第66話『マリアロジック』
「あら? ズッキーと、レヴィアさんは居ないのかしら?」
「2人なら街に買い出しに行っているわ」
「そうでしたの」
「ところで……」
「何かしら?」
「今日は2人が居ないから、あなたが活動日誌を書きなさいね」
「何ですって!?」
「ふふふ、マリアはん、ようお気張りやす〜」
「なっ、他人事だと思ってませんこと? 魔王様、はるるんに書かせたらどうですの?」
「そう言っているけど……どうする?」
「いややな〜」
「じゃあ、マリアで決まりね」
「わたくしも嫌ですわよ!」
「と、言いつつもボイスレコーダーを起動しているわね」
「この方が楽だと思いまして……」
「まぁ、任せるわ」
「わたくしが書く流れになってますし……」
「ところで、魔王はん、今日はどないするんやろか〜?」
「そうね、今日は特にやることも無いのよね」
「……そうですわ! トランプなんてどうかしら?」
「ダメよ」
「……ま、まぁ、そうですわよね」
「こはるんが毎回勝つもの」
「そっちでしたの!?」
「ふふふ。そないなことあらへんよ〜」
「ババ抜きをしたら、最初で全部ペアになっているし、大富豪をしたら、強いカードばかりこはるんの所に行くのよ」
「不思議どんなぁ〜」
「そんなの、おかしいですわよ!」
「そうね、わたしもそう思って色々やったのだけれど歯が立たないわ」
「うちは普通にしとるだけなんやけどなぁ〜」
「と、言うわけでトランプはダメよ」
「分かりましたわよ!」
「ほなら、花札でもどうどす〜?」
「ダメよ」
「また、いいカードが行ってしまうからですの?」
「単純に強いからよ」
「……魔王様、負けず嫌い過ぎませんこと?」
「ま〜ちゃんが、最強じゃなきゃやだもんっ」
「魔王様、子供みたいなこと言わないでくださいな!」
「ふふふ、カズキはんが居らへんと、マリアはんにしわ寄せが来はるようどす〜」
「早く帰ってきて欲しいですわ!」
「それにしても2人とも遅いわね」
「せやなぁ、もうそろそろ帰ってきてもえぇと思いやす」
「2人で遊んでるのではなくて?」
「……ちょっと様子を見てくるわ」
「あ、外は寒ぅ思いやす、せやから何か羽織ったほうがえぇんとちゃいます〜?」
「そうね、そうするわ」
「ふふふっ、ごゆっくり〜」
まおうは いどうまほうを となえた! ▼
「本当に行ってしまいましたわ」
「せやなぁ〜でも、すぐに帰ってくると思いますえ〜」
「どうしてそう思うのかしら?」
「ふふふ……勘、やろか〜?」
「でもすぐに帰ってくるのでしたら、心配はいりませんわね」
「ほなら、おぶどうどす〜?」
「いただきますわ……あ、魔王様の分もお願いしますわ」
「分かっとるよ〜、甘味はどないするん〜?」
「おせんべい!」
「ふふふ、それは甘味やあらへんよ〜」
「別によろしいではありませんか」
「ほな、淹れとくるさかい、待っといてや〜」
「分かりましたわ」
「…………今のうちに、明日上げる動画の編集をしちゃいましょう」
「ただいま」
「あら、魔王様早かった…………可愛いテディベアですわね」
「貰っちゃたの♪」
「よ、良かったですわね……」
「2人とも、ちょっと遊んでいただけだったわ」
「それにしては、上機嫌ですわね」
「そ、そんなこと……ないわよ?」
「魔王はん、頬が緩んではるで〜」
「もうっ、こはるんまで! あ、お茶ね、ありがとう」
「あ、おせんべいもありますわ!」
「ふふふ、ちゃんと用意しといたんよ〜」
「おおきに! ですわ!」
「こはるんはお茶を淹れるの上手よね、何かコツでもあるのかしら?」
「急須とな、湯呑みを予め温めておくんよ〜」
「あ、それレヴィアさんも紅茶を淹れる時にやっていましたわ!」
「急須を先に温めはると、茶葉が均等に開くんよ〜」
「なるほど、他にはどんなことがありますの?」
「緑茶、並びに玉露の場合はな、最後の一滴まで注ぐのが大事やさかい、この一滴に茶葉の旨味が凝視されとるんよ〜」
「ちょっと、勉強になりますわね」
「そうよ、マリアもジュースばかり飲んでないで、たまには他のものも飲みなさい」
「はい、はーいですわ〜」
「カズキはんは、いまだに青汁を飲んではるようどす〜」
「毎朝懲りずに、シャカシャカ振っていますわね」
「調子がいいそうよ、わたしも飲んでみようかしら……」
「薬草の在庫の方は大事あらへん?」
「大丈夫よ、十分な量を確保出来ているわ」
「あんなにマズいのに、どこがいいのか分かりませんわ」
「イシぽよの宣伝が、良かったのもあるわね」
「イシスはんは、何をしはっても様になると思いやす」
「同じ王女として、尊敬していますわ!」
「………………」
「………………」
「何ですの、2人ともその目は……」
「そういえば、マリアはお姫様だったわね」
「うちも忘れとったんよ〜」
「はるるんは、昔から晩餐会でも会っていましたわよね!?」
「ふふふ、冗談どす〜」
「冗談に聞こえませんわ!」
「わたしのは、冗談じゃないわよ」
「もっと酷いですわね!」
「ところで、こはるん」
「なんやろか〜?」
「おせんべいのおかわりある?」
「あ〜! わたくしのおせんべいが、ありませんわ!」
「ふふふ、まだまだ仰山あるよ〜、せやからたんとおあがり〜」
「わたくし、100枚は食べ––––」
*
買い物から戻ると、デスクにマリアの物と思われるボイスレコーダーと、メモ用紙が置いてあった。
ボイスレコーダーは電池が切れており、しかも途中までしか録音されていなかった。
そして、メモ用紙には短く「よろしく」とだけ、書かれていた。
「なんだよこれ……」
メモ用紙を拾い上げると、下におせんべいが1枚だけ置いてあった。
無言でそれを拾いあげ、苦笑する。あの、姫様はこれがお駄賃のつもりなのだろうか?
姫様の薄いおせんべいの様な、うす〜い心遣いに感謝しながらパソコンを立ち上げる。
「しょうがない、やってやるか……」
セーブしますか? ▼
▶︎はい
いいえ
▷はい
いいえ
〜登場人物〜
【ま〜ちゃん】
魔王のま〜ちゃん、カズキとレヴィアに買い出しをお願いしたが、思ったよりも早く仕事が片付いてしまい、一緒に行けば良かったと思っていた。
今日の髪型はトップをハネさせ、襟足を軽く巻いた上品なスタイル。前髪は軽く流す感じ。
【こはるん】
やる事はあるが、喋りながらでも問題ないこはるん。
レヴィアさんが居ないため、お茶を淹れる。おせんべいはマリアがよく食べるため、常備品。
今日の髪型は亜麻色のストレート。丁寧にブラッシングをしているため、クセがなく滑らか。最近、前髪はぱっつんがお気に入り。
【マリア】
いつも通りお寝坊なマリア。朝ご飯を食べていないため、お腹が空いていたご様子。
今日の髪型はちょっとボサボサの寝癖ヘアー。レヴィアさんが居ないため、セットしてくれる人が不在だった。前髪はボサボサ。




