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第65話『射的ベアー』



「あ、カズキさん、待ちましたか?」


「大丈夫ですよ」


 ガレージで車の調子を見ながら待っていると、羽織ったコートを片手で抑えながら、小走りでこちらに駆け寄ってくるレヴィアさんが目に入る。

 今日は少し冷えることもあり、レヴィアさんは濃いブルーカラーのトレンチコートを着ていた。

 シルエットが細くみえるデザインで、ブロンドの髪と合わさり、とても上品に見える。

 今回は魔王様に頼まれ、魔王城付近の街へと買い出しに出かける予定になっていた。

 魔王城は山脈に囲まれているため、空港が出来るまではアクセスが悪かった。お陰で物資の供給が悪く、よく俺は買い出しに行っていたものだ。

 それでも高い山脈が邪魔をし、着陸が難しいため、パイロットからの評判は悪い空港なのだが……。


 今回は急遽、必要なアイテムがあったため、久々に買い出しに行く事になった。

 魔王城付近の街ということで、品揃えも豊富で、かあさんへのお土産に買った『鋼の剣』や、以前着ていた『黒のコート』などもこの街で買ったものだ。

 あの時も、確かレヴィアさんと一緒に行った覚えがある。

 そんなレヴィアさんは俺が乗っている車を見て、顔をしかめていた。


「あの……そのお車で行くんですか?」


「何か、問題がありますか?」


「…………そんなにスピードを出さないでくださいね」


「分かってますよ」


 渋々座席に座り込み、シートベルトを着用するレヴィアさん。

 それを確認してから、アクセルを踏み込むが、直後に悲鳴が聞こえてきた。


「ちょ、ちょっと! スピードは出さないでって、言ったじゃないですかぁ〜!」


「まだ、200kmしか出てないですよ」


「もうっ、早くブレーキ! ブレーキを踏んでください〜!」


 レヴィアさんに言われ仕方なく減速する。メータは80kmを指しており、はっきり言って止まってるのと変わらない。


 だが、街はもう目と鼻の先なので更にスピードを落とし、減速する。

 この車ならあっという間に着く距離であり、5分とかからない。

 俺はシートベルトを外し、車を降り変わらない街並みを眺めた。


 白いレンガに赤茶色の屋根、均一で高さの揃った建物、美しい街並み。

 所々に添えられた草花、左を見れば美しい小川がせせらぐ音が聞こえてくる。

 初めて訪れた時にも、思わずその雰囲気に圧倒されたが、それは今も変わらない。変わった事といえば……


「よいやみのまおーさま! サインください!」


「あぁ、もちろんいいぞ」


 小さな女の子にサインをねだられる事くらいだ。

 女の子は俺に色紙を渡すと、嬉しそうに飛び跳ねる。


「わたしね! 大きくなったら、よいやみのまおーさまの部下になってあげる!」


「そいつは心強いな」


 サインを書き終え手渡すと、女の子はとびきりの笑顔でお礼を言い「闇にのまれよー!」と言いながら去っていった。


「人気ですね、宵闇の魔王様♪」


「困ったもんだ」


 その光景をにこやかに見ていたレヴィアさんに、からかわれてしまった。

 だが、慕ってくれる子供を無下には出来ない。


 目的の道具屋さんに向かってレンガの道を歩く。少しデコボコとしているため、今日はヒールを履いているレヴィアさんが躓かないように気を付けながら。


 道具屋さんのオシャレな看板が見えてくると同時に、俺たちに気が付いたおばちゃんが手を振っていた。


「あら〜! 宵闇の魔王様はレヴィアちゃんとデートかい〜!」


「違う、カズキだ」


 俺が宵闇の魔王ではないと訂正していると、レヴィアさんが突然慌て出した。


「あ、あの! 今日はですね! 買い物にですね……」


「はいはい、分かったよ! それで、今日は何をお探しだい?」


 レヴィアさんが、おばちゃんに必要な物を伝えている間に、暇つぶしにと辺りを見渡すと武器屋の大きな看板に目を引かれた。


【新作のボウガンを使って、的に命中したら景品をプレゼント中!!】


「ほう、射的ってわけだな……」


 レヴィアさんの方を見ると、おばちゃんと何やら長話をしそうな雰囲気であり、時間は思ったよりもありそうであった。試しにやってみるか……。


「お姉さん、1回お願いします」


「はい、どーぞ!」


 気前のいいお姉さんに、ボウガンと球を5発渡され、射撃場に入る。

 的までは距離20m程度で、大した距離ではない。5発撃って的に当てた数によって貰える景品が変わるそうだ。


 さて、当たるだろうか?



 *



「5発とも命中おめでとうございまーす! さすがですねー!」


「まぐれですよ」


 なんと驚くべきことに、5発とも的に命中してしまった。

 もしかしたら、ヒノキのぼうよりも、ボウガンの方が向いているのかもしれない。

 笑顔が眩しいお姉さんから、景品のテディベアを受け取り、レヴィアさんの元に戻るが……


「それでね、このビーフシチューがね……」


「なるほど……もう少し作り方を詳しく伺ってもよろしいですか?」


 まだまだ、かかりそうであった。

 仕方がないので適当に雑誌でも読もうと、道具屋さんに売っている雑誌を適当に眺める。

 出来ればイシス女王が載っているといいななどとおもいながら眺めていると、可愛い制服姿の美少女が表紙の雑誌が、一際目立つ場所に置かれていた。


「こ、この制服は……このツインテールは! 竜ちゃん!」


 表紙は以前神様に見せてもらった、竜王こと竜ちゃんで、長い黒髪をツインテールにまとめ、愛らしい笑顔でポーズを決めていた。

 本のタイトルをみると『世界"制服"計画』となっていた。


「こんな本どこから出してるんだか……」


 出版元が気になり、裏返すと『教会』と書かれていた。

 確か以前ドラゴンがお料理本を出していた事もあり、もしかしたら神様たちは本に力を入れているのかもしれない。


 もう一度、表にし表紙を眺める。可愛い。


「買うか」


「何を買うのかしら?」


まおうが あらわれた! ▼


「げっ、魔王様!」


「中々帰ってこないから、様子を見に来たら……。その手に持っている雑誌は何なのかしら?」


「ち、違うんですよ……あの、違うんです」


「いいわ、何が違うが言ってご覧なさいな」


まおうは いてつくはどうを はなっている! ▼


 このままでは、いつものように減給されかねない。何とかして話をそらさないと……。

 とりあえず先程入手した景品を見せてみる。


「魔王、これ見てくださいよ。さっき射的で貰ったんですよ」


「こ、これは……」


「良かったらどうぞ」


「いいの?」


「どうぞ、どうぞ」


 景品のテディベアを渡すと、魔王様はそれをとても嬉しそうに抱きしめた。本当にとても嬉しそうに。


「カズキくん」


「はい」


「ありがとう♪」


「どういたしまして」


 にっこりとティディベアを抱き抱え、笑う魔王様を見て、減給を免れたと安堵し頬が緩む。それと……


「カズキくん、昇給おめでとう」


「やったぜ!」


 魔王様の財布の紐も緩んだようであった。



セーブしますか? ▼


▶︎はい

 いいえ


▷はい

 いいえ


セーブがかんりょうしました! ▼





〜登場人物〜


【カズキ】


射的が結構得意だった様子。左打ち。理由は利き目が左であるため。



【レヴィアさん】


実は気合を入れて、オシャレをしていたレヴィアさん。

ビーフシチューのレシピをおばちゃんに教わった模様。



【魔王様】


お部屋はティディベアでいっぱい。





 〜登場アイテム〜


【世界制服計画】


 竜王が様々な制服を着て、紹介している雑誌。かなり売れたらしい。

 発案は小春ちゃん。売れてる物は大体小春ちゃん。



【テディベア】


 射的の景品に貰ったテディベア。名前は『スノーウィ』白いクマのぬいぐるみで、赤い帽子と、マフラーを巻いている。




次回は、お留守番をしている3人のお話しとなります。


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