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マンホールタウンin八王子  作者: たこの吸出し
4/5

八王子③

連れてこられた家は意外にも木造平屋の日本家屋だった。


庭もあり綺麗に植木が刈り込まれているのが外からでも分かる。

大きな門扉が自動で開くと、玄関まで鉄平石のアプローチがひかれ砂利が敷き詰められていた。


庭は広く石灯篭があり、小綺麗にまとまった流れ池には石橋が掛かっており、何やら鯉が泳いでいるのが見える。


両サイドをSFチックな高層ビルが建っていなければ和を堪能出来たであろう。

それに家の奥の方にある離れから先程から何やら工事現場の様な音がしており、煙がもくもくと上がっている。


「ハチさん!あれ火事とかじゃないんですか?」と尋ねると、

ハチさんがあそこは作業場だよ、いつもああやって作業してるからうるさいんだと教えてくれた。


ハチさんが玄関の引き戸に手を翳すと、玄関の上に付いていた防犯カメラの様な物から赤い光が放たれ、僕とハチさんの頭からつま先まで順繰りになぞっていった。


「ナンバーコード認識不可」の文字がホログラムで出たがハチさんは無視して引き戸を開けて中に入っていった。


僕も続いて中に入ると、家中をアラームが鳴った。

ビービーと鳴る音に思わず玄関の外に出たが、音が鳴りやまずどうしたらいいのかと狼狽えていた。


するとハチさんが

「おーい、これ切っておくれ。」


とハチさんが戻ってきて玄関から顔を出し離れに向かって何度か叫んだ。

しばらくするとアラームが鳴りやみ、ハチさんは再び家の中に戻った。


「アラームだけは人の手で切らないといけないんだよ。さぁ、遠慮しないで入って。」

ハチさんが僕に向かって手招きをしたので、僕も中に入ることにした。


「お邪魔します。」


框に座って靴を脱いでいると引き戸が勝手に閉まった。

ロックが何重にも掛かる音がする。よく見ると様々なところにセンサーが付いている。



そしてふと思った。


何となくついてきてしまったが、この人の正体も未だに分かっていない状態でこうして家にまで上がり込んでしまっていいのだろうか。


そもそも色々と怪しいんだよな、この世界自体もあの人も。


顔も分からない相手を信用する方がおかしい。

警察のあの態度を見ると、なかなかの権力者の様だし、僕の様なこの世界には元々居なかった人間をどうしようが簡単にもみ消せるはずだ。


作業場があると言っていたが、言ったい何の作業をするのだろうか。


僕の頭の中に解体や拷問といった不遜なワードが浮かび上がる。

今ならまだ逃げられるはずだ。ロックが掛かっているとはいえ玄関扉自体はそこまで頑丈そうに見えない。いざとなれば突き破ればいい。


外の門と塀だって確かに高いが、植木が塀の近くまで伸びていたので上ってしまえば超えられないこともない。


さぁ、どうする。

悩んでいるとハチさんの僕を呼ぶ声がした。



だが考えてみたものの、現状ではあまりにこの世界のことを知らなすぎる。

無理に外に出ても警察に逆戻りということも十分考えられるし、元の世界に戻る方法が分からない以上、宿無し金無しの根無し草として何日も放浪しなければならない可能性がある。


現時点では危害を加えられていないし、むしろ権力者であるならば元の世界のことについても何かしら知っているかもしれない。


僕を引き取った目的も分からないが、十分に警戒しつつもう少し様子を見ることにした。


「おーい、まだかーい。」

こっち、こっちと呼ばれて声のするほうに行くと、これまた立派な数寄屋造りの和室があった。

ハチさんは座布団に座っており、胡坐をかいていた。


僕が手持無沙汰に突っ立ていると、「空気レベルが浄化さレマした。」

と機械音声が聞こえてきた。


「あー、疲れた。君、マスク取っていいよ。」

ハチさんがフルフェイスのマスクを取ると、さっきまでの疑心暗鬼な感情が吹き飛んだ。


マスクの下からは優しそうな、それでいて精悍な端正な顔の美人が現れた。


シュッとした輪郭、高くはないが整った鼻、少しタレた目は優しさで溢れ、それでいて口元はキリっと引き締まっており意志が強さが感じられる。


髪は地毛だろうか、綺麗な銀色をしており短めに整えられている。


見とれていると、あー汗でべたついたとハチさんがつなぎも脱ぎ始めた。

端正な顔に見とれていたが、中から現れた大きな胸元に目が吸い寄せられた。


つなぎを全部脱ぐとハチさんは黒のノースリーブに黒のハーフレギンスという格好になり、大きな胸とお尻が際立った。


上半身と下半身のそれぞれ隆起しているところがくっきりと浮かび上がっており、ついついそれらに目をやっていると、何故だが立ち上がれなくなってしまった。


しかしハチさんの身体には全身の至る所に傷跡があり、真っ白な肌に赤く浮かび上がっていた。


それでも痛々しさはなく、傷跡の下に見える割れた腹筋や引き締まった腕や脚がそれらの傷跡をものともしておらず何だか不思議な色気を醸し出していた。


うーん、こんなに綺麗な人が悪い人だとは思えないなと、つい先程まで拷問されるかもとか考えていた頭が違う答えを弾き出した。


「さぁ、君も楽にしなよ。」

ぼーっと眺めていると僕はまだマスクを着けたままだったことに気が付いた。

だが、マスクを着けていたおかげでハチさんの身体を見ていたことには気が付かれなかったようだ。

着けている意味がさっぱり分からなかったが、ここにきて約に立つことを教えてくれた。


マスクを取ると、ハチさんが僕の顔をじっと見つめてきた。

そう言えば道端で声を掛けた時にも見つめられたことを思い出した。


ただあの時と違うのはガスマスクを着けた異常者ではなく超絶美形のスーパーモデルのような女性に見つめられているということだ。

自分では分からないが恐らく真っ赤になっていることだろう。


「どうしたの、君。こんなおばあちゃん相手に赤くなっちゃって、変わってるね。

そういえば自己紹介がまだだったわね。

私は都蜂つほう、人はハチと呼ぶわ。むしろそっちを本名だと思っている奴も多いくらい。

君もハチと呼んでくれてもいいし、おかあさんって呼んでくれてもいいわよ。」


最後に言われたおかあさんというワードで、何故だが立ち上がれるようになった。


「おかあさんは、ちょっと...遠慮しておきます。引き続きハチさんと呼ばせてください。」

と僕が言うとハチさんは非常に残念そうな顔をした。


「それは残念。私はここで町工場をやっているの、さっきの離れで基本的に作業してるわ。まぁ、工場といっても私含めて二人でやっている小さなもんなんだけどね。」


町工場?小さな町工場の経営者に警察がへこへこしてたのか?もしかすると偉大な発明家とかなのかもしれない。少なくとも家の感じからお金はありそうだし。


「今回私が君を引き取る時の条件として、君はうちで面倒見ることになったから、自分の家だと思ってくつろいでくれて構わないわ。まぁ、君が出ていくというのならば止めはしないけど。」


思わず美貌に見とれて引っ込んでいた警戒心が徐々に元に戻り始めた頃だったので、止めはしないという発言に驚いた。


「え、出て行ってもいいんですか?何故僕を引き取ってくれたのかも分かりませんが、そもそもお会いしたこと無いですよね?」

僕が質問をすると、ハチさんは再び悲しそうな顔をした。


「そうね、私もつい君を引き取ってしまったけれど、君からしたら見ず知らずの人の家にいきなり連れてこられたわけだものね。不安にさせてしまってごめんなさい。謝るわ。」

とハチさんは僕に向かって頭を下げた。


いやいやいや、確かに目的も分からず不安には思ったが現状変なことはなにもされていない。

「ハチさんが謝る必要はありませんよ!

むしろ赤の他人の僕を引き取ってくれてありがとうございます。しかも家にまで置いてくれるなんて。あ、そういえば僕の自己紹介がまだでしたね。僕の名前は仲といいます、18歳です。下の名前は雅史です。仲でも雅史でもどちらでも好きな方で呼んでください。宜しくお願いします。」


僕は完全にこの家にお邪魔することになった。もうこの人を信頼するしかないと思うことにした。

それにこの人と二人で住むなんて考えると先程から色々な妄想が止まらない。


「まさしさんね、素敵な名前だわ。まさしさん、好きなだけ居て頂戴!

そうなったら貴方用のマスクと防塵着とナンバーコードを用意しないとね。ナンバーコードは役所に行けばいいとして、マスクは私のお古でいいとしても防塵着は私のじゃ大きいわね。蓮華のが入るかしら、ちょっと待っててね!」

一気にテンションの上がったハチさんは、どたどたとどこかに消えていった。


しばらくすると、なんだよ押さないでくれよと声が聞こえ、ふすまが開きハチさんとハチさんそっくりの少年が入ってきた。


そっか、離れで作業していた人間を忘れていた。

これでハチさんと二人っきりということは無くなったわけか。


しかしながらハチさんそっくりだな、親族なのは間違いないだろう。感じからして親子であろうか目だけはハチさんと違って切れ長の釣り目だが他がよく似ている。

小学校高学年くらいかな、顔はまだ幼いが端正な顔立ちからは知性が感じられる。

綺麗な長い銀髪がさらさらと靡く様は男の子と分かっていてもドキッとする。


年の割に背が高く僕と同じくらいあるだろうか、

ハチさんと違って華奢だが却って手足の長さが目立つ為、ずんぐりむっくりな僕と大違いだ。


「この子、蓮華って言うの。この人はまさしさんよ、今日から三人でこの家に住むことになったから挨拶して頂戴。」


ハチさんに押されるようにしてこちらにきたが、何だか僕を睨んでいる気がする。

それでもハチさんに急かされてぼそぼそと自己紹介をしてくれた。


「はじめまして、都蜂蓮華といいます。今日から共に暮らすとのことですが、普段は離れで作業しておりますので分からないことは何でも訊いてください。我が家だと思って馴染んで頂けると幸いです。」


気のせいではない程、自己紹介の間もめちゃくちゃ睨まれたがハチさんからは蓮華の表情が見えずニコニコしている。

態度とは裏腹な大人の対応が素晴らしく怖い。


「突然お邪魔してしまって申し訳ございません。まさしといいます、宜しくね。」

僕は大人の余裕を見せるべく、ニコッと笑って手を差し出した。


蓮華は怖い顔をしていたが一応弱々と握り返してくれた。


「さぁ、自己紹介が済んだわね!そしたら私は昼食の準備をするから、まさしさんお風呂入ってきなさいよ。防塵服も着ないで外に居たんだから洗い流さないと危ないわ!蓮華!あなたいつからお風呂入ってないの。言わないと入らないんだから、まさしさんと一緒に入ってきなさい。男同士裸で親睦を深めるといいわ。」


僕自身はお風呂に入れるのはありがたい。身体も疲れているしね。

しかしハチさんの言葉を聞いて一層眉間にしわが寄った蓮華を見ると何とも気まずい。


そんな僕らを尻目にハチさんが廊下を歩きながら

「あ、そうだ蓮華。あなたの服まさしさんに貸してあげなさい。」

と言ってきた。


僕の横でチッと舌打ちが聞こえた。

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