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第7話『ジャージセーブ』

「すいません、鋼の剣をください」


「2000Gです」


 魔王様に初任給として「60万G」を貰い、浮かれていたのもつかの間で、このお金は現実世界では使えない。

 働いているのにお金が貰えないなんて、とんだブラック企業かと思いきやとんでもない……こちらの世界では有り余るような金額であった。

 食事代や、部屋代も不要。定時で終わる仕事。ホワイトどころではない純白だ。


 現在、レヴィアさんと魔王城近辺にある街を訪れている。

 俺は荷物持ちのついでに、武器屋でかあさんへの土産として鋼の剣を購入した。残金は59万8千Gである。8Gの薬草ならば7万個近く買える額だ。

 本来なら魔王城近辺の街といえば、魔王の恐怖に怯える、もしくは優秀な冒険家が集う街というイメージだが、実際は……。


「レヴィアちゃん、買い物かい?」


「あ、はい! 日用品を買いに来ました!」


「薬草、おまけしとくよっ」


「ありがとうございます♪」


 道具屋のおばちゃんと親しげに会話をするレヴィアさん。まるで、商店街の八百屋で買い物をする、休日のOLさんのようだ。

 おばちゃんとの日常会話に花を咲かせるレヴィアさんを尻目に、街並みを眺める。

 白いレンガに赤茶色の屋根。均一で高さの揃った建物は美しい街並みを形成していた。

 所々に添えられた草花、左を見れば美しい小川がせせらぐ音が聞こえてくる。


 鼻をヒクヒクとさせると、美味しそうな焼きたてのパンの香りが漂ってきた。

 2つ購入し、そのうちの1つをかじる。焼きたてのパン特有のパリっとした表面、それでいて中はふんやりとした優しい味が口の中に広がる。

 他に何かないかと、あたりを見渡すとやたらとカッコいい黒いマントが目に入った。


「最高にクールじゃないか……」


 値段を確認すると、5万Gである。高い……が買えないわけでもない。何よりカッコいい。

 隣に置いてあるイカした黒の包帯も装備すれば、さらにカッコよくなるだろう。お値段は……こちらも5万G。


(いいや、買っちゃえ!)


 代金を支払い、商品を受け取る。「装備していきますか?」と聞かれたが首を横に振った。

 なぜなら、レヴィアさんがおばちゃんとの会話を終え、とても可愛いらしい小走りでこちらに駆け寄って来たからだ。


「おばちゃんと何を話していたんですか?」


「美味しいシチューの作り方を教わりましたよ、今度ご馳走しますね♪」


「それは楽しみですね……あ、そうだ」


 2つ購入したパンの片方を彼女に差し出す。レヴィアさんは「ありがとうございますっ」とそれを受け取ると、小さくちぎって口に運んだ。


「……美味しいですっ、カズキさん! ありがとうございます♪」


「喜んでもらえたのなら良かったです」


 にっこりと笑うレヴィアさん。買い出し1つとっても、とても穏やかで、とても楽しい。この魔王城に就職して良かったと、改めて思った。

 明日からは数日間の休暇である。かあさんに鋼の剣を渡したらどんな顔をするだろうか?




 *





ーー数日後


 かあさんに鋼の剣を渡し、休暇を終え、また魔王城でのデスクワークが始まる。気分はサラリーマンである。

 かあさんの反応はというと、鋼の剣を破魔矢と勘違いをしていた。ご利益は……あるかは分からない。


 そして、オフィスには先日新しい社員が入社していた。


「それで、わたくしは何をしたらいいのかしら?」


 純白のドレスではなく、純白のジャージを身にまとったお姫様が、上司である魔王様に業務内容を訪ねていた。

 ちなみに何故ジャージなのかと聴くと「楽ですのよ?」とのことだ。


 マリアは魔王城に来て以降、自身の城に居た頃には出来なかったことを沢山した結果……ダラけてしまった。

 俺がこちらに持ち込んだゲームやら、お菓子やら、その他諸々を楽しみ尽くした結果の「ジャージ姫」である。

 まるで最初からそっちが目的と、言わんばかりのハマり具合だ。

 それにジャージが楽なのは分かるが、スーツを着ている俺や、魔王様、レヴィアさんからしたら職場の雰囲気に問題が出るのでは? と思ったのだが……


「このオフィスはスーツ着用を義務付けてないわよ?」


「じゃあ、何で着てるんですか!?」


 その問いかけに「気分よ」と短く答える魔王様。

 その話を聞いていたレヴィアさんも、コーヒーを俺のデスクに置きながら意見を述べる。


「わたしもこちらの格好の方が仕事に身が入りますので……あ、ミルク入れますか?」


「お願いします」


「はい♪」


 レヴィアさんからミルクを受け取り、コーヒーに注ぐ。そのコーヒーを一口すすりながら、仕事内容の確認を行う。


「魔王様、今日は神龍さんのところにお中元とありますが……」


「あぁ、もうそんな時期なのね。レヴィアとあなたで行ってきてもらえるかしら?」


 神龍とはエクストラステージに待ち構える裏ボス的な立ち位置にいるお方らしい。

 レヴィアさんが、俺の方をチラッと見ながら魔王様に確認する。


「魔王様、カズキさんのセーブをした方がよろしいのではないですか?」


「そうね、あそこは風もあるし……」


 魔王様が綺麗な手を顎に当て、考える仕草をしているとマリアが身を乗り出す。


「セーブならわたくしがしてあげますわ!」




セーブしますか?▼


▶︎はい

 いいえ



 はい

▷いいえ





「ちょっとまて、セーブってこんな感じなのか!? そもそもセーブって何するんだよ!?」


「毎晩夜にしてあげてるじゃない、アレよ」


 あの、今日の出来事を書いた活動日誌を魔王様に見せるのがセーブだったようだ。


「なんの効果があるんですか?」


「死亡してしまった場合、教会か、セーブした場所を復活ポイントに指定出来るのよ」


「それじゃあセーブしますわよ!」


セーブしますか? ▼



▶︎はい

 いいえ



▷はい

 いいえ



セーブがかんりょうしました! ▼


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