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第52話『宵闇X』




「あん? なんだこれ?」


 朝自室で目を覚ますと、ベッドサイドのテーブルに何か棒状のものが置いてあった。

 眠い目をこすり、近付いて見てみる。それは、やたらと擦り切れ、古びたヒノキの棒であった。


(なんで、こんなものが置いてあるんだ? 後でヨッホイに聞いてみるか……)


「って、いけね! 遅刻しちまう!」







 *







「おはようございます、魔王様」


「カズキくん、朝ご飯食べてないでしょ?」


「朝風呂には入りました!」


「はぁ…」とため息をつく魔王様。今日はストライプのシャツを着ている魔王様。

 朝ご飯は食べてはいないが、日課の朝風呂は忘れなかった俺。

 どちらを優先するかといえば、もちろん朝風呂だ。

 そんな俺に対して魔王様は、オフィスに備え付けられた冷蔵庫からヨーグルトと、バナナを取り出し、俺に差し出してきた。


「仕事はこれを食べてからでいいから、早く食べなさい」


「大丈夫ですよ、ほらお腹も減ってないし」


 魔王様は少し考えるような仕草をしてから、そっぽを向きながら呟く。


「……イシぽよも朝ご飯はしっかり食べる人が好きって言ってたわね」


「食べます」


 バナナとヨーグルトを受け取り、早速バナナの皮を向き、頬張る。甘い。ヨーグルトの方は少し酸っぱかった。魔王様がいつも食べているノンシュガーヨーグルトのようであった。


 軽めの朝食を終え、仕事モードに頭を切り替えようとした時に、勢いよくオフィスの扉が開いた。そして……



モンスターが あらわれた! ▼



「てぇへんだ! おい、てぇへんだぞ!」


「なんだ、ヨッホイ落ち着けよ」


 緑のモンスターことダンジョン担当のヨッホイが、何度見たか分からない慌てた様子でオフィスに入ってきた。

 ヨッホイは新聞片手に、今朝のトップニュースらしき情報まくし立てる。


「昨日、噂で『竜王』が復活したって!」


「竜王ってなんだ? ショーギのタイトルかなんか?」


「ばっきゃろ! 竜王ってのは魔王のことだよ!」


「そこに現魔王様がいらっしゃるではないか」


「ちげぇよ! いいか、よく聞け! 竜王は初代魔王で世界征服を目論んでやがったって話だ!」


「……本当か?」


 ヨッホイは慎重な面持ちで「あぁ」と返事をする。

 もしその話が本当だと言うのなら只事ではない。

 俺たちの仕事は愚か、市民や多くの人々にとっても脅威となる。早急に対策を立てる必要がある。

 急いで、魔王様の方を振り向き話しかけようとするが、魔王様はなんと毛先が気に入らないのか、クルクルと髪の毛を遊ばせていた。


「魔王様!」


「わっ、どうしたのよ?急にそんな大声を出して……あ〜! もしかして、朝食が足りなかったんでしょ〜?」


「違いますよ! 話聞いてなかったんですか!? 竜王が!」


「聞いてたわよ」


「へっ?」


「だから竜王が復活したんでしょ? 昨日。知ってるわよそんなこと」


「じゃあ、どうしてそんなに落ち着いていられるのですか!?」


「だって昨日のうちに倒したもの」


「はいぃぃぃぃぃい!?」


「だから昨日の深夜に倒したって言ってるの竜王を」


 あまりの電撃戦に言葉を失ってしまう。

 仕事が早いなんてものじゃない。情報が出た瞬間に対応していたかのような口ぶりだ。

 確かに魔王様はとても強い。とてもとても強い。

 おそらく竜王なんて相手にもならなかったのだろう。


「さすがですね、魔王様」


「わたしじゃないわよ」


「……はい?」


「倒したのはわたしじゃないわよ」


「それじゃあ、神様とかですか?」


「違うわよ」


「じゃあ誰が?」と首を傾げていると、魔王様がその戦闘模様を記録係がカメラに収めていたとの事で、その戦闘データを見せてもらう事になった。


 タブレットPCを片手に再生のボタンを押す。

 画面にはやたらと大きな姿の羽根の生えた巨大な後ろ姿……おそらく竜王だろう。それと、1人の男性が写っていた。

 画面の中の竜王が、その男性に向かって話しかける。可愛い声で。


『ほう、貴様いい目をしている。どうだ?世界の半分をやろう。わたしと共にこい』


『愚弄な……われは宵闇の魔王、刻の支配者そして、この世界の救世主メシア



「……って、また宵闇の魔王かよぉぉぉぉおお!!」


 画面では宵闇の魔王こと、俺がやたらとカッコ付けた痛々しい言動をしていた。

 宵闇の魔王は竜王の周りをゆったりと歩いている。俺は居ても立っても居られなくなり、停止ボタンを押した。


「魔王様、もう見るのやめてもいいですか? 背中が痒いです」


「あら、自分の活躍を見なくてもいいのかしら?」


「だってコイツ、ただの厨二病ですよ!」


 魔王様は楽しそうに「まぁまぁ」と俺をなだめ、再び再生ボタンを押した。


混沌カオス。それすらも凌駕する我の闇。その波動に同調する神経シナプス


『ほう、そなた少しはやるようぞ。どうだ? 世界の半分をくれてやる。わたしと共に行かぬか?』


『否、そして、案ずるな、一瞬で終わる。やれ、古の魔獣よ』


 魔獣?そんなもの居たのかと疑問に思っていたが、宵闇の魔王の足元からぴょこぴょこと可愛いリボンの付いた"何か"が現れた。


『えとえとっ、こいつやっちゃいますか! アニキ!』


「魔獣ってす〜ちゃんかよっ! それただのスライムだよ!」


 俺は画面に向かって大きな声でツッコミを入れてしまう。そして、画面ではす〜ちゃんが宵闇の魔王の前に出て何かの呪文を唱え始めた。


『それじゃあ、行きますね!』


スライムは きゅうきょくまほうを となえた!▼


りゅうおうに 999999999999のダメージ!▼


りゅうおうをたおした! ▼



『ぐっ!! バ、バカな!!宵闇の魔王……これほどとはな…!』


『ふっ、やはりこの程度か』


『やりましたね! アニキ!』


「お前、なんもやってねぇだろうが!」


 再び、画面の中の宵闇の魔王に向かって、ツッコミを入れたところで動画が終了する。


「魔王様どういうことですか!? なんで、俺が戦ってるんですか?」


「あなたが行くって言ったのよ」


「嘘だ!」


 魔王様はその言葉を聴くと魔王様はどこか落ち着かない様子で、目をそらした。怪しい……


「魔王様?」


「ふーんっ、ま〜ちゃん知らないもーんっ」


「魔王様?」


「……だって、その、わたしお風呂入った後だったしぃ? その、パジャマに着替えちゃってたしぃ?」


「それで、俺に?」


「う……、そ、そうよ! 何か問題あるのかしら!」


 ジタバタと焦りながら、可愛い言い訳をする魔王様。

 魔王様の話によれば、夜中に俺に例の「潜在意識を解放するなんちゃら」の薬を飲ませ、竜王の元へと派遣したようだ。

 どうやら、自身で倒しに行くのが面倒だったため、俺を行かせたようである。


(なんか納得いかない……)


「わたしだって、その、悪いと思ったのよ? でも深夜だったし……」


「それなら、内緒にしないでちゃんと理由を話してくださいよ。それなら俺だって…」


「……あの、えーと、………ごめんなさい。あなたなら平気だと思って、つい頼ってしまったの。その、反省してるわ。ごめんね?」


 素直に謝る魔王様。少し落ち込んでいるようでもあった。

 別に俺だってそこまで怒っているわけではないので、魔王様を許し、次何かあったときは「事情を説明する」と約束してもらった。


(魔王様に頼られるのは、嬉しいんだけどな……俺でも役に立てることはあるようだ)


 そんな事を考えていると、先程の戦闘の様子をリピート再生し、もう一度見ていたヨッホイが俺の隣に寄ってくる。


「まだ、居たのかヨッホイ。今度はなんだ?」


「竜王の近くにヒノキのぼうは落ちてなかったか?」


「すまん記憶が無いんだ……それで、ヒノキのぼうがどうかしたのか?」


「かつて伝説の勇者は、ヒノキのぼうを使って竜王にトドメをさしたと言われている」


「なんで、そんな縛りプレイみたいなことしてるのかなぁ!?」


「竜王の元にたどり着くまでも、武器はそのヒノキのぼう一本だったらしい」


「本当に縛りプレイしてた! 伝説の勇者縛りプレイしてるよ!!」


「あ、それわたし。ちょっと気晴らしにそんな事もしたわねー」


「伝説の勇者って魔王様のことかよぉぉぉお!?」


「やっぱり魔王様だったのか! それよりそのヒノキのぼうはどうしたんですか? 魔王様」


「そんなもの、竜王を倒した後に置いて来ちゃったわよ。

 持ち物が一杯で宝箱の中身が持てなかったのよねー」


「ヨッホイ、なんでそんなヒノキのぼうを気にしてるんだ? まさか……」


「欲しいに決まってるだろ!俺はヒノキ馬鹿なんだよ!」


「それ、自分で言う事じゃないよな」


「竜王を倒したヒノキぼうだぞ!? プレミアムなヒノキのぼうだぜ!」


 ヨッホイの発言に俺は「そういえば」と、今朝テーブルの上に置いてあってヒノキのぼうを思いだし、取り出す。ヨッホイにこのヒノキのぼうの事を聞こうと思って持って来たものだ。

 そのヒノキのぼうを見た瞬間、ヨッホイが声を荒げ叫び出す。


「お、おまおまおまおまそ、それ!!」


「これか? 朝起きたらテーブルにだな…」


「売ってくれぇ!!」


「はぁ? これをかぁ? ただの萎びたぼうじゃねーか」


「それが伝説のヒノキのぼうだ! 頼む! なぁ、売ってくれ!『300万G』出す!」


「それ、この前買った島の値段!! 売った!」


 無事交渉が成立し、俺は『300万G』を口座に振り込んでもらい、ヨッホイに『伝説のヒノキのぼう』とやらを手渡す。

 入金はスムーズに行われ、一括で『300万G』が振り込まれていた。

『300万G』はこの世界では、島を買えてしまえるほどの大金である。

 なぜ、ヨッホイがそんな額の大金を一括で、そもそもなぜ持っていたのであろうか?


「なぁ、ヨッホイ。このお金って……」


「足りないのか? もう300万G出してもいいぞ」


「いや、そうじゃなくて。こんな大金どうしたんだ?」


「あん? そりゃお前、ヨップル社のiBouの売り上げに決まってるだろ」


「iBou売れすぎだろ!!」


「おう、今度iBouXが出るからよ! またCM頼むぜ!」



 こうして、無事にローンの返済と、新しいCM契約を済ませ、少し懐が潤った俺であった。




セーブしますか? ▼


▶︎はい

 いいえ


▷はい

 いいえ


セーブがかんりょうしました! ▼




〜登場人物〜



【宵闇の魔王】


時間停止能力に、魔法攻撃を全て弾くというハイスペック。しかし素のステータスは相変わらず低い。

戦闘スタイルはクールでエレガント。まるで踊っているかのような華麗な足取りが特徴。

基本スタイルは左手にiBouを構え、要所要所で、右手のiBouを逆手持ちで抜く。

戦闘中は背筋を伸ばし、ワンステップターンでの回避を多用する。


真の恐ろしさは、傍に構えるす〜ちゃんだったりする。

今回の戦闘はネットに動画として上げられ、またもやファンが増えた模様。

動画のコメント欄には「宵闇語」でのコメントが溢れてる。


〜例〜


「今宵のミサも我の内なる溝に、深く共鳴の旋律を奏でる」


(今日の動画も面白かったです!)



「夜のとばりこだまする。深淵の誘い、それは終焉の訪れ」


(今日も寝る前に、宵闇の魔王様の動画見よっと♪)



「宵闇の夜が、えと、おじゃまします!」


(宵闇の夜が、えと、おじゃまします!)『レヴィア』







【魔王様】


カズキには「イシぽよも寝る前にこのドリンクを飲んでいるわよ」と言って飲ませたらしい。

今日のパジャマはクマさん。胸が大きくて苦しいため、上から2番目のボタンは外している。



【す〜ちゃん】


宵闇の魔王をアニキと慕う可愛い魔獣。竜王なんて相手にならない。


【竜王】


世界の半分をあげるのが好き。声が可愛い。

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