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第46話『失敗ショッピング』

「過ちを気に病む必要はないわ。それを認めて、次の糧にすればいいの」


「それが大人の特権だ」


 魔王様と息の合ったコンビネーションを見せ、今日もデスクワークがスタートする。気分は赤い彗星の再来である。

 しかし、これでは今日はなんの仕事をするのか一向に分からない。


「魔王様、今日の仕事はなんですか?」


「反省会よ」


「それって、悪いことを振り返る的な〜ことですか?」


「そうよ。今までの失敗から学び、繰り返さないために。そして、より良いものを作るための反省会よ」


 魔王様がいつになく真面目な表情をしていらっしゃる。大きな瞳をすぅーと細め、何やら昔の事を思い出しているようだ。きっと遠い昔の失敗を思い出しているに違いない。

 その経験、糧が今の素晴らしい魔王様を形成したのだろう。


「カズキくんのツッコミってワンパターンよね」


「そっちかよぉぉぉぉおお!!」


「それはわたくしも思っていましたわ!」


「うちも口には出さんかったけど、そう思いやす」


「あ、わたしはえとっ……ツッコミ?ってなんですか?」


 レヴィアさんだけ的外れなことを言っているが、概ね皆同じ意見なようであった。

 そもそも、ツッコミがワンパターンと突っ込まれるとは何事だろうか?俺は芸人か何かだったのだろうか?

 そんな芸人に魔王様が新たなツッコミを提案してきた。


「試しにノリツッコミしてみなさい」


「はい?」


「違うわよ。ノリツッコミっていうのはね……」


「いいですよ、やりますよ。じゃあ試しにボケてください」


「昨日、ライブ盛り上がったわね。特にわたしのエアボーカル!」


「そうそう、魔王様の歌声が会場中に響き渡って……って! エアボーカルかよ! しかもライブした方かよ!」


「只今のツッコミ、7点」


「わーい! って! 点数付けるの!? 何気に高いし!」


「5点満点中」


「出来過ぎだった!!」


 魔王様はいつもの様に口元に手を当て、悪戯っぽくほほ笑んだ。どうやらからかわれていたようだ。

 だが俺のツッコミは置いておくとして、反省をすることは大事である。

 他のみんなもそう考えているようで、何か思い当たる節があるようだ。


「レヴィアさん、レヴィアさん」


「なんでしょう?」


「レヴィアさんでも、失敗することってあるんですか?」


「そんなのしょっちゅうですよ〜」


 レヴィアさんでも、失敗することがあるらしい。しかし思い返してみれば、そこそこやらかしていた。大体が……


「この前なんて、カップ焼きそばのソースを湯切り前に入れてしまいまして…」


「可愛い! レヴィアさんの失敗は可愛い!」


 そう、レヴィアさんの失敗の仕方はとても可愛いのである。『うっかりレヴィアたん』のあだ名を贈呈して差し上げよう。

 うっかりレヴィアたんがカップ焼きそばを食べていたのは意外であったが……


「レヴィアさんはカップ麺などをよく食べるんですか?」


「あ、頻繁に食べるわけではないのですけれど……時々梅先輩からおススメされたのを食べたりしてますよ!」


「あの人楽屋でも、食べてましたもんね」


「先輩のオススメは、どれも美味しかったです♪」


 梅先輩こと、プリムさんとの仲の良さが分かるほのぼのエピソードを聞いて微笑ましい気持ちになったところで、向かい側に座るマリアと小春ちゃんに話しかける。


「2人は何かこれは失敗した!みたいなことってある?」


「ありませんわね!」


「せやな〜、マリアはんはもう少し反省することがあると思いやす」


 マリアは小春ちゃんにそう言われると少し考えこむ仕草をする。た〜ぷりと悩んだ後にウンウンと頷き……


「無いですわね!」


「嘘つくな! ありまくりだろ!反省の塊のようなやつだろ!」


「完璧なわたくしに、失敗なんてありえませんわ!」


 マリアは長い髪をふわりとかきあげ、すまし顔をしている。

 だが、俺は知っている。


「お前この前、配信切り忘れたよなぁ?」


 マリアは一瞬「ギクッ」としたが何事も無かったかのように平然と振舞っていた。しかし目を逸らしどこか落ち着かない様子だ。

 それもそのはずである。マリアは先日ゲーム配信を行ったのだが、あろうことにカメラを切り忘れ寝てしまったのである。


「誰がカメラ止めたと思ってるんだ?」


「その節はどうもお世話になりましたわ!」


「あと、お前部屋汚い」


「ダメ出しされましたわ!?それにどうやって部屋に入りましたの!?」


「鍵を開ける魔法を知らないのか?」


「ズッキーそんな魔法使えましたの!?」


「あ、その時はわたしが開けました♪」


「レヴィアさんでしたの!?」


「それから、お前『今月のお気に入り』とかいう動画今月もう2回やってるからな」


「動画内容まで、ダメ出ししてきましたわ!」


 マリアは疲れたのか机に突っ伏して、しまった。どうやらそこそこ反省をしたようである。


「じゃあ、マリア弄りもこの辺にして小春ちゃんは何かある?」


「やっぱりわたくしイジメられてましたの!?」


 かばっと起き上がり抗議してくるマリアを他所に小春ちゃんは「せやなぁ〜」と羽織りのいい着物の袖を口元に添える。

 ちなみにこの着物は毎朝自分で着付けているそうだ。

 小春ちゃんは何か思い出したのか、少し頬をあげ人懐っこい笑顔を見せる。


「この前な、同じものを2つこうてしもうたんよ〜」


「それは、分かるな。俺もやってしまったことがある」


「前から買おう、買おう思うて。せやけど買ったのを忘れてもうてな〜」


「ところで、何を2つ買ったんだ?」


「島どす〜」


「はい?」


「せやから、島どす〜」


「……………」


 あまりにビックな買い物に言葉を失ってしまう。島を買うとはどういう事なのだろうか?そもそも何をするために買うのだろうか?

 頭を悩ませ「うぅむ」と唸り声を出す俺に小春ちゃんが用途を教えてくれた。


「休日にバカンスに使こうたり、あとは牧場なんかの運営もしとるんよ〜」


「牧場って……ソフトクリーム?」


「せや〜、牛さんをのびのびと育てるんには、いい環境が必須なんよ〜」


 小春ちゃんのビジネスの恐ろしさを、改めて思い知らされる。

 俺が食後に毎日食べるのを楽しみにしているソフトクリームは、小春ちゃんの見えざる努力と、大きなお金の力によって出来ているようだ。


「どう? 少しは失敗談もためになったんじゃないかしら?」


「そうですね、魔王様。色々考えされられる部分がありました」


 魔王様は「でしょ?」と笑いながら艶やかな唇にコーヒーカップを運ぶ。どうやら今淹れてきたばかりのようで、コーヒーのいい香りがあたりに漂っていた。

 その光景をぼんやりと眺めていたら、突然魔王様が咳き込み始めてしまった。


「ま、魔王様! どうしたんですか!?」


「……舌を火傷したわ」


 舌をべーと見せ、バツの悪そうに笑う魔王様。

 その失敗はとても可愛らしく、そして微笑ましいものでもあった。





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