第41話『ベテラン挨拶』
『どもども〜っ! あっちゃんこと、明美です!』
『今日の明美の部屋はなんと、ゲストが来てる〜みたいなっ!』
『それでは、早速お呼びいたしましょう〜!この方で〜す!』
今、スマホの画面に映し出されているのは、大人気番組『明美の部屋』だ。現在、船のデッキにて動画鑑賞中である。
この番組はパーソナリティの明美こと神様が、自身の知識や、ゲストをお迎えしてトークショーをしたりする番組で、人気コーナーは『あっちゃんのギャルメイク講座〜!』と『ご家庭で出来る!骨折の治し方!』だ。
さて、今日のゲストは一体誰なのだろうか?
『久しいな、古の賢者よ。悠久の刻を過ごす、我にとっては、ほんの一瞬であったが…』
『と、いうわけで、宵闇の魔王さんで〜す!』
「俺、何やってんのかなぁぁぁあ!?」
「わぁっ! 急に大声を出さないでくださいよぉ〜!」
俺は「ごめん、ごめん」と一緒に動画を見ていた、す〜ちゃんに謝る。
ちなみに、魔王様は既にご帰宅された。あの後魔王様は数枚の写真を撮り、さらに俺にプールで泳いでる自身の姿を撮らせると、帰ってしまわれた。
俺のスマホにレヴィアさんから着信が何件もあり、どうやら仕事を抜け出して来たようである。
(まったく何しに来たんやら……)
*
船から無事に降り、少し休憩した俺は再びす〜ちゃんを助手席に座らせ、車を走らせている。
帰りもアレに乗ると思うと少し気が滅入ってしまいそうになるが、そのことは考えないようにし、目的地の始まりの洞窟を目指す。
始まりの洞窟は勇者や、冒険者が最初に挑戦するダンジョンとして作られている。
低レベルなモンスターや、簡単なダンジョン構成。おまけに宝箱には実用的な薬草や、毒消し草などの回復アイテムを配置してある。
魔王様曰く、「カズキくんでも、クリアー出来るわよ」だそうだ。
レヴィアさんからの報告によると、今日は駆け出しの冒険者が挑戦に来るとの事で、す〜ちゃんにとっては絶好のチャンスなのである。
目の前でスライムがやられるのは心苦しいものがあるが、それが仕事だからと割り切る。
俺も何回かこの世界で死亡した経験がある。風で飛ばされたり、勇者にやられたり。だが痛みなどは全くなく、むしろ復活した後は肩コリが無くなったほどだ。
神様曰く「サービスしといたよっ☆」だそうだ。
(あれか……)
【このさき はじまりのどうくつ】
看板に書かれた文字を読み指し示す方角を確認する。
明らかに簡単そうな、洞窟の入り口が視界に入る。
入り口の雑草の、手入れまでされている。おまけに、入り口付近で薬草の無料配布までされているではないか。
「確かに、俺でもクリアー出来そうだ」
「あれがわたしの新しい職場ですかっ?」
「あぁ、とりあえず今日駆け出しの冒険者が来るそうだから中で待機しよう」
す〜ちゃんは「分かりましたっ」と元気に跳ねながら車を降り、洞窟へと向かう。
俺も入り口付近のモンスター達に挨拶を済ませ後を追う。
「カズキ殿!今度ゴブバを教えてくだせぇ!」
「時間があったらな」
*
洞窟内部に入り初めて来た時の事を思い出す。
あたりは洞窟にしては明るく、上を見るとご丁寧に照明まで付いていた。
このダンジョンをクリアーするためには最奥…と言っても徒歩5分程度で到着するが、最奥で待ち構えるボスを倒し、クリアーといった運びだ。
早速、このダンジョンの管理職に就く、ボスモンスターに挨拶をする。
ここのボスモンスターはドラキーと呼ばれるコウモリタイプのモンスターだ。
「お疲れ様です、ドラキーさん」
「キキッ、カズキ殿お疲れ様です」
「こちら、新しくこちらで働かせていただくスライムのす〜ちゃんです」
「あ、あのあのっ、よろしくお願いしますっ」
「キキッ、元気がいいですな。それでは早速冒険者が来たようなので出迎えをお願い出来ますかなっ?」
「は、はい! 頑張ります」
俺は少し心配なので、す〜ちゃんに声をかける。
「俺も影から見てるから、リラックスして行こう」
「大丈夫ですよ! そんなに心配しなくてもっ」
「それなら、やられた時に落とす用のGは持った?」
「持ちました!」
す〜ちゃんはそう言うと、またもや元気に跳ねながら入り口付近に行ってしまった。
俺はドラキーにペコリと頭を下げ、す〜ちゃんの後を小走りで追う。
念のため、今回はスーツではなくかあさんのローブこと、「前魔王のローブ」を装備している。
もちろん「iBou」や、「祈りの指輪」も装備のフル装備状態だ。
(す〜ちゃんは……)
スライムが あらわれた! ▼
俺が駆け付けた時にはスライムと、駆け出しと思われる冒険者はエンカウントしており、既に戦闘が始まっていた。
そして……
スライムは メラゾー「まてまて、まてぇい!」
ミス! とびこんできた カズキに じゅもんは はじきかえされて しまった! ▼
「なんで邪魔するんですかっ!」
「今、最上級炎魔法唱えようとしたよなぁ!?」
「はい、挨拶がわりに…」
「それ、さよならの挨拶だからぁぁぁぁあ!!」
俺は駆け出しの冒険者に頭を下げ、今日の所は引き取ってもらうことにし、す〜ちゃんに事情聴取を行う。
「なんで、最上級炎魔法が使えるんだ?」
「最上級氷魔法や、回復魔法も沢山使えますよっ」
「………………」
言葉を失い、再びす〜ちゃんのステータスを確認する。
【HP999999999999999999999………】
見るのを諦めた。
「あの、す〜ちゃんさん? HPがおかしな事になっているのですが?」
「あ、わたし勇者様よりHPが多いんですよ!」
「そういう事はもっと早く言おうね!?」
「昔、ま〜ちゃんと、あっちゃん二人を同時に相手した事もありますよ!」
「あの二人を同時に相手出来るとかおかしいからね!?」
「あ、今は魔王様には全然敵わないのですが……」
「ここ始まりの洞窟だからね!?ファーストバトルだからね!?それは神々ファイナルバトルだから!!」
「あの〜? わたしの始まりの洞窟への移動は〜?」
「無理に決まってるだろぉぉぉお!!」
*
ーー後日
魔王様にす〜ちゃんが強過ぎるため、始まりの洞窟勤務は不適切と判断し、連れ帰ったことを報告した。
す〜ちゃんが他のモンスター達に「戦うな」と言われていたのは、強過ぎるかららしい。
聞いた話では、かあさんより前の魔王様の頃からいた、超"ベテラン"スライムだそうだ。
魔王様は当然そんな話を知っていたようだが、「面白いから」という理由で俺に任せたようだ。
(気が付いていたのなら、言って欲しいものだが……)
そして、もうひとつ問題が出来た。
「す〜ちゃんの魔王城復職手続きは、カズキくんがしなさいね」
「魔王様がやってくださいよ!」
「なら、あなたの部下にしておくわ」
「はぁぁぁぁあ!?」
「す〜ちゃんも構わないわね」
「はい!頑張ります!」
「は? えぇぇぇぇぇえええ!?」
カズキに ぶかが できた! ▼
セーブしますか? ▼
▶︎はい
いいえ
▷はい
いいえ
セーブがかんりょうしました! ▼
〜登場人物?〜
【す〜ちゃん】
魔王城が出来た頃から勤務する大ベテラン。むしろ大御所。その戦闘力は、魔王城に初めて、やって来た頃のま〜ちゃんと、あっちゃんを同時に相手に出来るほど。
現在の強さ的には、勇者以上かあさん未満。
戦闘スタイルは上級魔法を連発して唱える。
カズキの部下となったが、基本的には魔王城で毎日元気にぴょん、ぴょんと元気に跳ねているのが仕事。
頭に付いてるリボンはレヴィアさんに付けて貰ったお気に入り。
一応女の子。
【カズキ】
最近キャラの立ってきた主人公。1部とは違いボケもこなす。
ラーメンバカで、車に乗るとハイになり、潜在的な厨二病患者。
イシス女王のファンで、まおデスカード初代チャンピオン。
酔いやすいタイプ。移動魔法でも酔う。自分で運転するなら大丈夫。
飛行機に乗った際には酔わないように、寝ていた。
最近は1人で仕事を任される機会も増えて来た。宵闇の魔王は子供に大人気。
子供達の間では「宵闇ってる」という言葉が流行りだす。
〜大まかな強さランク〜
SSS.魔王、神様
SS.かあさん
S.す〜ちゃん
A.宵闇の魔王
B.勇者
〜そこそこの壁〜
F.カズキ
カズキ「何で同系統の能力の宵闇の魔王が、す〜ちゃんより弱くて、かあさんは強いんだ?」
魔王「単純なパワーの差と、発動時間の関係ね」
カズキ「どういう事ですか?」
魔王「発動時間の代償に、生きた時間を消費するじゃない?」
カズキ「そうですね」
魔王「ストックが20年ちょっとのあなたより、攻撃力、発動時間に優れるお母様の方が、相手のHPを削る速度が早いからよ」
カズキ「宵闇の魔王の能力発動時間、攻撃力だと、す〜ちゃんのHPを削り切れないってことか」
魔王「そうね、大体合っているわ」
カズキ「かあさんが魔王様や、神様に敵わないのも同様の理由ってわけですね!」
魔王「ま〜ちゃんは強いんだからっ」
カズキ「……はいはい、そうですね〜」
魔王「何でそんな呆れ顔をするのよ!」
〜おまけ〜
カズキ「モンスター呼び!来い!す〜ちゃん!」
しかし だれも あらわれなかった! ▼
カズキ「あれぇ?」
魔王「カズキくん、モンスター呼びは消費MP20よ」
カズキ「俺、MP1だった……」




