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第4話『ドライブパーティー』


「さぁ、そろそろ出発しますよ魔王様、早くお車に乗ってください」


「ちょっとまって、『異世界グラム』に写真をあげるから」


 ガレージにある車に魔王様を急かすレヴィアさんと、車の前でポーズを決め、セルフィーをする魔王様。ピースが可愛い。

 異世界グラムとは、魔王様が発案したもので、写真をアップロードしそれを同じ異世界グラムのユーザー同士で共有出来るというサービスだ。

 同じ趣味趣向を持つユーザー同士の交流が図れると、この異世界においても一大ブームのSNSとなっている。


 今日の予定は、新しく勇者の産まれた街へのプロモーション並びに街の視察と、先程魔王様から説明を受けた。

 しかし、なぜ先日洞窟に行った際に使用した移動魔法を使わないのだろうか?


「魔王様、どうして車で行くんですか?」


「車で行った方が安いのよ、荷物もあるしね」


 トランクを確認すると、いくつかの機材が積み込まれていた。両手ではとても持てない量の荷物であり、確かに移動魔法で行くとするならば、荷物を抱えて何往復もする必要がある。

 車でなら、1回で全て運べるということなのだろう。

 そしてその機材のチェックをしているレヴィアさんに話しかけられた。


「カズキさん、運転は出来ますか?」


「人間界の免許でよければありますが……」


「このお車は人間界で購入したものなので大丈夫ですよ」


「分かりました、俺が運転しますね」


 レヴィアさんのお願いに軽く応じ、運転席に乗り込む。

 車はハイブリッドカーであり4〜5人乗りといったところだ。

 異世界グラムに写真をアップロードしたであろう魔王様が、後方座席に座り込みながら不満を口にし始めた。


「前の車は人間界でもかなり高い車を購入したのだけれども、2人乗りだし、屋根は付いてないし、音はうるさいしで大変だったのよ」


「以前はあまり人間界の知識がありませんでしたからね。今回の車は安くて静かに走れるんですよ」


 そう言いながらレヴィアさんは助手席に座り、シードベルトを締めた。俺は、後部座席の魔王様もシードベルトを締めたかどうか確認しようと、バックミラーを眺めた。すると魔王様はなぜか、ニンマリと笑っていた。俺の視線に気が付いたのか、魔王様は得意げにスマホをかざした。


「見て! イイネが3件も付いたわ!」


「良かったですね、魔王様!」


 と、レヴィアさんが笑顔で答えた。その会話から察するに、魔王様にとってイイネが3件は多い方らしい。

 俺は無言でエンジンキーを回すのではなく、エンジンをスタートさせるボタンをプッシュした。ハイブリッドカーはこの辺がややこしい。

 その後、サイドブレーキを下ろし、アクセルを踏み込むと車は滑るように走り出した。


「そのまま、直進してください」


 この声はカーナビの音声ではなく、レヴィアさんの肉声である。俺はそのガイドに「分かりました」と返事を返してから、さらにアクセルを踏み込んだ。

 それにしても、信号機や歩行者のほとんど居ない世界でドライブを楽しむ日が来るなんて思わなかった。

 見渡す限りの空、緑色の平原、少し遠くに目を向ければ地平線も見える。


 モンスターがあらわれた! ▼


 なんてことはなく、アクセルを踏み道順にそって車を走らせる。

 現実世界では、ペーパードライバーであったがリハビリには最適だ。

 ただ運転するのも構わないが、俺は前から思っていた疑問を魔王様に質問する。


「ところで魔王様はなぜこのような事を?」


「このような……とは?」


「以前は普通に勇者と魔王が争っていたと聞いています」


「数十年前までは確かにそうだったわね」


「魔王様が魔王なってからこのようなスタイルになったんですよ」


 レヴィアさんが、シートベルトを直しながら話に加わる。

 だが、"魔王になってから"ということは、魔王様は以前は他のことをしていたことになる。


「魔王様は、魔王になる前は何を? 四天王とかですか?」


「勇者よ」


「はぁぁぁぁあ!?」


 驚く俺を他所に魔王様は淡々と話を続ける。


「何もそこまで驚く事ないじゃない、頼まれたのよ前魔王に」


「わたしもその時の勇者、つまり魔王様に敗北しスカウトされたんですよ」


 レヴィアさんが、ドリンクホルダーからコーヒーを取りながら教えてくれた。

 じゃあ、先日レヴィアさんに教えてもらった3人の勇者っていうのはもしかして……聞いてみよう。


「魔王様、現在勇者は3人居るんですよね」


「わたしを入れたら3人ね」


 やはり、魔王様の事であった。元勇者が魔王をやっているのは奇妙な感じがする。

 だが、先日の戦闘も圧倒的な強さであり、挑戦に来た勇者をいとも簡単にしりぞけた。

 この世界は、魔王様が強過ぎるが故にバランスが保たれている……いや、通常とは違う感じになっているのだろう。

 レヴィアさんが今度は飴玉を食べながら、話を捕足してくれた。


「魔王様が勇者として集めたお金を元手に我々は活動しているんですよ」


「そりゃ、世界を救ったんでしょうからね」


 魔王様は指を折りながら「7〜8回程度救ったわね」と小さな欠伸をしながら答えた。多過ぎる。


「……何年冒険してたんですか?」


「覚えてないわ」


 この人はいったい何歳なのだろうか?

 見た目の年齢は、中身の年齢と関係ない事だけは理解出来た。

 しかし、勇者であった魔王様に魔王になって欲しいと頼むとは、どんな人物なのか興味がある。


「魔王様、その、前魔王はどのような人だったんですか?」


「弱かったわね」


「魔王様が強過ぎるんですよ」


「ただ、厄介な固有魔法を持っていたわね」


「わたしも噂だけ。僅かなMP消費と軽い代償で行使出来たとか」


「軽い代償ってなんなんですか?」


「聞いた話によりますと、一定期間背が縮むだとか、胸が小さくなるだとか、髪の毛が短くなるとか、ほくろが1つ無くなるとかと聞いています」


「本当にお手軽な魔法ですね。それで効力は?」


「よく分からないけど一方的に攻撃されたわ。1ダメージだけども」


「1ダメージでは魔王様を倒すのに5000年はかかってしまいますよ」


 魔王様の防御力が高すぎたのだろう。


「それで前魔王なんだけれども、今は人間界で家庭を作って暮らしているそうよ?」


 なんだそれは。まったくどんな家庭なんだか……。

 そういえば、かあさんは元気にしているだろうか。魔王様が言うには、かあさんに俺が住み込みで働く為、一ヶ月間家には帰れないと伝えてくれたらしい。

 それでも心配はしているだろう。急に一ヶ月もの間、家を空けるのだから。

 もうすぐ一ヶ月経つ。俺の異世界ワークも終わりが近い。

 いや、実は悩んでいる。そう、俺はこの仕事を辞めるかどうか悩んでいる。

 最初来た時は帰る気満々ではあったのだが、仕事は結構楽しいし、魔王城の従業員食堂のご飯は美味しいし、レヴィアさんの淹れてくれるコーヒーは美味い。

 これで月50万を貰えるのだから、悪い仕事ではない。


「あっ、そこを左に曲がってください」


 急にレヴィアさんに声をかけられ、俺は急いでハンドルを左に切った。いけない、今は運転中だ。ましてや仕事中に考えごとは良くない。これを考えるのは、この仕事が終わった後にすべきだ。




 *



 大きな街––––というか城下町の前で車を停めた。街内部はまだ車を走らせられるような設備がないと、魔王様が教えてくれた。

 車を降りて、街の入り口と思われる場所に向かうと、王冠を被った如何にも「王様!」といった外見の人物がこちらに向かって手を振っていた。


「ようこそおいで下さいました、魔王様」


「こんにちは、王様。それで勇者は?」


「あちらに。すでに生誕祭の準備は出来ております」


「分かったわ、それでは早速城内に」


「馬車を用意してあります、どうぞ」


 一国の王様と魔王が友好的に話しているのは、奇妙な光景だ。

 その王様に案内され、俺たちは馬車に乗る。目的地は街の中心部にある大きな城のようだ。

 俺は馬車の窓から、外を眺める。街並みは赤レンガを基調とした格式高い建物ばかりで、離れた場所に見えるお城もビクトリア様式を思わせるような黒と白をバランスよく散りばめたゴシックな作りとなっていた。

 近付くにつれ見えてきたいくつものそびえ立つ塔の迫力に圧倒され、思わず「おぉ」と声を上げてしまった。

 城下町の雰囲気も、活気があり、人や商品で賑わっていた。勇者が産まれたのも影響しているのだろうか……。

 それにしても馬車という乗り物は、乗り心地が良くない。揺れるし、跳ねるし、ガタンとなる。

 その証拠に、馬車が城に着いた頃には俺は酔っていた。


「気持ち悪い、酔った……」


 そう言うと魔王様が俺に近付いてきた。そして俺の額に手を伸ばすと、俺のデコをチョンと小突いた。


「何するんですか!」


「治ったでしょ」


 俺はもう一度「何を……」と抗議しようとしたところで、先程まで感じていた嗚咽感がないことに気が付いた。


「治ってる!」


「状態異常くらい簡単に治せなきゃ、勇者は務まらないわ」


 魔王様はそう言ってウインクをして見せた。俺の上司はとっても頼りになる。

 そんな頼りになる上司に続いて城内に入ると、王様は1人の少女を紹介してくださった。


「こちらは娘のマリア・クルスです、今回の式典において戴冠を行なってもらう予定です」


「ちょっと! お父様! わたくしはやるとは一言も言っておりませんわよ!」


 長い髪の毛をくるんと巻いたふわふわの髪を弾ませるお姫様は、不服そうな表情を浮かべる。彼女なりの嫌な理由でもあるのだろうか?


「だって勇者様は女の子なのでしょう! わたくしだけ婚期を逃してしまいますわよ!」


 意味が分からなくて、俺はしばらく考えこんでしまった。勇者とお姫様––––あぁ、なるほど。勇者はお姫様と結婚するものだからな。しかしこの世界の勇者は、女の子がお決まりだそうだ。つまり姫では勇者と結婚出来ない。

 王様はそんな姫様をなだめる。


「そう言うな、魔王様の御前であるぞマリア」


「……失礼いたしましたわ、魔王様」


 そう言いつつも、姫様は魔王様に視線すら合わせない。魔王様はそんな姫様に「大丈夫よ」と短く言い、王様の方に向き直る。


「それで今日の手順の確認なのだけれども……」


「それではあちらに……」


 王様は姫様をため息混じりに見てから、魔王様を案内する。しかし魔王様は足を止め、 俺を手でチョンチョンと招き寄せた。


「何ですか、魔王様」


「仕事よ」


「どんな仕事ですか?」


「消失ポイントの確認をお願いするわ」


 その会話を聞いていた王様が、姫様に声をかける。


「マリア、案内して差し上げなさい」


「なんでわたくしが…………分かりましたわよ! やりますわよ! ほら、早くいらっしゃいな」


 王様に言われ、姫様は「仕方ない」といった表情でこちらを見ていた。

 やれやれ、これは面倒な仕事になりそうだ。



セーブしますか? ▼


▶︎はい

 いいえ


▷はい

 いいえ


セーブがかんりょうしました! ▼




〜登場人物!〜


【魔王様】


職業、勇者→魔王

世界を7〜8回救った英雄。その旅で得た資金を元手に現在のようなスタイルに移行する。




〜登場アイテム〜


【くるまっ!】


ハイブリッドな車! 静かに走る!


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