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第50話『小声カメラ』

「カズキくん、会議の資料には目を通したかしら?」


「見ました。問題ないと思います」


「そう…じゃあ、わたし取材があるから後でね」


 そう言いながら立ち去る魔王様。今日はバッチリメイクの魔王様。

 普段はナチュラルメイクなのだが、今日に限ってはかなりキリっとした印象を受ける。

 髪型も先日美容室に行ったらしく、ストロベリーブロンドの髪はとても輝いていた。おそらく色々やって来たのだろう。

 今日の魔王様はとても美しい。普段の魔王様も美しいが……今日に限っては、道を歩いていたら、老若男女問わず振り返ってしまいそうな美しさだ。


 今日はオフィスの雰囲気がいつもと違う。なぜなら、カメラがあるからだ。

 数人のスタッフがカメラを構え、俺たちの仕事風景を撮影していた。

 俺たちが、普段どのような仕事をしているかを世間の人にも知ってもらうことの一環らしい。

 日本でも、国会の様子をカメラ中継していたりする。

 トップがちゃんと仕事をしているのか、確認する側面もあるのだろう。

 カメラを気にしながら、モニターのグラフを見ていると、隣に座るレヴィアさんが辿々《たどたど》しい口調で話しかけてきた。


「か、カズキさん! コーヒーを…その、飲みますか!?」


「レヴィアさん、落ち着いてください。5分前に淹れてくれたばかりじゃないですか」


「あぅ…そうでした。すいません」


 しょんぼりしてしまう、落ち込みレヴィアたん。

 カメラがあるせいか、レヴィアさんもどこか落ち着かないご様子だ。

 レヴィアさんも魔王様同様に、今日は決まっている。

 おろし立てのOLスーツをキッチリと着こなし、髪はフィッシュボーンに編み込こんでおり、その髪を右肩から下ろしている。とっても可愛い。

 しかも普段付けないような、香水のほのかな香りまで漂っていた。


(やはり、レヴィアさんも人目を意識しているのだろうか?)


「宵闇の魔王、カメラを持っていただけるかしら?」


「違う、カズキだ」


 マリアからカメラを手渡されそれを構える。何やら、マリアはやたらとカメラ慣れしており、むしろ「自分の仕事風景は自分で撮りますわ!」と意気込んでいた。

 おそらく、普段の動画配信が彼女をそうさせたのだろう。

 マリアは魔王様や、レヴィアさんとは違って普段着ている白ジャージを着て機材をチェックしていた。

 その白ジャージが今日は何故だか頼もしく見えてしまう。

 カメラを向けるとやたらとアングルと、光の角度を指摘され、何度か角度を変えた後にOKが出る。


「ご機嫌よう!マリアですわ!」


「本日の動画は、普段わたくしがどの様に動画を撮影しているのか?…といった質問が多かったため、今回はそれをご紹介いたしますわね!」


「カメラマンは宵闇の魔王様ですわ!」


「………………ちょっと」


「ん? 喋っていいのか?」


「宵闇の魔王様ですわ!って言ったら挨拶してくださいな」


「分かった」


「じゃあ、挨拶からでいいですわよ。後で編集でなんとかしますわ」


「挨拶すればいいのか?」


「えぇ」


 マリアに促され俺は「こほんっ」と軽く咳払いをし、挨拶をする。


「どーも、カズキです」


「違いますわよ!!」


 マリアはまたもや文句を口にする。プロ意識の高さからだろうか、やたらとこだわりのある様子であった。

 マリアが言うには「宵闇の魔王」っぽく挨拶して欲しいとのことであった。

 渋々ながらも了承の返事をし、「最初から行きますわよ」とのことで、テイク3の撮影を開始する。


「ご機嫌よう!マリアですわ!」


「本日の動画は、普段わたくしがどの様に動画を撮影しているのか?…といった質問が多かったため、今回はそれをご紹介いたしますわね!」


「カメラマンは宵闇の魔王様ですわ!」


「あの、えっと、その〜…宵闇の魔王です」


「はい、カット……もうカメラマンはいいですわ」


 マリアは呆れ顔でそう言うと、俺からカメラを取り上げ、自分でカメラを持ちながら撮影を始めた。


(一体何が不満だったのだろうか? 俺はちゃんと宵闇の魔王って言ったぞ)


「ふふふっ、マリアはんはもっとけったいな事を言いはるカズキはんを、期待していたようどす〜」


「俺は芸人じゃないぞ?」


「まぁまぁ、そんなこと言わんといてな〜」


 少しムッとする俺に対して、諭すような口調で落ち着くように言う小春ちゃん。

 小春はカメラなど、気にしてもいないようで普段と変わらない様子だ。

 いつも通り羽織のいい着物を着て、ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべていた。

「カリスマ企業家こはるん」にとってはカメラなど、慣れたものなのであろう。


「小春ちゃん、どうしたら俺も小春ちゃんみたいに落ち着けると思う?」


「ん〜? うちは十分落ち着きはってはると、思いますえ〜」


「でも、今日はカメラがある事でどうしても意識しちゃうんだよなぁ…」


「ほなら、いい案があるよ〜」


 俺が首をかしげていると小春ちゃんは、おもむろに顔の前に小さな手を構え、「にこっ」と笑うと、普段のおっとりした声をとは別の声で喋りだした。


「我はこはるん。黄金を統べるもの」


「みんな、本当に宵闇の魔王好きだな!!」


「ふふふっ、冗談どす〜。せやけど、肩の力は抜けたとちゃいます〜?」


「あ、本当だ」


 小春が冗談を言うとは思ってもみなかった。しかし、それはどうやらカメラを気にする俺に対して、和ませようとする小春ちゃんの気遣いであったようだ。


(なるほど、部下に対する気遣いもって……ん? 俺は小春ちゃんの部下だったのか?)


「小春ちゃん、小春ちゃん」


「ん〜?」


「俺は小春ちゃんの部下なの?」


「そんなわけないでしょ」


「あ、魔王様戻ってらしたんですね」


「それより、カズキくん。小春ちゃんの部下になりたいの?」


「い、いえ。そういうわけでは……」


 魔王様は、『凍てつく波動』を放ちながら「減きゅ…」と口にするが、カメラをチラリと見ると口を閉ざし、自身のデスクへと戻ってしまった。

 どうやら、機嫌を損ねてしまったらしい。


「あの、魔王様」


「何かしら?」


「今日はその、カメラがあるので落ち着きませんね」


「そうね。でも、これも仕事の一環として大事な事なのよ」


「そもそも、どうして取材を受けようと思ったんですか?」


 魔王様が「それは……」と言いかけた所で、オフィスの扉がいきなり開き……



かみさまが あらわれた! ▼



「おぉ、ヨッホイ……じゃなないだとぉ!?」


「お〜!カズぽよ〜、おっひさ〜。ま〜ちゃんも取材お疲れ様〜!」


「あっちゃんの番組『明美の部屋』の特大スペシャル番なのよ」


 神様の番組『明美の部屋』とは以前も軽く触れたが、スタジオにゲストを迎え、神様とトークをしたり、神様の『今週のギャルメイク』を紹介したりする人気番組である。

 魔王様の話によると、今回はスペシャル企画という事で魔王城にお邪魔し、撮影を行っていたようだ。


「神様、よろしいのですか? 教会の仕事はしなくても……」


「あっ、それならドラぽよがぜ〜んぶやってくれるーみたいなっ☆」


「ドラゴン本当に何なの!? なんでそんなに優秀なの!?」


「最近だと、ドラぽよのお料理本が大ヒットしたんだよ〜!」


「なんで、本出してるの!? そもそも、どうしてそんなに女子力高いの!?」


「ん〜、やっぱりアレじゃない? 頼りない人が近くにいると〜、やっちゃう的な?」


「母性本能! しかも、自分のこと指さしながら頼りないとか言ってるよこの神様!!」


「じゃ、そろそろ帰るね〜!」


「唐突だな!」


 神様は「ほんじゃね〜!」と手を振ると一瞬にして消えてしまった。ドラゴンも毎日このように苦労しているのかと、同情してしまう。

 それを見ていた魔王様が嘆息混じりにため息をついた。


「あっちゃんは本当に相変わらずね」


「神様って昔からあんな感じなんですよ…ね?」


「そうよ。急にぱーっと盛り上がって、さーっとどっかに行っちゃうの」


「魔王様とは正反対ですよね」


「あら、わたしはどんな感じなの?」


 魔王様の質問に対し、どう答えるか考えているとその答えにレヴィアさん、マリア、小春ちゃんも興味があるようで、こちらをジッと見つめていた。


 俺は少し恥ずかしくなり、魔王様にしか聞こえないように小さな声で耳打ちした。

 どう思っているかを伝えると、魔王様は嬉しそうに笑い「ばーかっ」と小バカにしたようにからかってきた。


 何を言ったかは俺と魔王様、2人だけの秘密にしようと思う。


 たまには、そういうのもいいだろ?




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