第20話『ライトミッド』
「皆がわたしを褒め称える。しかし、ひとときの美しさなどなんになりましょう」
「あなた方が次のレベルになるには……うふふっ。冗談ですわ」
目の前にいるのは、魔王様もたじろぐと言われるほど美しいイシス女王である。
これは個人的な判断になるがイシス女王の方が、魔王様より気品がある感じだ。
魔王様は、どちらかと言うとお茶目だ。
なぜ、俺が女王様の前にいるかというと、3時間ほど時刻を遡る。
––––3時間前
「カズキくん、ピラミッドは知っているかしら?」
「えぇ、最近リニューアルしたとか」
「その通りよ」
魔王様が前髪が気に入らないのか、鏡を見ながら話しかけてくる。
現在、魔王城オフィスにてやくそうの納品チェック中だ。
魔王様は、仕事中の俺に1通の手紙を見せて来た。
「招待状?」
「そう、リニューアル記念でイシスでパーティーが開かれるのよ」
「イシスって、砂漠にある国ですよね?」
魔王様は「そうよ」と頷くと、前髪を諦めたのか髪の毛をピンで留めアップにする。
おでこが見えてとっても可愛い。
そんな姿に見惚れていると、レヴィアさんがコーヒーを差し入れてくれた。
「イシス女王は、とってもお綺麗なんですよ」
「そうなんですか?」
「異世界グラムのフォロワー数も世界一です」
レヴィアさんの言葉を聞くと、魔王様が少しムスッとした表情を浮かべる。
そして、どこかに電話をかけると、オフィスを出て行ってしまった。
それを見ていたレヴィアさんが、俺に耳打ちしてくる。
「本当は魔王様もイシスに行きたいんですよ」
「魔王様は、パーティーに出席されないのですか?」
「以前のドラゴンさんの件もあり、城から離れるのは好ましくないと……」
「確かに、魔王城に魔王様不在では示しも付きませんよね」
ドラゴンのような輩がまた現れる可能性だってある。
そんな事を考えていると、いつも間にか戻ってきた魔王様が、こちらにツカツカと歩みより、レヴィアさんに向かって何かのキーを渡した。
「魔王様、そのキーはなんですか? 魔法の鍵ですか?」
「ヘリコプターのエンジンキーよ」
「はぁぁぁぁぁぁあ!?」
「何をそんなに驚いてるのよ」
「いつの間にそんな物を購入したんですか?」
魔王様は少しとぼけた顔で「昨日?」とおどけて見せる。
しかし誰が操縦するのだろうか?
「レヴィア、出来るわね」
「先日免許を、取得しましたので」
「はぁぁぁぁぁぁあ!? ヘリの免許ってそんな簡単に取れるの!?」
「通信講座で取れましたよ」
もう、わけが分からなくなりツッコミ屋さんは閉業する。
「本当は、神鳥に乗せてってもらう手筈だったんだけどね〜」
「なぜ、ヘリに変更になったんですか?」
「子供が産まれるそうなのよ」
「それは、めでたいですね」
魔王城は育児休暇や、手当て等も充実している。俺には関係のない制度だが。
魔王様はどこからかタキシードと、紺色のドレスを取り出し、俺とレヴィアさんに手渡してきた。
「わたしは行けないけど、楽しんできてね」
「写真撮ってきますよ」
「じゃあ、今から行ってちょうだい」
「急ですね!?」
オフィスを後にし、ガレージへと向かう。ガレージには本当にヘリが置いてあり、少しビックリしたが、レヴィアさんが平然とヘリに乗り込むので俺もヘリに乗り込み、扉を閉める。
操縦席のレヴィアさんは、機材のチェックをしているようで邪魔をしては悪いと思い口を閉ざす。
到着時刻にはもうパーティーは始まっているそうで、俺もレヴィアさんも既にドレスアップ済みだ。
紺色のドレスを颯爽と着こなし、長いブランドの髪の毛をアップにまとめ、コクピットに座るレヴィアさんを見ているとまるで映画のワンシーンのようであった。
どうやら、離陸の準備が完了したようだ。
さて、空の旅と行きますか––––
*
「レヴィアさん! それ違う! 進行方向あっち!」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「レヴィアさん! 本当に免許取ったんですか!?」
「あ、見ますか? 証明写真も綺麗にとれて––––」
「前! 前見て!」
*
「つ、ついた……」
「ど、どうでしたか、わたしの操縦は!」
レヴィアさんは少し満足気な表情をしているが、「帰りもあれに乗るのか」と考えると気が滅入ってしまう。
砂漠の砂埃で機体が砂まみれになってしまうのを魔王様は心配していたが、イシス国内はとてもカラッとしていて砂埃の心配は無さそうであった。
パーティーはお城で開かれているようであり、俺たちは会場へと足を運ぶ。
門番の人に招待状を提示し、城内へと足を踏み入れる。
会場内に入ると、一際目立つ、とても綺麗な人がこちらに気が付いたのか、優雅に歩み寄って来た。
「皆がわたしを褒め称える。しかし、ひとときの美しさなどなんになりましょう」
「あなた方が次のレベルになるには……うふふっ。冗談ですわ」
「イシス女王お久しぶりです」
「お久しぶりですわ、レヴィア。とてもお綺麗になりましたね」
「そして、あなたが……」
イシス女王はこちらに向き直ると、俺の顔を正面から見据える。
異世界グラムのフォロワー数が世界一なのも頷ける美しさだ。俺もフォローしよう。
「始めまして、イシス女王。今日はお招きいただきありがとうございます」
「ま〜ちゃんに見せてもらった写真よりは随分と大きいですね。カズくん?」
「なぁあ……!?」
「うふふ、冗談ですわ。もう少しでピラミッドの点灯が始まりますので、あちらへどうぞ」
「光るの!?」
俺の疑問にレヴィアさんが歩きながら説明をしてくださる。
「ピラミッドは最近、黄金にレイアウトを変更したんですよ」
「お金かかってますね……」
「バンクの儲けの殆どをつぎ込んだそうですよ。それに伴い夜間はライトアップされるんです」
「暗い砂漠でもピラミッドを目印に出来ますね」
「その通りです。夜の砂漠は大変危険ですから……」
俺達の会話を聞いていたのかイシス女王が「カップルにも人気ですよ」と付け加えた。
通りで宿屋にカップルが多かった訳だ。女の子同士の。
城のバルコニーから一望出来るピラミッドはとても神秘的なもので、魔王様にもぜひ見せてあげたいものだ。そうだ、写真を撮ろう。
カメラを構え、ピラミッドをバックにセルフィーをしようとすると……
「わたしもっ♪」
なんと イシスじょうおうが うでくみをしてきた! ▼
「イシス女王!?」
「……あの、わたしお願いしたいことがございますの」
「は、はぁ……」
「今夜、わたしの寝室にいらしてくださいな。わたしの大事な物を差し上げますわ」
あなたがたの たびのおもいでを セーブしますか? ▼
▶︎はい
いいえ
▷はい
いいえ
セーブがかんりょうしました! ▼
「あら?カズキくんからだわ……」
「むぅう〜! イシぽよめ〜! なんで腕組みをしているのよ!」
〜あとがき的なもの〜
セーブの演出がいつもとは違うのはイシス女王がセーブをしているからです。
そして、当たり前ですがヘリコプターの免許は通信講座では取れません。
あくまで演出とお考えください。