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第51話『寝不足島』




「カズキくん、目の下にクマが出来ているわよ」


「最近寝付きが悪くて……」


 魔王様が俺の健康状態を心配してくださる所から、今日のオフィスワークが始まる。

 最近どうも寝付きが悪く、布団に入っても中々眠りに付けない。


 仕事を効率良くこなす上で、睡眠はとても大事だ。

 寝不足では集中力が途切れ、仕事の効率も悪くなってしまう。

 何かよく眠れるような方法がないか、魔王様に聞いてみよう。


「魔王様、オススメの睡眠法などはありますか?」


「あるわよ、とっておきのがね」


「おぉ!どんな方法なんですか?」


「睡眠魔法よ」


「それいいですね!」


「ただ、あなたは魔力耐性が低いから永睡しちゃうわね」


「ダメだこりゃ!」


 睡眠魔法はいいアイデアのようだが、俺の方がダメなようだ。

 そんな俺たちのやりとりを小春ちゃんが聴いていたようで、会話に加わってきた。


「そなら、寝具にこだわってみるのはどうどす〜?」


「寝具っていうと、枕とか、ベッドとか?」


「せや〜、今はオーダーメイドの枕なんてものもあるんよ〜」


「なるほど、確かに自分にあった睡眠環境っていうのは大事かもな。

 小春ちゃんは何かこれはオススメ!みたいな寝具ってある?」


「ん〜…やっぱり落ち着いた環境は必須だと思うんよ」


「確かにな、物音とかで目が覚めてしまうこともあるしな」


「せやから、まずは島を購入しはるといいと思いやす」


「小春ちゃん本当に島好きだね!!」


「島なら自分以外人はらへんから、落ち着いて寝れるんとちゃいます〜?」


「その答えにたどり着けるのは小春ちゃんだけだよ! 防音対策なら、普通耳栓とかだと思ってたよ!」


「今ならうちの所有する島を、お手頃価格で譲ってもえぇよ〜」


「おまけに営業もしてきた! しかも島を売り込んできたよこの子!!」


「お値段なんと、『300万G』」


「ギリギリ買えそうなラインで来た!!」


 俺の月収は、『50万G』である。月の出来に応じて、魔王様が増やしてくれたりはしているが基本は『50万G』である。

『300万G』という金額は買えないような値段ではない。

 ちなみに参考になるか分からないが、オリハルコンで出来た【伝説の剣】は『3.5万G』だ。俺が如何に高給取りか分かることだろう。

 腕を組み悩んでいると、小春ちゃんが「ローンも組める」という情報も付け足してきた。本当に営業上手である。

 先程まで買う気もなかった島というものを、購入しようかどうか真剣に考えている俺がいる。

「うぅむ…」と唸っていると、小春ちゃんがタブレットPCの画面を見せ、さらなる営業をかけてきた。


「これがその島のビーチどす〜」


「綺麗な砂浜だな、海も透き通るように綺麗だ」


「イシスはんもこの島で、バカンスをしたい〜って確か前に言ってはりましたな〜」


「買った!」


「ふふっ、ほなおおきに〜」



カズキは しまを てにいれた! ▼



 小春ちゃんとローンの契約を結び、24回払いで島を購入してしまった。


(これで、休日にイシス女王を誘ってバカンスが出来るぞ!)


「って、ちがーう!!」


「わっ、カズキさん急に大声を出さないでくださいよぉ…」


「あ、すいません。レヴィアさん」


 大きな声を出したことで、隣に座るレヴィアさんをビックリさせてしまったようだ。

 何が違うのかというと、俺の目的はバカンスではなく睡眠だ。

 気を取り直して、レヴィアさんにも聞いてみることにした。


「レヴィアさんは、何かこれはよく眠れる!みたいな方法知りませんか?」


「そうですね〜……小春さんの睡眠環境を良くするという案にはわたしも賛成です♪」


「もう島はいりませんよ?」


「リラックス出来る環境が静かな場所とは、限りませんよ。落ち着けるような寝室をデザインするのはどうでしょう?」


 なるほど、確かに落ち着いたインテリア、他にはアロマなどの香り。そういう雰囲気が、安眠に有効なのは間違いないだろう。

 その他には、観葉植物などもいいかもしれない。


「レヴィアさんのお部屋も何か落ち着けるものが置いてあるんですか?」


「あ、はい! わたしは最近アクアリウムに凝っていましてね、毎日それを見て癒されてるんですよ〜♪」


 普段とは違い、少し子供っぽい笑顔を見せるレヴィアさん。

 アクアリウムとは少し大きめの水槽などに、金魚や、熱帯魚などの観賞魚と、水草やサンゴなどの育成することである。

 お魚が大好きな彼女らしい趣味だ。


 レヴィアさんは「見ます?」と、どうやら俺に、自身のアクアリウムを見せびらかしたいご様子だ。

 別に断る理由もないので、素直に見せてもらうことにする。

 レヴィアさんから差し出されたスマホを受け取り、写真を見る。


 そこには、数匹のイルカや、アザラシが写っていた。


「レヴィアさん……これ」


「あ、その子はアシレちゃんといって、とってもお利口さんなんですよ!」


「これ、アクアリウムじゃなくて、『aquarum』だから! まんま水族館じゃないですか!!」


「前にイルカを飼ってもいいと言われましたので、作っちゃいました!」


 やたらと嬉しそうに「きゃぴきゃぴ」と話すレヴィアさん。

 そんなレヴィアさんを尻目に魔王様に(なんで許可したんですか!)とアイコンタクトを取ると、(別にいいじゃない)と素っ気ない回答が返ってきた。どこかレヴィアさんには甘い気がする魔王様。


 ともかくレヴィアさんの水族館は行ってみたいが、安眠の頼りにはならない。

 俺は最後の頼みの綱として「待ってました」と目を輝かせるマリアに聞こうとするが、質問をする前に回答を提示されてしまった。


「お腹を一杯にすれば眠れますわよ!」


「寝る前にラーメンか?」


「そうですわよ! 食後の満腹感でそのまま眠れますわ!」


「確かにご飯を食べた後のウトウト感は、なんとも言えないものがあるな」


「なら、早速今夜から実践ですわね!」


「おー!!」


「待ちなさい」


 マリアと今夜ラーメンを食べる約束をしていると魔王様が制止をかけてきた。


「何ですか魔王……俺は深夜にラーメンを食べるんです。もう何を言っても俺は止まりませんからね」


「太るわよ」


「俺もマリアも、太りませんよ」


「なぁぁぁあ!?」


「な、マリア」


「えぇ、どんなに食べても太りませんわ」


「羨ま……じゃなかった、それなら問題ないでしょうけども。寝る前に歯を磨くのよ?」


「魔王様って、たまに母親みたいなこと言いますよね」


「あなたが虫歯になっちゃった困るから言ってあげてるんでしょ!!」


「ちゃんと磨きますから安心してください」


 こうして夜中にラーメンを食べて、歯を磨くことが決定した。

 が、またもや目的を忘れてしまっていた。確かに食後のウトウトからの睡眠は心強いが、それだけでは足りない気もしていた。

 それに、毎晩ラーメンを食べるというのは、太りはしないが胃には悪い。

 有効そうだが毎日使える手では無いのだ。


 またもや「うんうん」唸っていると見兼ねた魔王様が、再び話しかけてきた。


「今まで1番ぐっすり眠れた時を、再現してみたらどうかしら?」


「1番眠れた時ですか?」


「運動した後とか、もしくは場所とか。自宅に戻って寝てみるのもいいかもね」


「そういえば、イシス女王のところで寝た時はぐっすり眠れました!」


「……………………」


まおうは いてつくはどうを はなっている! ▼


「あの、魔王様?」


「カ〜ズ〜キくん?」


「は、はい……」


「減給」


「またかよ!!ローン組んだばっかなのにぃぃい!!」


 こうして、島を手に入れたはいいが、締まらない結末を迎えた俺であった。




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