表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/160

第25話『勇者ヴェントー』





「くっ!マズい!毒った!」


「そんな、時は〜」


「教会にお任せ〜!みたいな〜!」


「毒消し草がなくても、教会なら1発解毒〜!」


「すごい!一瞬で治った!」


「さらにぃ〜、今ならなんと保険に加入する事で初回は無料〜!」


「な、なんだって!?」


「毒状態の時は是非教会へ〜!」



※注意、レベルに応じて代金は変化します。尚、呪いの解除は保険対象外です。



「はい、おっけ〜でーす!」




 CMの撮影を終え、俺はレヴィアさんが水魔法でボトルに詰めてくれた「レヴィア水」を口に含む。美味しくて、飲みやすい。

魔王様はというと「忙しいから」とイシス女王が帰ったのとほぼ同時に魔王城へと戻ってしまわれた。

 撮影の合間にマリアから送られてきたメールによると、仕事をほっぽり出して来ていたらしい。


 撮影はもうほとんど終わっており、残すは勇者の撮影のみである。そろそろ、勇者一行が到着する頃合いだが……



「たのも〜!勇者はいらんかね〜!」



ゆうしゃがあらわれた! ▼



 勇者と、武道家、賢者に戦士のパーティーである。もちろん全員女性だ。

 俺はもちろん勇者の姿は以前見かけた事はあるが、向こうは初対面だろう。はたしてどのような人なのだろうか……



「いや〜ごめんね〜!ギルドの依頼が中々終わらなくってさ〜!迷子の子犬探し!」


「は、はい?」


「お!君が魔王の人?渋いローブだね〜!」


「は、初めてまして魔王様の所で……「あたしは勇者よろしくね〜!」


 話をまったく聞かない元気な勇者であった。笑った顔にえくぼが出来ており笑顔が眩しい。勇者のステータスを確認してみると、なんとHPが100万以上ある。


「おい、ドラゴンヤバいんじゃないのか?」


「4人ガカリダト、アーシモヤバイカモ〜?」


「なんで、そっちのシブい声なんだよ」


「イヤ勇者強ソウダシィ〜?気合イ入レタミタイナー?」


 だが喋り方がギャルな為、威厳や以前のような怖さは感じられない。

 そういえば、この勇者の一行は魔王城まで到達していた。つまりこのドラゴンを倒しているのである。

 しかし、今なら可能かもしれないが以前のステータスでは難しいはずだ。


「ドラゴン、あの勇者に負けたよな」


「負けぽよ〜」


「なんで、喋り方戻ってるんだよ!?」


「つらたん、まじつらたん」


「分かったから。どうして負けたんだ?当時のステータスならお前の方が遥かに上だろ?」


「いや〜あの時は2日酔いでさ〜!」


「はぁぁぁぁぁあ!?」


「あけぽよにも、禁酒って言われてるんだよね〜」



 ドラゴンと楽しい会話を繰り広げた所で、押している撮影が始まる。元気で協力的な勇者のおかげで、スケジュールは順調に進行し、残すは戦闘シーンのみとなった。


 戦闘シーンは、迎え討つ俺とドラゴン、それに気弱なボストロールと勇者の一行という形で行われる手筈だ。こちらはあと1人いるらしいが、全くいつ来るのだろうか?


 ヒョロールからボストロールっぽい衣装に着替えたヒョロール監督が、シーンの説明を始める。


「まず、最初に勇者のHPを撮影し、それを減らしていただきます」


「100万をですか?」


「そうです、トドメは例のアレでお願いします」


 例のアレとは練習中のゴブリン・バースト・ストリームの事だ。未だに16連撃は成功した試しがないが……


「それから戦闘シーンは臨場感を出す為に実際に戦ってもらいます」


「あの、ドラゴンはともかく俺はHP24なんですが……」


「今回は教会のバックアップがありますので、復活は無料との事です」


 なるほど、やられた部分はカットし戦闘の使える所を切り取ると言うわけか。実際に戦闘をしているのだからとてもリアルなシーンとなるだろう。さて何回復活する事になるやら……




ゆうしゃがあらわれた! ▼



ゆうしゃはやくそうをたべている! ▼


ドラゴンのこうげき!▼


「ムカ着火ファイアー!」


「ドラゴンの技がギャルぽくなっている!?」


 ドラゴンは口元に裏ピースを当てギャルっぽく炎を吐いた。


ゆうしゃに 500のダメージ! ▼


(500ダメージしか入らない!?これヤバいやつかも……)


(いくぜ…!)


「ゴブリン・バースト・ストリーム!」



ゆうしゃに 8のダメージ! ▼



(やはり、16連撃は無理か……)



ゆうしゃのこうげき! ▼


カズキに99999のダメージ! ▼


カズキはしんでしまった! ▼








「あ、カズぽよ久しぶり〜!」


「勇者強過ぎぃ!」


 気がつくとギャル神様が以前のように俺の顔を覗き込んでいた。前に来た時とは部屋の様子が違う。なんというか……


「なんで波の音がするの?」


「ビーチだよっ」


 あたりは部屋ではなく、小波が押し寄せる砂浜でギャル神様はパラソルの下で優雅にドリンクを飲んでいた。危ない水着が眩しい。


「ど〜する?すぐに戻る?それとも何か飲む〜?」


「すぐ戻……」と言いかけた所で隣にドラゴンが現れた。


「勇者まじヤバい〜!強過ぎぃ〜!」


「ドラぽよ〜いえーい!卍卍まんじまんじ!」


まんじからのまんじ〜!」


 ドラゴンと神様が訳の分からない言葉を使いながら、ハイタッチをしている。早く戻りたい。


 そんな俺の表情に気が付いたのか、神様は「戻る〜?」と聞いてくださり、おれは首を縦にふる。


「ごっめ〜ん!強くやり過ぎちゃった!」


 勇者が寝ている俺の頭をいい子、いい子しながら謝って来た。どうやら復活したようだ。

 俺は起き上がり、勇者のHPを確認する。


 減っていない。

その状況を察したのか、勇者が絶望の言葉を口から出してきた。


「あ、あたしはバトルヒーリングするんだよ〜!」


「1ターンで5万くらい!」


「はぁぁぁぁあ!?こっちは1ターンで508ダメージが精一杯だぞ!?」


 どうやら、とんでもないキャストミスが起こっていたようで撮影は困難を極めた。

 今更のキャスト変更は無理なようであり、魔王様や神様のような勇者を倒せそうなお方たちも来られないらしい。




 *




 その後も俺とドラゴンはなんども神様の所に行ったが勇者のHPは一向に減らない。ボストロールはというと、運動不足でへばっていた。



「ゴブリ…ン・バースト・スト……リーム〜」


ゆうしゃに 14のダメージ!▼



 へろへろの俺とは反対に技の切れ味は上がり、もう少しで16連撃出来そうなところまで来ていた。16連撃したところで意味はないのだが。


 もうスケジュールの締め切りまでほとんど時間がない。本来1時間程度で終わるはずであった戦闘シーンは10時間以上繰り広げられ勇者のHPは相変わらず満タンであった。

 俺はというとHPは復活と同時に回復するため、体は元気だが精神力がもう持ちそうにない……




「もう無理か。リアルな戦闘シーンは無くしてCG合成にするしか……」




 などど弱音を吐いていると、突如空間に歪みが生まれエプロンをつけた女性が舞い降りた。


「みんなおまたせ〜♪」


 その女性はこちらを見るとふりふり〜と手を振っていた。右手には『鋼の剣』を持っている。

 なんでこんなところに……


 女性は勇者のパーティーの方へと向き直り、そして……


「オーダー無限アンリミテッド時間タイムワークス


 彼女のやたらとカッコイイ謎の言葉のコールと共にあたりは暗転し、雰囲気が一変する。

 助っ人と思われる女性は勇者の方にゆっくりと歩みより、そして……



ゆうしゃに 9999のダメージ! ▼



(だめだ、かなりのダメージだがあの程度では勇者のHPは減らない。それにしてもなんであんなダメージが出るんだ?鋼の剣で)



ゆうしゃのこうげき! ▼


 とはならない。なんと、勇者の動きは止まっていた。

 辺りを確認するとドラゴン、ボストロール。それに賢者や、武道家、戦士。勇者のパーティーまで動かない。まるで……



「動けないわよ、わたしとあなた以外」


 そう言うと”かあさん”は鋼の剣をしまい魔法の詠唱を始めた。



かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


 やはり、勇者のパーティーは一向に動く気配はない。かあさんは再び詠唱を始め、動かない勇者一行に対して一方的に攻撃をし始めた。



かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼


かあさんのこうげき! ▼


てきぜんたいに 9999のダメージ! ▼




 *





 勇者のHPが残り僅かになった所でかあさんは攻撃をやめ、こちらを振り向いた。


「あら、このローブ懐かしいわね〜!」


「はぇ?」


「あ、そろそろ解かないと。また若返っちゃうわ」


 かあさんが「パチン」と指を鳴らすと辺りは明るくなり、ドラゴンやボストロールがかあさんに詰め寄って来た。


「お久しぶりです、前魔王様」


「あーしも、お久〜!」


「あらあら、2人とも大きくなって〜ドラゴンなんて何その鱗〜?キラキラじゃない〜!」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」



 俺の耳がおかしくなければ、かあさんが”前魔王様”と呼ばれているのが聴こえた。

 かあさんは少し驚いた表情をすると俺の指に目を止め…


「その、指輪イシちゃんにあげたやつじゃない。やだ〜!結婚するの?」


「しねーよ!……ってかなんでこの指輪知ってるんだよ!?」


 俺はイシス女王から聞いた話を思い出す。確か……


『以前このイシスが水害となり飲み水が不足した際に、水魔法を行使してくださり大量の水を供給してくれた女性に頂いた指輪なんですよ』


「かあさんって魔王なの?」


「”元”魔王ね」


「じゃあ、俺は……」


「魔王の息子ね」




なんとカズキはまおうのむすこであった! ▼



 驚愕の事実を受け動揺する俺に対し、かあさんは「それよりも…」と勇者の方を指差した。



ゆうしゃ HP16



 ドラゴン、ボストロールを始め全スタッフ、並びに正面の勇者までもが、こちらを和かに見ていた。


 ここで出来なきゃ男じゃないな……




「ゴブリン・バースト・ストリーム!」




ゆうしゃに 16のダメージ! ▼


ゆうしゃを たおした! ▼







 *







『「お疲れ様でしたー!!」』



 現場では撮影に関わったスタッフ達による、ささやかな宴会が開かれていた。

 俺はというと疲労感でクタクタとなり、ドラゴンと勇者が大食いバトルに興じている様を微笑ましく見ていた。


「ちゃんと、仕事しているようね」


「なんですか、元魔王様」


「やぁね〜今はあんたのかあさんです」


「なんで黙ってたんだよ?」


「だって聞かなかったじゃない」


「………………」


 俺は呆れてものも言えなくなってしまった。世界の何処に自分の母親に向かって「魔王ですか?」なんて聞く息子がいる。

 それよりも……


「あの時間止めるやつなんなんだ?」


「あー!あれ?あたしの固有魔法」


「軽い代償とわずかなMP消費で使えるってやつか?」


「よく知ってるわね〜!」


 以前マリアの城に行く時に魔王様と、レヴィアさんが車の中で話してくれた会話内容を思い出した。

 確か『一定期間背が縮むだとか、胸が小さくなるだとか、髪の毛が短くなるとか、ほくろが1つ無くなるとか』だったか。


 かあさんを見ると以前に比べ、少しシワが少なくなっていた。まさか……


「軽い代償って時間を止めた分若返るのか?」


「あったりぃ〜!」


「その固有魔法ってまさか俺も」


「使えるわよ」


 これでドラゴンを倒せたのも体が縮んでしまった理由にも納得がいく。俺は知らずのうちに使っていたわけか……



 思考が回らない程疲れきった俺を見兼ねたかあさんは、手提げ袋からお弁当箱を取り出し俺に差し出した。


「あんたの好きな唐揚げ弁当ヴェントーだよ。食べる?」


「食べる」




 久々に食べたかあさんの唐揚げ弁当ヴェントーはとても美味しかったーー





カズキ!セーブしたの!?



▶︎した

 してない



▷した

 してない



セーブしたらはやくねなさい!







登場人物!



【カズキ】 元魔王の息子


母親から譲りうけた固有魔法【無限アンリミテッド時間タイムワークス】を使用できる。

効果は『自らの生きた時間を消費し、時を止める』


カズキ「なんで時間停止系の能力なんだ?」


日本人特有かもしれませんが、働いていると仕事が多過ぎて「時間よ止まれ〜!」となりませんか?


カズキ「なるな、締め切り前とか特にな」


だから「アンリミテッド・タイム”ワークス”」なんです。




Q.A「絶対時間」



Q.生きた年数を超えた時間を消費した場合どうなるの?


A.その時点で強制解除となります。0を超えて存在が消滅する事はありません。



Q.消費MPは?


A.1です。



Q.連続使用は可能なの?


A.可能です。しかしカズキの場合はMPが1しかないので、祈りの指輪での回復が前提となります。



Q.若返る以外に身体に負担はあるの?


A.ありません。


Q.なぜ、かあさんの発動中にカズキは動けたのですか?


A.時間を止める力と止まった時間内で動けるのは、別スキルとなります。時間を止めるのにMPと代償が必要であり、止まった時間内で活動する分にはそれらは必要ありません。


Q.ドラゴンに対して数十年以上殴り続けていた事になりますが、違和感を感じなかったのでしょうか?


A.



カズキ「おい!逃げるな!」


A.カズキの場合、まだ未熟なため代償の時間を多く消耗してしまったとお考えください。




【かあさん】 職業 魔王→主婦


カズキのかあさんで元魔王様。実年齢に対して若く見られがちなのには理由がある。

料理のレパートリーは豊富だが、カズキが帰宅した際には好物の唐揚げを振舞う。レヴィアさんのお料理の師匠。



【絶対時間】発動中かあさんは赤く目が光るが、カズキは光らない。なぜなら、かあさんは一瞬でカラコンを入れているから。

アンリミテッド・タイムワークスは彼女が名前を付けた。ちょっとセンスがおかしい。




【勇者】 職業 勇者とアシスタント


大陸最強の勇者。とっても元気な優しい女の子。しっかり【伝説の剣】【伝説の鎧】【伝説の盾】で武装している。

趣味は神龍様に貰った百合漫画を読むこと。百合漫画を貰うため神龍様の所に通い詰めたため、現在の戦闘力に至る。

最近、神龍の所でアシスタントとしてバイトをしている。絵や話はイマイチだが線は綺麗。



おまけ



弁当ヴェントー


やたらと発音のいい食べ物を入れる容器。唐揚げが入っていると嬉しい。




次回は、少し短い話になりその後に番外編を行います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ