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第33話『お化粧フライト』




「オーダー! 無限アンリミテッド時間タイムワークス!」


 現在、俺はトレーニングルームで特訓中だ。

 そして能力がちゃんと発動しているか確認するため、辺りを見渡してみる。

 少し離れた所で魔王様が、数本の剣をふわふわと浮かべて、それを空中で器用に動かしていた。

 重量魔法っていうのはあんな事も出来るのか…………って、魔王様が動いてるって事は、失敗か。

 これまで、数回試してみたが1度たりとも使えた形跡はない。かあさんにコツを聞いてみたところ「闇に飲まれよ」とカッコいい事を言ってばかりで全然参考にはならなかった。

 魔王様が肩を落とす俺の様子を見て、こちらに歩み寄ってくる。


「カズキくん、焦る必要はないわ」


「ですが……」


「ふふっ、それにわたしが居る限り"それ"を使う機会は一生訪れないわ」


 そう言って微笑む俺の上司の笑顔はとても頼もしかった。

 そして、魔王様は「そうそう」と思い出したように呟く。


「なんですか? 魔王様」


「カズキくん、明日こはるんとジパングね」


「いつも言うの急過ぎませんかねぇぇ!」


「わたし達はいつでも行けるから、その辺の感覚が違うのかもしれないわね」


 魔王様の言う「いつでも行ける」とは移動魔法の事を指すのだろう。

 確かに魔王様や、レヴィアさんは移動魔法でひとっ飛びだ。

 それに対して俺は何の魔法も使えない。

 しかし、悩んでいてもしょうがないので明日の仕事内容について質問する。


「それで、何をしにジパングへ?」


「こはるんの新事業のプレゼンよ。それをあなたに手伝って欲しいのよ」


「いいですが、俺は何も出来ませんよ」


「こはるんからのご指名よ」


「ますます意味が分からないですね……」


 小春ちゃんは一体俺に何をやらせるつもりなのだろうか?

 まぁ、明日になれば分かるか……。




 *





 ––––翌日


 俺は魔王様に言われた通りに、魔王城の正面から外に出る。魔王様が言うには、何やらそこに「足を用意してあるわ」だそうだ。

 前回は確かドラゴンだったな。さて、今回はどんな生物なのかと、期待に胸を踊らせる俺の正面に現れたのは…………


 なんと くうこうが そびえたっていた! ▼


 魔王城から出て少し離れた場所に、国際空港と見間違うような無駄にデカい建物が建っていた。


「昨日まで何も無かったぞ!?」


「勇者が一晩でやってくれはったんや〜」


「勇者ジェバ○ニかよ!?」


 空港の前で待ってくれていた小春ちゃんが経緯を説明してくれた。どうやら今回の移動手段は飛行機のようであった。


 空港内には、わずかだが職員もおり、俺と小春ちゃんは「プライベートジェット」と書かれたロビーに案内される。


「小春ちゃん、もしかして……」


「せや〜、うちが頼んで一機造ってもろうたんよ〜。オリハルコンで」


「伝説の金属で飛行機作るなよぉぉお!?」


「ふふっ、カズキはんはせわしないの〜」


 口元に手を当て上品に笑う小春ちゃん。今日も長い髪を綺麗に整え、羽織のいい着物を着ている。これがエリート起業家こはるんのビジネススタイルなんだそうだ。


 そんな事を考えていると、離陸の用意が出来たそうで俺たちは発着場へと向かう。

 そこには大きくはないが、やたらと立派なプライベートジェットがスタンバイされていた。

 機内に乗り込む階段はそこそこ急であり、俺は小春ちゃんが足を滑らさないようにと手を差し出す。

 小春ちゃんはその手をとり「おおきに〜」と呟くと「ひょこひょこ」と階段を上がり始めた。可愛い。


 機内は多くはないが、いくつかの座席があり小春ちゃん曰く8人乗りらしい。

 奥にはベッドルームや、シャワー室まであるそうだ。まるで空飛ぶホテルだ。

 しかし、ここである1つの疑問が浮かぶ。


「この飛行機誰が操縦するんだ?」


「俺だ!」



 モンスターが あらわれた! ▼



「お前かよ!?」


「この飛行機、俺が造ったんだぜ!」


「才能の無駄遣いぃぃ!」


「しゃべってると舌噛むぞ」


 ヨッホイはそう言うとコックピットへと戻って行った。

 小春ちゃんは既に座席に座りタブレットPCの画面を眺めている。俺も座るため座席に近付くと、急に機体が動き出した。


「うおおぉっ」


「あわぁっ……ふふ、気ぃ付けてな〜」


 飛行機は何のアナウンスも無しに動き出し、俺は小春ちゃんの座席に倒れかかってしまう。

 小春ちゃんは俺を受け止めると、何事も無かったかのように再びタブレットPCの画面をスライドし始めた。

 俺は座席に座り、シートベルトを締めた。その直後、軽い浮遊感を感じ、身体が斜めになる。正直好きじゃない。

 しばらくすると安定高度に達したのか、小春ちゃんはシートベルトを外した。それを合図に、機内に急な来訪者が現れた。


「やっほーこはるん、お久〜!」


「明美はん、お久ぶりどす〜」


 かみさまが あらわれた! ▼


「なんでいるのかなぁ!?」


「おっ、かずぽよもこないだぶり〜!」


「かずぽ……いやだから何で居るんですか神様!?」


「こはるんに相談があって〜みたいな! この時間なら空いてる〜って言うからさ〜」


「時は金なりどす〜」


 はんなりとした口調で喋ってはいるが小春ちゃんは仕事モードである。

 小春ちゃんは以前より髪の毛の量が増えている神様と向かい合って座り、いくつかの資料と共にビジネスの会話を始める。


「やっぱりリキッドがいいと思うんだよね〜」


「ほなら、クッションファンデはどうどす〜?」


「あ〜! オルチャンでも使われてるやっしょ! いいかも〜!」


「それ、お化粧の話ですよねぇぇえ!?」


「おっ? かずぽよ詳しいねぇ? ぱふぱふしとく?」


「ギャルメイクならしませんからね」


「違うよ〜? ほら、あっちにベッドがあるっしょ? あっちでシよ?」


「そこまでよ、あっちゃん」


「あ〜! ま〜ちゃん!」



 なんと まおう が あらわれた! ▼



「なんで居るんですか!?」


「お昼休みよ」


「お昼休みだからって『遊びに来た〜!』感覚は辞めてくださいよ!」


「だって、心配じゃない……」


 魔王様はそう言うと少し心配そうな表情を浮かべる。確かに俺はまだまだ新米だし、心配事も多いのだろう。

 魔王様に迷惑をかけないように、俺も頑張らないと。しかし、魔王様の目的は違っていた。


「あっちゃんの所の化粧品が、わたしのお肌に合うかどうか心配だわ!」


「俺のやる気返してよぉぉぉおお!」


 魔王様は「ウキウキ」と神様からいくつかの化粧品サンプルを貰い興味気に眺めている。

 神様の教会は最近は「蘇生」や、「毒消し」以外にも小春ちゃんのアドバイスで「保険サービス」や、「治療」などの医療行為に力を入れているそうだ。

 そして、有名な話だが医療の技術と化粧品を作る技術というのは類似点が多い。


「それじゃあ、今回の新事業って神様のお化粧品の事なんですか?」


「ううん、違うで〜」


「あーしのはちょっとした相談? みたいな〜!」


「わたしはお昼休み」


「魔王様は早く戻ってくださいよ!」


「それよりカズキくん」


「はい?」


「ギャルメイクするんですって?」


「しませんよ!?」


「なら何をするつもりだったのかしら?」


 魔王様が『凍てつく波動』を放ってらっしゃる。それを見た神様は「ほんじゃね〜!」と一瞬で消えてしまった。逃げたな。

 反対に小春ちゃんはというと、なんと助け船を出してくれた。


「カズキはんは、今日ずっと真面目に働いてはったさかい」


 魔王様は「ふぅ〜ん?」とこちらをジロジロと眺めるように見ている。どうやらまだ疑っている様子だ。

 小春ちゃんはまだ足りないと思ったのか更に言葉を足す。


「それにな、飛行機の階段を上がるときも、うちの手を引いてエスコートしてくれはったんよ〜」


「カズキくん」


「はい?」


「減給」


「なんでぇぇぇぇぇ!?」







セーブしはります〜? ▼


▶︎しはる

 しない



▷しはる

 しない



セーブがかんりょうしたどす〜 ▼





〜用語解説〜




【リキッド】


リキッドファンデのこと。気になる箇所にうすづきしよう。



【オルチャン】


オルチャンメイク。すなわち韓流メイクのこと。TTポーズでお馴染み。



【クッション】


クッションファンデの事。「ジュワッ」ってする。


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