第23話『ダーリンムービー』
「カズキくん、ホッドウーリーって知っているかしら?」
「確か王様ではなく、ボストロールが治めている国ですよね」
通常は王様が国を統治するのだが、ホッドウーリーはモンスター、つまりボストロールが国を統治している。
その目的は勇者に倒される事であり、国が「おかしい状態」にある事を勇者側に気付かせて倒してもらうというシナリオだ。
魔王様はタブレットPCで1つの資料を見せる。
国の運営状況の様だがとても良好であり、利益率もいい。
「これ、どこの国なんですか?イシスや、ジパングとかですか?」
「ホッドウーリーよ」
「え、だってボストロールがやっているんじゃ……」
「これ、ボストロールが国を治めてから右肩上がりなのよ」
確かにその通りで、王様からボストロールに引き継いだタイミングで国の国益がグングンと上昇していた。しかしこれじゃあ……
「勇者絶対来ないですよね」
「来ないわね」
「道具屋とか武器屋はどうやって商売しているんですか?」
「ボストロールが補填金を出しているそうよ」
なるほど。ボストロール社長とでも言うべきだろうか。強みで勝負し、弱い部分、つまり道具屋や武器などはその分でカバーしているわけか。しかし、そうなると強みとはなんなのだろうか? 魔王様に聞いてみる事にした。
「魔王様、ホッドウーリーはどの様な事業で国益をあげているのですか?」
「映画よ」
「はい?」
「だから映画よ。これがこの前に公開されたものよ」
魔王様はそう言うとタブレットPCをスライドさせ1つのタイトルを表示させる。そこに書いてあったのは……
『サキュバスと人魚姫の秘め事』
「なんでまた百合なんだよぉぉぉぉぉぉお!」
神龍様の時もそうだったが、この世界では百合が流行っているのだろうか?確かに魔王様も女性だし、勇者も女性ばかりだ。その影響なのだろうか?
とにかく、問題点は勇者が街に来ないので道具屋、武器屋の商売が成り立っていない事だろう。
「なら、勇者をなんとかして街に来るように誘導すればいいのですか?」
「それはもう諦めたわ」
「それじゃあ……廃業させるんですか?」
魔王様は首を横に振ると驚くべき提案をして来た。
「勇者を呼んで映画を撮るわよ」
「はぁぁぁぁあ!?」
「もうギルドに申請もしておいたわ」
「仕事早いですね!!」
「最高の勇者のパーティーを送り込んでくれるそうよ」
「最高のパーティー?」
「前に来た子達だそうよ。あれからかなりレベルアップしたみたい」
未だ驚いた表情をしている俺に魔王様はさらなる狂言を吐き追撃してきた。
「主役はあなたよ」
「なんだってぇえええ!?」
「ほら、ドラゴンを倒してうちでも人気急上昇中だし」
「い、いやあれはまぐれで……そもそもよく覚えていませんし」
「早く行きなさい」
「今からですか!?」
「あ、一応これを着て行きなさい」
ぜんまおうのローブをてにいれた! ▼
「なんですか、これ?」
「それっぽい服がこれしかなかったのよ、ほら早く装備して」
俺は言われた通りに、黒くて最高にクールなローブを装備した。
それからヨッホイにもらった2本のヒノキのぼうを装備し、イシス女王から頂いた祈りの指輪をはめる。
魔王様はローブを装備した俺をジロジロと眺めると感想を述べてくださる。
「似てるわね……」
「誰とですか?」
「前魔王と似ているわ」
「確か前魔王様は女性の方だと……」
「見た目じゃないわ、雰囲気よ」
「このローブを装備しているからじゃないですかね?」
「そうね」
そのローブはどこか懐かしい匂いがした––––
*
魔王様にどうやって「ホッドウーリー」まで行くか尋ねたところ、魔王城の外に足を用意してあると言っていた。
外に待っていたのは……
デコドラゴンがあらわれた! ▼
「お前かよ! ってか復活したのかよ!?」
「アーシハ教会所属ニナッタシ! コノマエ異世界グラムニ、写真投稿シタッショ!」
似合わないギャル語を話す、ギャル神様に調教を受けたであろうドラゴンがそこにはいた。
鱗や尻尾、羽にまでキラキラと光るデコが施されている。
ドラゴンは羽根を広げ下ろししゃがむと「乗ッテク〜?」とほざいている。
これが足かなるほど。振り落とされないように気を付けないと……
「ア、アレ。アーシノオススメノ店。今度一緒ニ行クッショ!」
「行かない」
ドラゴンの背中は思ったより快適で、揺れる事も無く、風の抵抗も全くない。ドラゴン曰く「ゴールド免許ナンデ〜!」だそうだ。安全運転ってことなのだろうか?
「なぁ、ドラゴン」
「ん〜? なぁにぃ〜?」
あれ?
「なぁ、ドラゴン?」
「だから、なぁにぃ?」
「なんで普通に喋ってんのぉぉぉお!?」
「あ〜、あーしあのドスの効いた喋り方10分しか出来ないんだわ〜」
「あれって地声じゃなかったの!?」
「あったり前しょ〜っ!」
ドラゴンはドスの効いた声ではなく、やたらと……その可愛い声でギャル語を話していた。
「なんであんな声で喋っていたんだ?」
「戦いは非常なのさ」
ドラゴンが何か訳の分からない言葉でかっこつけている。魔王城で暴れ回っていた時の面影はほとんどなく、そこにいたのは神様そっくりのギャル語を話すドラゴンであった。
一体神様に何をされたのだろうか……
「あ、そろそろホッドウーリーにつくぽよ〜」
「このまま降りのか?」
「それだと住民に迷惑しょ! ギャルだからってその辺は分かってるつーの」
ギャルの自覚はあるようだ。ドラゴンは町外れのジャングルに音も立てず静かに着陸した。きっと車の運転が上手いタイプだ。
「あ〜! あーしの羽根に泥がついた〜!」
しかも思ったよりも綺麗好きなようだ。
だが、このまま街に入るのだろうか? 魔王様は神龍とレヴィアさんを除く、こちらの最大戦力を派遣すると言っていた。
となると、ドラゴンも街に行くのだろう。こちらも4人パーティーと言っていた為、もう1人はおそらくボストロール。後から1人合流するらしいが……
「おい、ドラゴンお前そのまま街に行くのか?」
「んなわけないっしょ!」
ドラゴンはそう言うと、一瞬でなんと赤髪の黒ギャルに変身した。
「お前女だったの!?」
「はぁ〜? 流石に女子にその発言は無いわ〜下がるわ〜」
「だってお前、『俺ト戦エ! フハハハハッ』とか言ってたじゃん」
「あ、それ黒歴史。今すぐ忘れて」
ドラゴンはそう言うと街の方へ向かって歩きだした。おっぱい大っきい。
どおりで可愛い声をしていたわけだ……
「早く来る〜! 置いてっちゃうよ〜」
「今行くよ!!」
*
街はマリアの街や、この前王様をした「ナポリア」より栄えており、住民や商人の表情からは幸福感を感じとれた。
ボストロールは最初は変幻の杖で王様に化けていたそうだが、あまりにも勇者が来ないので変幻を解いたそうだ。住民や、観光客からはとても人気らしい。おかしい。
健全運営で国益を上げ続けているボストロールを嫌いになるわけはないか。
城の警備に身分証を提示し、城内に入る。もう慣れたもんだ。
城内は俺達の魔王城と作りが似ていて、オフィスや、撮影室、音響スタジオまである。さらに大きなグリーンシートで覆われたスタジオまである。
「あ、どーもボストロールです」
なんとボストロールはグリーンシートにまぎれていた! ▼
ボストロールを名乗るその男の外見はとてもボストロールには見えなく、気弱なヒョロリとした男性といった印象だ。
もちろん舌は出てない。ヒョロールじゃないか。
ヒョロールを名乗る男は「控え室でお待ちください」とスタッフに俺達の案内を指示する。
そして、控え室では以外な人物がセリフの練習をしていた。
「姿形ではなく美しい心をお持ちなさい」
「心にシワはできませんわ」
長く艶やかな髪に、透き通るように白い肌。そして、この匂い。イシス女王である。
「ふふっ、こんちにはカズくん♪」
「イシス女王、なぜサマンサーに?」
「それはですね、こちらをご覧になってくださいなっ」
イシス女王が俺に一冊の台本を手渡す。そこに書かれていたのは……
【カズキ】主役、国民から好かれる魔王役
【ドラゴン】 魔王の部下役
【勇者】 国民から好かれる魔王を倒し自分が人気者になりたい勇者役
【イシス女王】魔王の恋人役
「イシス女王、これ……」
言葉を詰まらせる俺に対して、イシス女王はこちらの顔を覗き込みながら「よろしくね、ダーリン♡」と悪戯っぽく微笑みかけた。
あなたがたの たびのおもいでを セーブしますか? ▼
▶︎はい
いいえ
▷はい
いいえ
セーブがかんりょうしました! ▼
〜登場アイテム〜
【元魔王のローブ】
実は全ての魔法攻撃を反射する優れもの。しかしHPが24のカズキが装備してもあまり意味がない代物。
〜街〜
【ホッドウーリー】
映画の街。街の名前の由来はHollywoodのアナグラム。
Hollywood→Hod Woolly。