第45話『歯磨きスリッパ』
「ほい、とーちゃく!みたいなっ」
ドラゴンは俺を降ろすと、以前のような黒ギャルの姿に一瞬にして変わった。
ドラゴンの姿をよく見ると、以前とは髪の毛の色が変わっている。前に見た時は赤髪だったが、現在は黒髪になっており、ワンポイントで赤いメッシュが入っていた。そしてその髪をツーサイドアップに結っていた。
神様の影響なのだろうか、とてもおしゃれである。
さらに、何故か……
「なんで、セーラー服着てるのかなぁぁぁあ!?」
「あ、これ?いいっしょ! あけぽよに作ってもらったんだよ〜! いる?」
「いらねーよ! 神様何作ってんだよ!?」
創造主たる神にとっては制服の創造も容易なのかと想像してしまう。
いつまでもギャルの制服に見惚れているわけにはいかないので、気持ちを切り替え辺りを見渡す。
少し離れたところに、禍々しい雰囲気を醸し出す洞窟と、そこそこ大きいな一戸建ての家が建っていた。
目的地は洞窟だろう。しかし、ドラゴンが向かった方向は一戸建ての家ほうであった。
「えっ、そっちなの?」
「あ、あの家あーしの家だよ〜!」
「ドラゴンの家だったの!?」
「勇者とルームシェア中!みたいなっ!」
「色々おかしいだろ!!」
「ちなみにあの洞窟は前に使ってたあーしのダンジョンね!」
「…そっちに、住まなくて良かったのか?」
「だって、入るの面倒いし…」
「毎回入り口から入ってたのか?」
「そう! だからあーしがね!魔王様に上に穴空けて入りやすくしてもいいー?って聞いたら、『ダメよ、外観が悪くなるでしょ?』て言うんだよ〜?まじ酷くな〜い?」
「ダンジョン壊しちゃダメって、そっちかよ!」
ドラゴンは以前に魔王様に文句を言ったことがある。
「ダンジョンを破壊しては何故ダメかと」俺はこれが戦闘の際の事だと思っていた。魔王様もダンジョンを破壊したら、修理費がかかるからだと思っていたが、真相はどうやら違ったようだ。
上司と部下の些細ないざこざはどこでも同じらしい。
ドラゴンはやたらと派手なサンダルを上機嫌に自身の家に向けて歩きだし、俺も後をつける。
歩きながら家を見渡すと中々大きな家である。それに庭まで付いており小さな花壇や、野菜だろうか?作物を育てるスペースまであるようだ。
(ドラゴンの家が試練の場所なのだろうか?)
「ほい、着いたよ〜!」
「……おじゃまします」
ドラゴンは玄関の戸を開き、そして慣れた手付きでスリッパを取り出した。
「お前本当にドラゴンなの?」
「ドラゴンだよ〜! あ、ちなみにあっちの洞窟も土足厳禁だから!」
ドラゴンはかなりの綺麗好きであった。おそらく車に乗る時も「土足禁止」と言うタイプだろう。
スリッパが収納されていたところを目を向けると、他にはウサギさんのスリッパが入っていた。
それを見ているとドラゴンが「あ、それレヴィちゃんのだよ〜!」と教えてくれた。
(こいつ、絶対ドラゴンじゃない)
*
「よく来たわね! 宵闇の魔王!」
「違う、カズキだ」
「ほんじゃ、あーしはお茶淹れてくるよ〜!」
「頼んだわ!!」
「ねぇ、ほんとにあいつドラゴンなの!?」
ドラゴンは勇者を残し、ルンルン気分で台所と思われる場所へと向かった。
ここは、どうやらリビングのようであった。センスのいいソファ、大きなテレビ、戸棚には高価そうなワイングラスが並んでおり、その横にはいくつかのお酒のボトルが置かれていた。
確か、ドラゴンはお酒が好きだと言っていた覚えがある。
そのドラゴンがカチャカチャと食器の音をさせながらリビングに戻ってきた。どうやらお茶が入ったようだ。
「ほい、オリジナルハーブティだよ〜」
「あ、あぁ」
「うちの庭で採れたので、作ったんだよ〜!すごいっしょっ?」
「お前さては、ドラゴンじゃないなぁぁあ!!」
「んなっ! さっき背中に乗せてあげた仲じゃん!」
「そうじゃないよ! なんでそんなに女子力高いんだよ!? もっとガサツだと思ってたよ!!」
「あ〜、流石のあーしもそれは傷付くなぁ〜」
ドラゴンは、少し落ち込んだ表情を見せる。そして、ソファに座りこみふてくされ気味にスマホを弄りだしてしまった。
(すこし、言い過ぎたかな。謝ろう……)
「あ、もしもし! あけぽよ〜?うん、あーし、あーし!さっき嫌なことあってさ〜、今日飲みに行くっしょ?」
「そこ、神様に電話しない! 落ち込んだフリしてお酒を飲もうとしない!」
ドラゴンはニヤニヤと笑いながら、電話を切りこちらに向き直る。どうやら先程のは落ち込んだ演技だったようだ。
「ねぇ、あーしが落ち込んだと思った? ねぇ? どうなのっ?」
「はいはい、思った、思った。悪かったです〜」
「カズぽよ、レヴィちゃんにもそんな感じなわけぇ?」
「何言ってんだ、レヴィアさんは尊敬出来る人だからな。ちゃんと、接しているぞ俺は」
ドラゴンはその言葉を聞くとまたもや「ニヤニヤ」と笑いだす。
ドラゴンにばっかり構っているわけにはいかないので、試練を受けるために代理で四天王を担当している勇者に話しかけようとするが……居ない。
俺の意図を察したのかドラゴンが「さっき上の階に行ったよ〜」と教えてくれた。
人様の家を勝手に出歩くのは気が進まないが、仕事なのでドラゴンに許可をもらい上の階へと向かう。
上の階のドアにメッセージボードがぶら下がっており、そこには……「勇者の仕事部屋!」と可愛いコロコロとした文字で書かれていた。
(ここか……)
コンコンと扉をノックし、開くのを待つ。中から慌しい足音が聞こえ、扉が開いた。
「はいはいー! 今開けるわよ!」
「上の階で何やってるんだ……って、うおっ」
部屋には、パソコン、無数の百合小説、漫画があり、パソコンの画面には描きかけと思われる百合漫画のイラストが表示されていた。
「ここで、漫画描いてるのか?」
「そうよ! 最近じゃ、神龍先生のアシスタントの傍らでこうして自分の漫画を描いてるわけ!」
勇者が百合好きで、百合漫画家志望だという話は以前にも聞いたことがあったが、これほど本格的だとは思ってもみなかった。
「と、ここに来た目的は試練だったわね! あたしの試練は難易度高いわよー?」
「望むところだ、大食いバトルか?」
「違うわよ!」
「じゃあ、何だ?」
「百合小説を書いてもらいます!」
「はぁぁぁぁぁぁあ!? 無理に決まってるだろ!?」
「それをあたしが漫画化するわ!」
「何その、バグ○ン展開!?」
勇者は俺の言葉など聞いていないかのように、原稿用紙を俺に差し出してきた。
(四天王という生き物は、原稿用紙に何かを書かせるのが好きな生物なのだろうか?)
「お題は、そうね……歯磨き粉よ!」
「難しい過ぎる!どうやって歯磨き粉で百合小説書けっていうんだよ!?」
「出来る出来ないじゃない。やるのよ!」
「ここにきて根性論かよ!?」
俺は仕方なく、『歯磨き粉』で百合小説を書いてみる事にする。
登場人物は身近な人がいいだろう。
『歯磨き粉』
マリア「おはようございますわ…」
小春「ふふっ、口元にヨダレの跡がついとるよ〜。顔を洗ってきたらどうどす〜?」
マリア「ん〜…」
小春「それからマリアはん、ちゃんと歯を磨いてな〜」
マリア「分かってます、わよ……ふぁ〜」
〜洗面所に移動中〜
マリア(……歯磨き、歯磨き……歯磨き粉は……無いですわね)
マリア(まぁ、いいですわ)
マリア「しゃか、しゃかしゃかしゃか」
小春「マリアはん」ひょこ
マリア「ふぁんへすの〜?」
小春「歯磨き粉が切れとったやろ〜? せやからうちが持って………ふふっ」
マリア「何を笑っているのかしら?」
小春「その歯磨きうちのやで〜」
マリア「…………あ、ごめんなさい。わたくし寝ぼけてて…」
小春「えぇんよ〜、それより…」
マリア「?」
小春「"小春味"の歯磨き粉はどうどす〜?」
マリア「〜〜〜っ!///」
*
「エクセレント! やるわね!」
「やったぜ」
どうやら、上手く書けたようである。勇者も満足げに俺の原稿を見て頷いていた。
「まさか歯磨きによる関節キッスを、歯磨き粉の味と表現するとは思わなかったわ!」
「俺、才能あるかも」
「これなら、すぐに漫画化ね! 魔王様に見せてくるわ!」
「えっ、ちょっと! 待って!?」
俺の制止も聞かずに勇者は移動魔法で消えてしまった。どうやら、本当に魔王様の所へ行ったらしい。
(これは、非常にまずい)
*
ーー後日
「カズキはん、うち少し話があるんよ〜?」
「わたくしもですわ」
「ふ、2人とも目が怖いよ…」
その後、2人にスペシャルパフェを奢る。ということで決着がついた。とんだ出費である。
それと……
「カズキくん、四天王の視察はどうだった?」
「疲れました……。でも、ちょっと楽しかったかもしれません」
「ふふっ、でしょ? やっぱり冒険は楽しくないとねっ」
こちらにウインクをして見せながら微笑む魔王様。その笑顔を見たら、この数日間の疲れなど吹き飛んでしまった。
「あ、ところで…」
「何ですか?」
「現在代理となっている四天王が正式に決まったわ」
「誰なんですか?」
「勇者よ」
「それ、ただの本採用やろ!!」
「漫画と両立出来そうと、先程連絡があったわ」
「むしろ、挑戦者に小説書かせて、それを漫画化して効率アップ!とか考えたんだろ!」
「あ、それわたしが提案したのよ」
「元凶は魔王様だった!?」
こうして次の四天王も無事決まり、俺の四天王視察の仕事は終わったのであった。
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〜登場人物〜
【ドラゴン】
ギャルのドラゴン。神様の元で修行を積み着々とカリスマギャルへとレベルアップ中。勇者とシェアハウスをしている。お料理はそれなりに出来る。最近の趣味は家庭菜園。
【勇者】
代理四天王から、本採用になった勇者。日々百合漫画を描く。絵のレベルは上がったが、話を考えるのは苦手。




