第36話『略奪ダイバー』
「すごろくを作ったわ」
魔王様が今度は仕事をしないで遊んでいるようであるが、これも仕事の1つである。
「すごろく」とは娯楽施設の1つで、自らが駒となりサイコロを振り出た目の数のマスで、大小様々なイベントをこなすという物だ。
すごろく限定の武器や、アイテム。ゴールした時の豪華な商品が魅力的で、ついつい挑戦してみたくなってしまう。
「それで、魔王様どのようなすごろくなんですか?」
「まず魔王になります」
「は、はい?」
「そして起業します」
「は、はぁ……」
「そんな感じよ」
「全く分かりませんね!」
魔王様はそれ以上説明する気がないようで、レヴィアさん、小春ちゃん、マリアに声をかけオフィスの扉の所で手招きをしている。
(すごろく場に向かうってことか……)
*
「広いですね!魔王様!」
「ふふん、東京ドーム10個分よ」
「いやそんなにないでしょ!?」
「言ってみただけよ、ふふっ」
そうやって悪戯っぽく笑う魔王様。今日も"お茶目なま〜ちゃん"全開である。
東京ドーム10個分とまでは行かないが、新しく魔王城の地下の一室に作られた「すごろく場」はかなりの広さである。
魔王はどこからかクジの様な物を取り出し、またもや意味の分からない発言をする。
「それじゃあ、魔王タイプを決めるわ」
「いや魔王にタイプなんて無いですからね」
「あなたは扇風機タイプよ」
「意味わからないからぁぁぁぁあ!」
「ふふっ、冗談よ。ほら早く引いて♪」
魔王様から差し出された"あやし〜い"クジを引き確認する。そこに書かれていたのは……
【厨二病魔王】
「な、なんですかこのカッコ良さそうな魔王は!」
「あ、それね。はい、じゃあ今から普通の発言禁止」
「普通の発言禁止ってなんですか!?」
「それが普通の発言よ」
「意味が分からないですよ!!」
魔王様は残念そうな顔すると、「じゃあ普通でいいわよ」と言い、他のみんなにはクジを引かせず順番だけ決めてゲーム開始だ。どうやら先程の「タイプ」とは無くてもいいものらしい。
俺は魔王様からあらかじめ手渡された「ルールブック」を確認する。
【自分自身がコマになる!】
【ルーレットを回し、1〜10の出た目の数を進む!】
【止まったマスでのイベントをクリアすると豪華な景品が貰えるかも!】
【ゴールを目指して頑張ってね♡】
最後のルールだけ魔王様の手書きの文字なのが気になるが、大体のルールは把握出来た。そして何処にも"魔王になる"とは記載されてはいなかった。おそらく魔王様がまたふざけたのだろう。
ルールブックを読んでいるとルーレットを回す順番が決まったそうで、最初はレヴィアさんからのようだ。
ルーレットは手元のリモコンで中央の大きなルーレットを回す仕組みだ。
「じゃあ、始めるわよ。レヴィア、ルーレットを回してちょうだい」
「あ、はい!魔王様」
レヴィアさんがルーレットを回し、ゲーム開始だ。ルーレットがゆっくりと止まり、出た目は……7。
レヴィアさんは「お先に失礼しますね♪」とスタート地点に構える俺の横を通り過ぎ、7マス前進する。
特にイベント等があるマスでは無いようだ。
次はマリアがルーレットを回すようで、やたらと意気込んでいる。
「マリアはゲーム大好きだもんな」
「ゲームとあらば常に全力を尽くす。それが姫の嗜みでしてよ!」
マリアはやたらと意味が分からない姫の嗜みで、ルーレットを回す。
出た目は……すごい、10だ。
マリアは「ふふんっ」と鼻息を鳴らすと、優雅にいつものジャージを翻しながら進む。そこには……
なんと あしもとには おとしあな があった! ▼
「きゃ〜!なんでですの〜!!」
断末魔と共にマリアの姿は見えなくなった。南無三。
俺は目の前で起きた出来事を、スタート地点で一緒に待っている魔王様に確認をする。
「落とし穴に落ちたらどうなるんですか?」
「特に何も無いわ。ゲームオーバーってだけよ」
早々ににリタイアしてしまったマリアを可愛そうにも羨ましくも思いながら、次の順番を確認する。次は小春ちゃんである。
小春ちゃんは慣れた手付きで、ルーレットを回す。おそらく制作に関わっているのだろう。出た目は……4。
「ふふっ、カズキはんお先に失礼しやす」
「落とし穴には気を付けな」
小春ちゃんは「おおきに〜」とペコリとお辞儀をすると、4マス進む。そこに書かれていたのは……
【株で大儲け!資金が10倍になる!】
なんとも小春ちゃんらしいイベントであった。
ちなみに俺達は、最初の予算として3万Gが与えられている。つまりこの場合は小春ちゃんの資金は30万Gになったというわけだ。
小春ちゃんの番が終わったところで次は俺の番である。
手元のリモコンでルーレットを回す。出ためは……5。俺の出た目を見た魔王様はやたらと「ニヤニヤ」してらっしゃる。おそらく何かあるのだろう……
5マス進み、マスに書かれている事を確認する。
【ルーレットを回し、出た目の数の人と結婚する!】
「ちょっと展開早過ぎませんかねぇ!?」
「早くルーレットを回したらどうかしら?」
上品に笑う魔王を尻目にルーレットを再び確認する。どうやら数字事に名前が書いてあり、止まった人と結婚するようだ。
ちなみに結婚すると同じコマとして扱われ一緒にゴールを目指すそうだ。
回す前にルーレットの下に書いてある名前を見ると……
1.魔王、2.魔王、3.魔王、4.魔王、5.魔王、6.魔王、7.魔王、8.魔王、9.レヴィア、10.小春
「ほとんど魔王様じゃないですか!!」
「次の人が待っているのだから、早く回してちょうだい」
回さなくても結果は分かりきっているようだが、仕方なくリモコンでルーレットを回す。出た目は……
「ふふっ、よろしゅう頼んますえ〜?」
なんと こはると けっこん してしまった! ▼
魔王様はやたらと『凍て付く波動』を放ちながら「ロリ…ン」と、よく聞き取れないが何かを口にしている。そんなに小春ちゃんと一緒にゲームがしたかったのだろうか?
小春ちゃんはというと俺のマスまで、「はんなり」と歩いてくると、「うちが養ったるで〜」と頼もしい事を口にする。
確かに小春ちゃんは、この手のゲームは得意そうだ。先程のマスのイベントで資金も沢山あるしな。
次は魔王様の番だ。魔王はやたらと"怪しい手付き"でルーレットを回しルーレットは5のところで止まる。俺と同じマスだ。
魔王様はヒール音を「カッカッ」と鳴らしながらこちらに歩みよってくる。俺は足元のマスをもう一度確認する。この場合は魔王様はレヴィアさんと結婚するのだろうか?聞いてみることにした。
「魔王様はレヴィアさんとペアを組むんですか?」
「違うわよ」
「えっ……それじゃあ」
「ルーレットを見たらどうかしら?」
魔王様に促され、ルーレットを確認する。そこには……
1.カズキ、2.カズキ、3.カズキ、4.カズキ、5.カズキ、6.カズキ、7.カズキ、8.カズキ、9.レヴィア、10.小春
「なんでなのかなぁ!?」
「このゲームは婚約者を略奪可能よ」
「どうしてそんなにドロドロしてるんですかねぇ!?」
「うちのこと、ぽいしてまうん?」
「しないから!そんな事しないから!」
やたらと可愛く小首を傾げる小春ちゃんを他所に魔王様がルーレットを回しはじめる。結果は……
「うちとはお別れなんな……」
「残念だよ、小春ちゃん」
「うちも悲しゅう思いますえ」
「じゃあ……元気で」
「ほなな、…………………あっ、魔王はん!どうぞよしなに〜!」
なんと こはるを うばわれてしまった! ▼
見事に小春ちゃんを強奪されてしまった俺。小春ちゃんは「うちまだ結婚出来へんのにな〜」とおどけて見せる。
反対に小春ちゃんのハートを射止めた魔王様はどこか不服そうは表情をしている。
(魔王様は小春ちゃんと一緒にゲームをしたかったんじゃないのか?)
そう考えていると魔王様は「あ、そうそう」と思い出したかのように話しだした。
「一周したところでボーナスイベントがあるわ」
「なんですか、それ?」
「先頭の人……つまりレヴィアね。先頭の人にいい事があるわ」
魔王様の話によると先頭の人にはボーナスイベントで資金が増えたり、土地が与えられたり、要するにゲームを進める上でプラスとなるイベントがあるそうだ。
(果たしてどのようなボーナスなのだろうか?俺も気になる……)
ボーナスイベントはランダムで与えられるそうで、結果は……
【好きな人と結婚出来るよ!】
「よろしくお願いしますね、カズキさん」
「あ、これはご丁寧に……こちらこそ末長いお付き合いを」
「なんで、資金力のあるこはるんじゃないのかしら?」
「だってこの方が余っている人も居ないですし……」
離婚したばかりの俺を気遣ってくれたレヴィアさん。どこか嬉しそうな表情をしている。最近仕事詰めだったので久々に遊べて楽しいのだろう。
さて、次はそのレヴィアさんの番である。しかし、レヴィアさんがルーレットを回そうとすると突然ファンファーレが鳴り出し……
なんと レヴィアとカズキは ゴールインしてしまった! ▼
「ゴールって結婚することかよぉぉぉお!?」
「え、え?……わたしそういうのはまだ早いと思います!」
こうして楽しいすごろく大会は幕を閉じたのであった。なお、魔王様の作った「すごろく」は"問題あり"ということでリリースされることは無かったそうだ。
セーブしますか? ▼
▶︎はい
いいえ
▷はい
いいえ
セーブがかんりょうしました! ▼
「なんで!わたくしの出番あれだけですの!?」




