第27話『なでなでラーメン』
「カズキくん、この書類もお願い」
「分かりました」
魔王様が今日はやたらと仕事を振ってくる。現実世界に自由に帰れるようにはなったが、俺は未だにこの魔王城の居住スペースに与えられた部屋から出社している。便利だしな。
それに、夜中にマリアと食べるラーメンは格別だ。
現在、俺は魔王様の目を盗んでイシス女王の『異世界グラム』の投稿にイイネ中だ。しかし、この仕事量は流石に多いのではないだろうか?
「魔王様、少し多くありませんか?」
「ふふっ、絶対時間を使ったら?」
魔王様はそう言うと、自身のスマホをいじり出した。なるほど、確かに時間停止をして仕事をすれば十分に間に合うだろう。その状態で仕事をするのはともかく試しにやってみるか……
「オーダー!無限時間」
魔王様はスマホの画面を見つめたまま動かない。隣のレヴィアさんは、こちらを見つめたたまま何やら微妙な表情をしていた。
そうだ、頭を撫でてみよう。
「あ〜、レヴィアたんよ〜し、よ〜しっ。可愛いですね〜〜!」
レヴィアさんの頭に触れると少し「びくっ」とした気はしたが、その後は何事も無かった様な表情をしている。少し顔が赤くなっている気はするが……
(さて、あまり長く使っているとまたカズくんになってしまうからな。そろそろ……)
俺はかあさんがしていた様に指を「パチンッ」と鳴らし固有魔法を解除する。
その瞬間、魔王様が吹き出したように笑い始めた。
「魔王様、何を笑っているんですか?」
「な、なんでも……なんでもないわっ」
「どうでしたか!俺の固有魔法は!?」
「レヴィアに聞いてみたらどうかしら?」
レヴィアさんに聞こうと、彼女の方を見ると恥ずかしそうにこちらをチラチラと見ていた。
「どうしたんですか、レヴィアさん?」
「あ…い、いえ。なんでも…あたまを……いえ!なんでもありません!」
レヴィアさんは焦ったように席を立つと何処かへ行ってしまわれた。それを見ていた魔王様はまたもや「クスクス」と笑っていた。何がそんなに面白いのだろうか?
「魔王様、何がそんなに面白いんですか?」
「ヒントをあげるわ」
「ヒント?」
「MPは減っているかしら?」
俺は魔王様に言われた通り自身のMPを確認する。減ってない。まさか……
「もしかして、発動してなかったんですか?」
「当たりよ」
「じゃあ、レヴィアさんの頭を撫でたのも……」
「ただ普通になでなでしただけね」
「なぁあ!?今すぐにレヴィアさんに謝らないと!」
魔王様は「大丈夫よ」と口にし再びスマホの画面に目を落とす。俺も自分の椅子に座り、なぜ使えなかったのかを考えていると魔王様が「ただ、この話はレヴィアには内緒ね」と付け足してきた。
後日、レヴィアさんの頭を撫でている動画が「魔王城公式異世界グラム」にアップされていた。
その動画にはかなりの数のイイネが押されていた。レヴィアさんはと言うと……
「レヴィアさん、おはようございます」
「あ、……おはようございます」
レヴィアさんは目も合わさずに挨拶をする。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。そんな彼女の事を他所に小春ちゃんが俺に一枚の資料を見せてきた。
「花火大会?」
「せや〜、うちが企画を立ててもう少しで開催しはりやす」
「どこでやるんだ?」
小春ちゃんはその質問には答えずに資料を指差した。そこには「開催場所は魔王城」と書かれていた。
「ここでやるのか」
「せや、もうSNS等でも宣伝済みやさかい」
「でも花火の発注なんてして……ないな」
俺はパソコンのメールをもう一度チェックするが、そのような内容のメールは見当たらなかった。
小春ちゃんは、そんな俺を見ながら魔王様に声をかける。
「魔王はん、花火上げられへんやろか?」
「出来るわよ」
「ほなら、上げてもらえへんやろか〜?」
「いいわよ」
「魔王様が花火を上げるんですか?」
魔王様はその質問を聴くと軽く手を開き、手の平に小さな花火を作ってみせた。なんでもありなのか。
小春ちゃんはそれを見ると、すぐさまスマホで魔王様の作った小さな花火を写真に撮り、「異世界グラム」にアップした。なるほど、PRってやつか。
「小春ちゃん、参加費はどうするんだ?」
「そないなもん、うちは取らへんよ〜」
「それじゃあ設営費や、運営費はどうすんだ?」
「屋台を出して、その売り上げを回そうと思もうとるさかい」
参加費は無料にして人数を集め屋台で勝負か。小春ちゃんらしい考え方だ。
屋台か……
「その屋台って俺も出していいのか?」
「構わんよ〜、せやけど何を出しはるんやろか〜?」
「ラーメンだ」
*
ーー花火大会当日
俺はマリアと共に数日前から準備してきたスープの最終確認を行う。短い時間であったが納得の出来る仕上がりとなった。
屋台の名前は『カズマリ』だ。
「麺固め、味濃いめ、脂多めの全MAXラーメンだ!」
「さらに、お好みでライスも付けられますわ!」
「マリア、俺たちのラーメン見せてやろうぜ!」
「違いますわよ」
「なんだ?」
「わたくし達のラーメンを魅せますわよ」
マリアと共に、今日までのラーメンを試行錯誤した日々を思い出していると勇者が移動魔法で大勢の人を連れて現れる。
この魔王城は山脈に囲まれているため非常にアクセスが悪い。小春ちゃんが移動手段として勇者に依頼をしたそうだ。
出迎えに来た小春ちゃんと勇者の会話から「報酬は」「百合」「ガールズラブ」というような単語が聞こえた気はしたが、気にしない事にした。
それよりも、ラーメンだ。
「マリア!チャーシューは?」
「スタンバイ出来てますわ!」
「よし、トドメの背脂増し増しだ!」
「ほうれん草も準備完了ですわ!」
マリアと最高の連携を見せていると、今日は警備を担当しているレヴィアさんがこちらに歩み寄って来た。長いブロンドの髪をアップにまとめている。紺色の浴衣姿が美しい。
「レヴィアさん!食べますか?」
「い、いえ……仕事中ですので」
「浴衣お似合いですね」
「……ありがとうございます。そ、それではお仕事がありますのでっ」
レヴィアさんはそう言うと、そそくさと去ってしまった。ラーメン美味しいのにな。
そんな事を考えていると……
モンスターがあらわれた! ▼
ではなくヨッホイがいつもの様に暑苦しい表情でやってきた。
「ヨッホイ!ラーメン食べるか!?」
「い、いや。遠慮しておく」
「じゃあ、こんな所で何やってるんだ?」
「おぉ!聞いてくれよ!俺は向かいの店でヒノキのぼうを売ってるのよ!」
「なんだそれ、売れたのか?」
「もう、完売済みだ!」
「何ぃぃぃぃいいいい!?」
「じゃあな、お前も頑張れよ!」
ヨッホイはそう言い残すと颯爽と去って行った。ラーメン……美味しいのにな。完売したのなら、食べて行ってもいいのでは無いだろうか?
スープの様子を見ると相変わらず、いい匂いをさせている。脂の層が食欲をそそる。しかし、そんなラーメンの美味しい匂いに混ざるいい匂いが俺の鼻腔をかすめる。この匂い……
「イシス女王!いらしてたんですね!」
「こんにちは、カズくん♪」
「カズくんは辞めてください……」
「あらあら、ごめんなさい。それにしてもいい匂いね」
「食べますか!?」
「いただくわ」
「イシス女王大好き!」
「ふふっ、わたしも大好きよ」
どうやら、イシス女王はラーメンを気に入ってくれたらしい。
やっと一杯売れた喜びをマリアと共に噛みしめる。マリアの奴。いつも見せないような、とびきりの笑顔で笑っていやがる。
マリアと、喜びを分かち合っていると頭上から大きな音が聞こえた。魔王様の打ち上げが始まったらしい。
俺も頑張らないと……
ーー花火大会終了後
「マリア!どうして俺たちのラーメンが5杯しか売れないんだ!?」
「もっと脂を増やした方がよろしいのではなくて?」
「それだ」
セーブしますか? ▼
▶︎はい
いいえ
▷はい
いいえ
セーブがかんりょうしました! ▼
カズキ「なんで2部になっているんだ?」
魔王「あなたの立ち位置が微妙に変化したからよ」
カズキ「魔王の息子だと知った事ですかね?」
魔王「あとは、世間的な評価ね」
カズキ「なんですかそれ?」
魔王「あとで分かるわよ。それと……この小説は3部構成よ」
カズキ「なんでですか?」
魔王「ロ○シリーズが3部構成だからよ!」
〜登場人物!〜
【カズキ】
この小説の主人公で前の魔王様の息子。しかし、無限時間は上手く使えない模様。
ステータスは以前と変わらなくHPは24でMP1。
【魔王様】
今日もお茶目な魔王のま〜ちゃん。最近、自分が可愛く見える角度を見つけた。
【レヴィアたん】
頭を撫でられるのが好き。浴衣は小春ちゃんに着付けてもらった。花火大会の後にカズキとのツーショットを撮った。はにかんだ笑顔が素敵。
【マリア】
昨日食べたラーメンがお腹に来たらしい。でも今日も食べると意気込んでいる。
【こはるん】
今日もバリバリ働く起業家。今回の花火大会で結構稼いだらしい。
【イシス女王】
こってりラーメンを美味しく食べた女王様。彼女が「異世界グラム」にラーメンの画像をあげてくれたようだが、5杯しか売れなかった。
【勇者】
帰宅したら、百合漫画を読むらしい。1度に千人以上同時に移動魔法で飛ばせる。
【作者】
カントー地方でポケ○ンマスターを目指している。
ラーメンはあっさりしてる方が好き。オススメのラーメンがあったら教えて欲しい。
〜お店紹介〜
【カズマリ】
カズキとマリアのラーメン屋台。家系の濃厚こってりラーメン。
美味しい食べ方は、まずスープの脂をすくってライスにかける所から。
【ヒノキのぼう屋】
5分で完売したらしい。




