恐怖
暗黒騎士No.2はNo.5とNo.6を率い、強者を探していたが見つける事が出来ずに街の外れまで来てしまっていた。
「戻るか」
そう呟き振り返るNo.2の目に、暗黒騎士が遠くの方から此方へ駆け込んで来る姿が見えた。
「なんだアイツは!?」
距離が近づくにつれ判ったのは、必死になって走っている事。
しかしフルプレートが故に当然遅い、暗黒騎士団の証とも言えるクレイモアも持たずに必死で走る姿は滑稽でもありNo.5とNo.6は吹き出してしまう。
「アイツは何をやってるんだ」
No.2だけが「暗黒騎士団としてあるべき姿では無い」と憤りを感じてはいたが表には出さずにいた。
強者を探して対峙するという命令を受け、適度な緊張感を持っていた三人の空気が緩んだその時気付いた。
此方へ来る暗黒騎士の後方から異常な速度で迫る人間の存在に。
「アレから逃げている?」
逃げる暗黒騎士と追跡者の距離が縮まると共に見えてくる追跡者の姿に三人は絶句する。
追跡者は白い仮面を被り、金の縦ロールをなびかせ右腕を振り上げたまま走る女性であったのだ。
「なんだアレは!!」
誰も言わなかったが三人の脳裏に浮かぶ考えは一致していた。
既に残りの二人はアレに倒され、その間に逃げた距離を今潰されようとしている。
そう考えたのであった。
必死で三人に救いを求めようと手を伸ばしながら逃げ込んでいた暗黒騎士が、仮面女の気配感じ振り返る。
仮面女との距離が想像以上だったのか、3人から見て暗黒騎士の必死さが増す。
「頑張れ!こっちだ!」
「もうちょっと!あと少し!」
三人は想像を超えた光景に、迎撃し援護するという考えが浮かばない。
まるで物語を読み聞かせられている気分になっていた。
暗黒騎士が此方へ両手を伸ばし救いを求めた瞬間、仮面女の右腕が暗黒騎士の首を後方から襲う。
顔面を大地に叩き付け一回転して倒れ込む暗黒騎士、倒れた暗黒騎士をひたすら踏み付ける仮面女。
「な!?」
ガツガツと踏みつけられる音により我にかえる三人の暗黒騎士。
助けに行かねばと一歩踏み出そうとしたその瞬間、今まで倒れた相手を踏み続けていた仮面女が此方へ顔を向ける。
恐怖を感じる三人、膝が震え鎧がカチャカチャと音を立てた。
仮面女=マシンレディが走り出す、恐怖を打ち消す為なのかそれとも恐怖のあまりかNo.5が迎撃へと走る。
「No.5!!」
No.6もパニックが伝染したかの様に迎撃へ走り出す、No.2だけが動けないでいた。
No.5の振り下ろしたクレイモアをマシンレディは右腕のラリアットで弾き飛ばす、
その衝撃で膝をつくNo.5。
「立てコラ!」
No.5の顔面に入れられるストンピングの連打。
No.5は地面にめり込んで行く。
聞こえたマシンレディの声と矛盾した行動に、No.6は悲鳴を上げながら斬りかかる。
マシンレディはその一振りを躱すと剣を振った勢いで前のめり気味だったNo.6の兜を脇に抱え持ち上げる。
ブレーンバスターである。
「馬鹿な!?」
No.2は思わず叫ぶ。フルプレートは成人女性と同等の重量であり、フルプレートを装備した男を逆さに持ち上げる事などあり得ない、だがそんなあり得ない筈の光景が目の前で繰り広げられたからである。
大地に叩きつけられるNo.6、ブレーンバスターはやや垂直落下式であった。
No.6の四肢が痙攣しているのが見えたNo.2はマシンレディに背を向け走り出す、逃走を選択したのである。
「無理だ!バケモノだ!勝てる訳が無い!」
つい先程「暗黒騎士団としてあるべき姿では無い」と断じた姿を実践する事になったNo.2は、
走り出すと直ぐに理解してしまう。クレイモアが重い事に。
暗黒騎士団の証であるクレイモアは逃走するNo.2にとって枷でしか無かった。
「邪魔だ!」
クレイモアを投げ捨て必死で走るNo.2の耳に異音が聞こえて来る。
「へはぁ!へはぁ!」
振り返るのが恐ろしい!
「へはぁ!へはぁ!へはぁ!」
異音が近づく。振り返って見た方が良いのか!?
「へはぁ!へはぁ!へはぁ!へはぁ!へはあ!!!!!」
恐怖のあまり振り返ってしまうNo.2、No.2の兜とマシンレディ仮面がぶつかり合い高い音を立てる。
「ヒッ!!!」
次の瞬間No.2の足は大地から離れる、意識は逃げ続けていたが故に空を走り続けるNo.2の足。
マシンレディのバックドロップである。
No.2の背中に激しい痛みと衝撃が走る、その影響で呼吸が上手く出来ていない。
「立てコラ!」
顔面、胸、腹、次々と踏まれNo.2は必死に身を守ろうとうつ伏せになろうとする。
しかしNo.2は直ぐに理解する、自力でうつ伏せになったのでは無くマシンレディに足を取られ強引にうつ伏せにされた事を。
「痛い!痛い!痛い!」
足と腰、そして背中に走る激痛、フルプレートが強引に曲げられ異音がする。
息が出来無い!!
「タスケテ...」
No.2が意識を失う前の最後の言葉であった。