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第37話『魔王ドリップ』






「オッス!おら魔王!」


 魔王様が自身の戦闘力がサ○ヤ人並みなのをいい事に「身勝手の極意」をしている。

 ちなみに以前貸した、バトル物の少年漫画の影響を受けたのだろう。

 今日の魔王様はやたらとテンションが高い。現在魔王城オフィスにて、デスクワーク中である。

 しかし、いつもとは様子が違う。


 俺と魔王様の2人きりなのだ。



 以前にも、マリアは……大体居ないが、自身の城に帰省していたり、小春ちゃんがビジネスでジパングに行っており、不在だった日もあった。しかし、今日はレヴィアさんを含め3人とも不在だ。

 ちなみにレヴィアさんは休暇だそうだ。


 いつもうるさくはないが、人は居るオフィスが静かで少し寂しい。


「なんか、オフィス広いですね」


「そうね」


「こういうの始めてですよね……」


「昔、わたしはレヴィアの居ない日は1人で仕事をしていたわよ」


「そうなんですか……」


 会話が途切れ再びあたりがシーンとしてしまう。このままじゃいかん!


「魔王様!ラーメン食べますか!?」


「なんでそうなるのよ!」


「じゃあドライブにでも行きますか!」


「嬉しいお誘いだけど、今は仕事中よ!」


「魔王様仕事してください」


「カズキくんもね!」


 魔王様と楽しい会話を繰り広げた所で、今日の仕事の指示を貰っていない事に気がつく。

 聞いてみよう。


「魔王様、今日は何をやるんですか?」


「今日は社員の要望シートをチェックするわよ」


「要望シート?」と俺が首を傾げていると、魔王様は「これよ」といくつかの紙をまとめたファイルを見せてくださる。


「これが要望シートですか?」


「そうよ。社員の人達の要望…つまりこうして欲しいとか、そういう事が書いてあるわ」


「なるほど……」


 俺は1枚の要望シートに目を通す。どうやら指名を書かずに匿名で希望を書けるようだ。

 そして、書いてあった要望は……



【ラーメンの種類を増やしてくださいな!】



「その通りだ!!」


「ちょっと、いきなり大声を出さないでくれる?」


「魔王様、食堂のラーメンの種類を増やしてくださいよ」


「前に増やしたじゃない」


「家系、大勝軒系、つけ麺、二郎系、博多豚骨系だけじゃ足りないですよ!」


「普通、塩とか、味噌とかだと思ったのに、それだけ増やしてまだ増やして欲しいの?」


「いえ、ありがとうございます!」


 おそらくマリアだと思われる要望は、大方満たされていた。

 さて、次の要望は……



【イルカを飼ってもよろしいでしょうか?】



「別にいいんじゃないですかね」


「そうね」


 幸いこの魔王城には広大なスペースがある。水族館を開けちゃうくらいだ。そういえば以前レヴィアさんが水族館に行きたいと言っていた覚えがある。

 この可愛い字はもしかしたら、レヴィアさんのものなのかもしれない。

 と思っていたら、文面の最後に小さく「レヴィア」と記載されていた。名前を書く必要は無いが、書いてしまう所が実に彼女らしい。


 明日イルカを飼ってもいいと伝えておこう。



 レヴィアさんの要望を叶えた所で、魔王様が質問をしてくる。



「カズキくん」


「なんですか魔王様?」


「仕事をするのもいいけれど、ちゃんとうちには帰っているのかしら?」


「あ、いえあんまり」


「ダメよ、たまにはお母様にちゃんと顔を見せないと」


「分かってはいるんですが……」


「あ、もしかして……恥ずかしいのかしら〜?」


「そんなわけないじゃないですか!」


「ふふっ、今度の休みに一緒に行ってあげましょうか?」


「間に合ってます!」


 魔王様は小バカにしたような口調で俺をからかってきた。

 どこか楽しそうな魔王様。俺はそんなに楽しくはない。

 そして俺の抵抗も虚しく、次の休みを魔王様と合わされてしまった。本当に行く気なのだろうか?


 そんな事を考えぼんやりとしてしまうが、魔王様が席を立ち「コーヒーを淹れてくるわ」と言うので、俺も手伝うために後を追う。


 いつもはレヴィアさんが、とてもいい美味しいコーヒーを淹れてくれている。

 以前、魔王様が淹れてくれたコーヒーは少し苦かった思い出がある。


 オフィスの一角に設置されたミニバーの前に立ち、自分の分のコーヒーを用意する。

 レヴィアさんはドリップコーヒーを毎回淹れてくれているが、俺は面倒なので目の前に置いてあるコーヒーマシンを使って淹れる。

 しかし、ボタンを押そうとした瞬間にネイルが彩られた綺麗な手が視界に入った。


「待ちなさい」


「なんですか、魔王様?」


「今日は魔王コーヒーを淹れるわ」


「あの重力魔法で豆を砕くやつですか?」


「そうよ」


 魔王様はそう言うと袋からコーヒー豆を取り出す。それを宙に浮かべると一瞬にしてコーヒー豆がペースト状になる。

 砕いたコーヒー豆をペーパーフィルターに素早く落とし、お湯を注ぎ蒸らす。完璧だ。


「魔王様いい匂いがしますね」


「でしょ? レヴィアには負けちゃうけどね」


 魔王様はそう言って微笑むと、再びお湯を注ぐ。俺は戸棚から魔王様のカップと、自分のカップを用意し魔王様に差し出す。


「あら、気が効くわね」


「魔王様のカップって可愛いですよね」


「オリハルコン製だから割れないのよ」


「オリハルコンの無駄遣い!?」


「あら、あなたのカップだってそうよ」


「なんだってぇ!?」


 俺は自身のカップをまじまじと眺める。白いカップで、小さい猫ちゃんがちょこんと座っている。

 ここに来たばかりの頃に魔王様がくださったお気に入りのカップだ。


 どうやらコーヒーが出来たようで俺が自身のカップを持とうとすると、カップが「ふわふわ」と浮かび俺のデスクへと着地する。

 魔王様がデスクまで運んでくださったようだ。


 戸棚からコーヒーミルクを2つ取り、デスクへと戻る。

 椅子に腰掛けコーヒーミルクを入れてから、コーヒーをすする。


「美味しい」


「ふふっ、良かったわ」


 席に戻り、同じようにコーヒーを飲む魔王様はどこか嬉しそうであった。

 コーヒーを飲んだところで、再び仕事モードに頭を切り替え先程の要望シートに目を通す。


【食堂の時計がズレてます】とか、【シャンプーの種類を変えてください】など様々な要望でいっぱいだ。

 しかし、これを全部聞いていたらキリがないのではないだろうか?


「魔王様、これ全部要望に答えるんですか?」


「そんなの、無理に決まってるじゃない」


「ですよね……」


「ただ、」


「ただ?」


「みんなが楽しく働けたらいいなとは思っているわ」


 魔王様はそう言うと目を細め優しい表情をする。その言葉に嘘偽りなどはなく、魔王様の優しさからくる本心の言葉なのだろう。


(……仕事頑張りますか!)





 *







ーー翌日


「昨日はカズキさんと、魔王様、お二人でお仕事をなされていたんですよね」


「そうよ」


「あ…レヴィアさん、イルカ飼ってもいいそうですよ」


「本当ですかっ?」


 レヴィアは嬉しそうに、口角を上げ「ぱぁっ」と輝くような満面の笑みを浮かべる。可愛い。

 しかし、レヴィアさんはモジモジとしており何か言いたげである。まだ飼いたいものがあるのだろうか?


「レヴィアさん、他にも飼いたいものがあるんですか?」


「あっ、はい!カジキマグロを……」


「なんでですかっ」


「ほら、カズキさんに少し名前が似ていませんか?」


「そんな理由で飼わないでくださいよ!!」


「え、ダメなんですかぁ……?」


「いやダメじゃないですけど…」


「では、早速お迎えしますね♪」


「ズッキーお昼はラーメンですわよ!」


「うちも、たまには食べてみよう思いやす。普通のやけど」


「カズキくん、早くこの資料をコピーして来てちょうだい」


「あ、はい!」


 全員が揃ったオフィスは、やっぱり賑やかでいいものだ。





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