第71話『彫刻ディフェンス』
モンスターがあらわれた! ▼
「おれだ! みんな待ってたろ!」
「いや待ってないから、もう帰れ」
レヴィアさんが淹れてくれたカフェモカを飲んでいると、ヨッホイがいつものパターンでやってきた。
本当にいつものことなので、誰も気にはしていないようであった。
現在魔王城オフィスで、休憩中だ。俺はヨッホイを無視してもう一口カフェモカを飲むが、ヨッホイは「そんなの気にしてないぜ!」とでも言いたげに、黒いヒノキのぼうを取り出す。
「今日のヒノキのぼうはコレだ!」
「毎日ヒノキのぼうを紹介してるみたいに言うな」
「相手の銃撃を弾きたいこと、あるだろ?」
「ないな」
「なんと、オートディフェンス機能付きだ!」
「なんだそれは……」
「相手のアクションに合わせて自動で動き、防御をする優れものだ!」
「で、何分使えるんだ?」
「30秒!」
その時間が多いのか、少ないのか分からない。多分ヨッホイの顔を見るに多いのだろう。「おれ頑張ったんだぜ!」って顔だ。
俺はため息を付くが、ヨッホイはそんな事は気にせずに俺の腕を引っ張る。
「よし、早速トレーニングルームに行くぞ!」
「俺、仕事が……」
「いいわよ、行ってらっしゃいな」
仕事を理由に断ろうとすると、魔王様からゴーサインが出てしまった。
仕方ないので、カフェモカを飲み干してからヨッホイに続きオフィスを後にする。
*
「そこのサンドバッグに攻撃してみろ」
「はいはい、分かりましたよー」
ヨッホイに新型と思われるiBouを手渡された。
トレーニングルームには、動画を楽しみながらサイクリング出来るエアロバイクや、魔王様が日夜シェイプアップに燃えるランニングマシーンを始め、様々なトレーニングマシーンが揃っている。
俺は素直にサンドバックの前に立ち、ヨッホイの方を見る。
ヨッホイは「早くやれ!」と、手でジェスチャーを送っていた。
多分やらないといつまでたっても拉致が開かなそうなので、嫌々サンドバッグをiBouで叩く。
カズキの こうげき! ▼
164526 のダメージ! ▼
「はぁ!?」
「なぁ! すげーだろ! 火力も上がってるんだぜ!」
ヒノキのぼうでサンドバッグを殴り出たダメージを見て、戦慄してしまう。
この前までは3桁くらいだったダメージが、いきなり6桁ダメージになっていた。
「いや、危ないだろ!」
「いや、それ武器だし」
「あ、そっか」
「火力を上げたのはお前用のやつだけだ。バッテリー駆動だから、長時間火力を上げた状態はキープ出来ないしな」
「で、どのくらいもつんだ?」
「10秒だ」
どう考えても少ないが、ヨッホイの顔を見るに「どうだ、すげぇだろ!」と言いたそうな顔をしていたので、きっとすげぇんだろう。
「10秒の間なら、俺は100000オーバーの火力で戦えるってことか」
「魔王様や、神様には敵わないけどな!」
「他にも機能は付いてるのか?」
「いつものように無くした時にスマホで探すことも出来る」
「いや、無くさないから!」
「もちろん防水ラジオ付きだ」
「無駄な機能だから!」
「電子マネーで買い物も出来るぞ!」
「それ、武器に付ける機能じゃないから!」
「セキュリティもしっかりしてるぞ、指紋認証だ!」
「これ、ヒノキのぼうだよな?」
「落としても、手をかざせば手元に戻ってくるぞ、カズキン=スカイウォーカー」
「違う、カズキだ」
「マイクがわりにカラオケも出来るぞ、とうぜん採点機能付きだ」
「ヒノキのぼうに採点されたくないわ!」
「カラーはお前専用カラーの宵闇ブラックだぜ!」
「それが1番いらない!」
本当にふざけた棒である。だが、ヨッホイなりに俺のために丹精込めて作ってくれたのだろう。
いつも通り滑らかな肌触りと、ヒノキのいい香りがする。
持ち手の部分には、綺麗な彫刻が彫られており、それが滑り止めの役目も果たす。芸術と実用を兼ね備えてた一品だ。
多機能なものにしては軽く、それでいて軽すぎない。この手の武器は軽すぎてはダメなのだ。
さらには、充電用のソケットも埃や水が入らないように加工されており、音楽を聴く際に使用するスピーカー部分にも、同様の処理が施されていた。
そして、先端に輝くヨップル社のロゴが、このiBouを特別なものにしていた。
機能、見た目、使い心地、その全てが備わった最高の武器それがiBou。
だが、これは武器だ。その事を忘れてはならない。
このヒノキのぼうは厳重に保管し、使う機会がないことを祈ろう。
*
「おい、誰だよ!? ヒノキのぼうを湯船に浮かべたやつ! あ、これ、カズキのやつじゃねーか!」
セーブしますか? ▼
▶︎はい
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▷はい
いいえ
セーブがかんりょうしました! ▼
〜登場人物〜
【カズキ】
ヨッホイのおかげで、ヒノキのぼうはかなり詳しくなってきた。
見ただけで、材質のいい高級ヒノキを使っていることぐらいは分かるレベル。
相変わらずHPは24でMPは1。
【ヨッホイ】
緑のモンスターこと、ゴブリンのヨッホイ。魔王城のダンジョン担当にして、ヨップル社のCEO。
そのヒノキのぼうへの情熱は衰えることを知らず、絶えず新作のヒノキのぼうの開発に取り組む。
持ち手の彫刻は自身の手で彫った。
全ては親愛なる"相棒"のため。
【魔王様】
2人のテンションにはついて行けないご様子。今日はネイビーカラーのブラウスに、クリーム色のタイトスカート。胸元のリボンが可愛らしい。
〜登場アイテム〜
【iBou typeK】
カズキのために作成された、オーダーメイドiBou。色は宵闇ブラック。
オートディフェンス機能と、10秒の間、火力を大幅に上げるシステムを搭載している。相変わらずバッテリーの持ちは悪い。
価格は不明。




