族達は恐れた。

「そもそもロウジー殿に王家の血が流れているのかも怪しいものですな」

フェールズ公爵の声で我に帰る貴族達、その手は握られ額には汗が滲んでいた。

「まったくですぞ」「まぁまぁ、今は魔族との戦いが肝要、まずは其処から」

余裕ある声を出しつつ公爵に追唱した貴族達も声が震える事を抑えるのに必死であった。

「ツモ男爵君、生ヒルのお代わりを」

「かしこまりました」

(デビルヒルをまだ食べるのか!?)

(致死量って何!?)

(助けてー!ママー!!)

動揺したフェールズ公爵派の小貴族を落ち着かせる為、フェールズ公爵派の中堅貴族達がヒナコデスを視線で追いつつ発言する。

「ゼブル侯爵領への侵攻は未だ始まっておりませんが、魔都での我が軍の敗北で判る通り一刻も早いゼブル領への援軍が必要なのです、後継者に関する事はこの際後回しに...」

「緊急時だからこそ後の憂いを解決しておきたいのだがな」

発言はしたものの、アレが居る限り最早決起軍の切り崩しは無理だと諦めかけた時、一人の貴族が叫ぶ。

「おい!貴様!先程より何をやっている!」

(何と言う勇気ある行動!)

(アレに関わって大丈夫なのか!?)

(デビルヒルを勧められたらどうするんだ!?)

(助けてー!マーマー!)

「貴様の事だ!!」

(まだ行くのか!?もう充分だ!お前は良くやった!!)

(死ぬ!死ぬー!!)

(助けてー!マーマー!)

「女!!私を愚弄しているのか!!!」

ヒナコデスを弾劾する貴族は意識を張りすぎて焦点が合っておらず自分でも何を言っているのかわかっていなかった。

「決起軍軍師日菜子です、一つ言わせて頂きたい」

「なんだ!?言ってみろ!!」

「事件は会議室で起きてるんじゃ無い!!戦場で起きてるんだ!!」

「貴様ーー!!!ふざけているのか!!もう一度言ってみろ!!」

「事件は会議室で起きてるんじゃ無い!前線で起きてるんだ!」


(ヤバい!アレはヤバい!決起軍に参加した貴族達の気持ちがわかった!アレには逆らえる訳が無い!)

(お前は良くやった!あとはゆっくり休め!!)

ククク!無能な輩が集まって無駄な会議を延々と」

突如、窓が割れ人々を愚弄する声が響く、貴族達が外を見ると空を飛びながら会議室を見下ろす一体の魔族が笑っていた。

「アイスアロー!!!」

その魔族へ冒険者代表の一人として会議に出席していたムートンが先制攻撃を仕掛ける。

しかしムートンの魔法である氷の矢は、魔物の体に届く前に蒸発して行く。

「ククク!A級ムートンのアイスアローとはこの程度か!最早相手にもならんな、貴様ら全員消し炭にしてやろう」

魔族は両手を空に広げメガファイアーの呪文を唱え始める。

「皆んな逃げろ!!アイスウォールで被害を最小限に食い止める!!」

ムートンが氷の盾を形成しメガファイアに対抗しようと試みるが魔物のメガファイアーは更に巨大化して行く。(これ程までの魔力を持つとは!!)

ムートンは自身の能力により魔都へ潜入した際に魔族の実力を把握したつもりであったが、その力が戦闘時に倍増するとは思いもよらなかったのである。


「ククク!そろそろ神へ祈るが良い!!」

魔族が両手を大きく振り下ろそうとし、ムートンが自身が無事には済まない事を理解したその時、ヒナコデスがペットボトル水を口から飛ばし魔族のメガファイアーを消火する。

(な!?)

(え??)

(は??)

アイスウォールで防御壁を作っていたムートンも、最早逃げられないと諦めていた貴族達も、そして消火された魔族も一同に驚く。

「事件は会議室で起きてるんじゃ無い!前線で起きてるんだ!」

(化け物だ!メガファイアーが水で消える訳無いだろ!!)

(夢か!?これは夢なのか!?)

(助けてー!マーマー!)


「きっ!?貴様!!」

「鳥!!俺は言ったぞ!?事件は前線だと!!またぐなよ?其処から此処にまたいで入るなよ?」

「貴様!!魔王軍突撃部隊隊長の私を!!!」

「またぐなよ?またぐなよ??」

「貴様!名前は!!」

「またぐなよ?」

「マタグナヨ!覚えておこう!!」

ヒナコデスと魔族のやりとりに呆気に取られる貴族達。

「転移しやがった....」

ムートンの一言で魔族が立ち去った事を理解し安堵する貴族達だったがヒナコデスの言葉により再び恐怖へと叩き込まれる。

「ね?事件は会議室で起きてなかったでしょ?」

笑顔で語るヒナコデスには魔族を撃退した気負い等感じられ無い。まるで幼児を宥めた程度の雰囲気である。貴族達は理解する、決起軍とは結局コイツだと、ロウジーは王位を継ぐ為に悪魔と契約したのだと。

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