第69話『チョッキン昆布』
「最近、本当に風邪が流行っているわね」
こんにちはっ、レヴィアです!
今日は魔王様の言っていた通り、カズキさんが風邪を引いてしまいお休み……との、ことでしてわたしレヴィアがお送りしますね!
今朝方、カズキさんの様子を伺いに行ったのですが、まだ熱があり、とても出社出来るような状況ではありませんでした。
とりあえずスポーツドリンクと、軽食を冷蔵庫に入れては来たのですが……心配です。
カズキさんが普段来ているローブには、風邪のウィルスも弾く効果があるのですが、最近はジャージばかり着ていたため、風邪のウィルスさんにやられてしまったようです。
小春さんは、ジパングに仕事で出張中でして、マリアさんもまだ寝ているようです。
そんなわけで、久しぶりにオフィスには魔王様とわたしの2人きりです。
そんな魔王様は、いつもは居るカズキさんが居ないためか、どこかソワソワとしていらっしゃいます。
「あの、魔王様」
「なぁに、レヴィア」
「あ、いえ……あ! コーヒー淹れてきましょうか?」
「5分前に淹れてくれたでしょ」
そうでした! むぅ……これでは、わたしの方がソワソワとしているみたいじゃないですかっ。
でも確かに心配ですが、仕事は仕事です。カズキさんが居ない分もわたしがやらないとっ。
「魔王様、本日カズキさんが行う予定だった仕事はどうされるのですか?」
「もう、終わったわ」
「速い!」
「だって、魔王っぽいセリフを考えてもらおうと思っていたのだけれど、宵闇の魔王語録で十分なのよね」
「あぁ、確かに……」
その通りでして、宵闇の魔王様のカズキさんは、それはそれはやたらとカッコよくて、難しい言葉をスラスラとお話します。わたしにはチンプンカンプンです!
「魔王様、刻の支配者とはなんなのでしょうか?」
「きっとあれね、刻み昆布のことよ」
「あれ、美味しいですよね♪」
「そうそう、ちょっと酸っぱい感じなのがいいのよね」
「刻み昆布といえば、やっぱり厚揚げは外せませんよねっ」
「昆布の食感と、厚揚げに染み込んだ出汁は家庭の味よね」
「今度作ってみましょうか、昆布は栄養満点で、風邪予防にもいいですし」
魔王様は「そうね」と短く呟き、コーヒーを一気に飲み干しました。
「おかわりはいかがですか?」と聞いたところ「お願いするわ」と返ってきましたので、わたしは席を立ちミニバーへと向かいます。
一度カップをお湯で洗い、先程淹れたコーヒーを魔王様のカップに注ぎます。
魔王様は実はお砂糖を沢山入れたコーヒーが好みでして、お砂糖を3杯ほど入れちゃいます。
それから、ミルクではなく牛乳を少し入れます。
「よしっ、出来ました♪」
カップをこぼさないように慎重に運び、魔王様のデスクにコトリと置きます。
魔王様はわたしに礼を言うと、コーヒーを一口飲み、にっこりと微笑みました。
「お砂糖、多過ぎませんでしたか?」
「少な……じゃなかった。丁度いいわ、ありがとう」
ちょっと違和感はありましたが、大丈夫だったみたいです!
魔王城のコーヒー係として、また、一歩前進ですっ。
魔王様はコーヒーカップを置くと、ベージュ色のコンパクトミラーを取り出し、リップを塗り直し始めました。
その後に、フェイスラインにかかる髪の毛が気に入らないのか、手櫛で髪を整え始めました。
「魔王様、そろそろお切りになった方がよろしいのではありませんか?」
「この前、切ったのよ0.01ミリ」
「それは切ったとは言いませんよ」
「なら、今切るわ」
わたしが疑問に思っていますと、魔王様はデスクの引き出しからハサミを取り出しました。
「ま、魔王様! ちょっと待ってください!」
「あなたが、切ればって言ったんじゃない」
「それは、そうですけど……」
わたしも前髪くらいなら自分で切ることはあるのですが、結構難しいもので、ほんの少しズレただけで顔の印象は大きく変わってしまいます。
魔王様の髪の毛は明美さん……あ、神様のことなのですが、魔王様の髪は神様が整えていらっしゃるそうでして、以前わたしもやってもらったことがあるのですが、とてもお上手なんですよ♪
「明美さんにしてもらったらどうですか?」
「それもそうね、今度会った時にお願いするわ」
「ま〜ちゃん、呼んだかなっ?」
「呼んでないわよ!」
突然魔王様の真横に、明美さんが現れました。
「明美さん、お久しぶりです♪」
「お〜レヴィたんは今日も可愛いね〜!」
「明美さんこそ、黒髪とっても似合ってますよ」
「ハイカラっしょ?」
「あ、はい、ハイカラですねっ」
明美さんは綺麗な黒髪をサラリとかきあげます。
それから辺りを見渡すと、「カズぽよがいないねぇ」と首を傾げました。
「カズキさんは、今日は風邪を引いてしまって……」
「あちゃ〜、流行ってるからね。それなら……」
明美さんはそう言うと、何もない空間からお薬を取り出し、わたしに手渡してきました。
「あ、これ……」
「それ、飲ませれば1発で直るよ〜」
「ありがとうございます♪」
明美さんにお薬を頂いちゃいました。明美さんは医療にも詳しく、このように風邪薬などの販売を始めたそうです。
小春さんがアドバイスをしたそうですよっ。
そのやり取りを見ていた魔王様が、前髪を気にしながら明美さんにお願いをします。
「あ、あっちゃん、髪の毛を整えてもらってもいいかしら?」
「かまへん、かまへん」
明美さんは、またもや何も無いところから、櫛やハサミなどが入った美容師さんが使うような、ポーチを取り出しました。
魔王様はそれを見ると、驚いたような表情をします。
「って、今やるの?」
「ダメなの?」
「別にダメじゃないけれど……」
「なら、いいっしょ〜! お姉さん可愛くしとくよ〜?」
「はいはい、お願いします〜」
魔王様は大人しく髪の毛が付かないように、カットクロスを被りながらわたしの方を向き直りました。
「レヴィア、今日はもういいわよ」
「ですが……」
「そのお薬、早く飲ませてあげなさい」
「では…………お先に失礼しますね」
「はい、お疲れ」
「レヴィアたん、お疲れ〜!」
魔王様と明美さんに見送られ、オフィスを後にします。
お薬を飲むには、先にご飯ですよね! 一度自室に戻っておかゆを作ってから、カズキさんの所に伺いましょう♪
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〜登場人物〜
【レヴィアさん】
仕事は丁寧なレヴィアさん。お部屋に戻ってから、明美さんにお茶を出すのを忘れたのを思い出し淹れに戻った。
【魔王様】
少し、前髪やフェイスラインの髪が気になるま〜ちゃん。
トップは軽く立ち上げて、襟足はくるっと巻くのが好み。前髪は分け目を作るタイプ。
【明美さん】
明美さんこと、神様。ちゃんと美容免許を持っている。相変わらず黒髪で清楚なセーラー服。
【カズキ】
先日のミッションの影響でダウン。




