第19話『ステイKING』
「カズキ君、今日は『ナポリア』へ行ってもらえるかしら?」
「ナポリア、ですか?」
「そうよ」
魔王様がパスタの美味しそうな地名を口にし、今日もオフィスワークがスタートする。
しかし、言い回しからして魔王様やレヴィアさんは同行してくれなさそうだ。
俺もついに1人で仕事を与えられたという訳か。
「そこの王様が貴方宛に招待状を送ってきたのよ」
「俺にですか? でもどうしてでしょう……」
「行けば分かるそうよ」
魔王様はそう言うとパソコンの画面に目を移す。
やれやれ、行くしか無いようだ。
魔王様は「そうそう」とモニターから目を離さずに続ける。
「マリアも連れて行きなさい」
*
「ちょ! ちょっと! もっとゆっくり走ってくださる!?」
隣で今日は、ジャージではなくドレスをお召しになったお姫様が叫んでいるが、気にしない事にする。
ナポリアには車で向かっている。例の屋根のない2人乗りの手抜きカーだ。
しかし、エンジンは絶好調でメーターは320kmを指している。
人通りも無く、モンスターとエンカウントするわけでもない草原を1台の車が爆速中だ。
気分はとてもいい。
隣のマリアはというと、俺の腕にしがみつきなんとかスピードを落とそうとしていた。
「おい、運転の邪魔だ。離れろ」
「だ、だって……」
マリアは少し涙目になっている。仕方ない。
310kmまでスピードを落としてやるか……
スピードを出さないとモンスターとエンカウントする可能性があるからな。魔王様や、レヴィアさんが一緒ならモンスター側も気付き襲っては来ないのだが……
俺もマリアも戦闘は出来ない。もしもの時の為に魔王様が『グリホーンのはね』を持たせてくれてはいるが、これを使うってことは仕事は失敗したって事になる。
この仕事を任せてくれた魔王様の信頼に応えるためにも使いたくはない。
*
––––1時間後
「おい、そろそろ着くぞ」
「………風が気持ちいいですわね」
なんとマリアはスピードになれていた!▼
しばらく走ると、正面にナポリアの街が見えてくる。
とても大きな街で、聞いた話によると陽気な王様と村人。それに闘技場もあるとか。
俺は魔王様も、レヴィアさんも居ない初仕事に少しワクワクしている。
言ってしまえばこの2人はこの世界における未熟な俺の保護者みたいなもんだ。
片方はこの前まで本当に保護者だったが……
さて一体どんな仕事なのだろうか?
「おお、カズキ殿よくぞまいった! これは、これはマリア姫もご機嫌麗しゅう」
「お久しぶりです、ナポリア王」
マリアは普段のジャージ姿とは違いとても凛としている。
マリアが同行しているのは、ナポリアとの交流も兼ねているらしい。
各国に顔が効く彼女を連れて来たのにはその様な理由もあるらしい。
さて、仕事は…
「王様、なにやら依頼があると?お聞かせ願えますか?」
「おお、そうじゃった。カズキ殿は先日ドラゴンを討伐されたとか?」
「まぐれですよ」
「そなたこそ真の勇者! どうじゃ? わしに変わってこの国を治めてみる気はないか?」
「は、はい?」
「じゃからの、わしに変わってこの国を治めてみる気はないか?」
▶︎はい
いいえ
はい
▷いいえ
「そんな事言わずに治めてみんかの?」
▶︎はい
いいえ
はい
▷いいえ
「そんな事言わずに治めてみんかの?」
▶︎はい
いいえ
▷はい
いいえ
カズキはおうさまになった!▼
「……って、なんじゃこりゃあぁぁあ!!」
「王様、うるさいですわよ?」
「なんでマリアも普通にお姫様やってるの!?」
「わたくしが貴方の妻だなんて光栄に……妻だなんて……ふふっ」
マリアは1人で顔を真っ赤にしてニヤニヤしている。マリアは王妃の役だそうだ。
しかし、この状況は一体なんなんだ? とにかく魔王様に連絡を……
「あ、もしもし魔王様ですか?ちょっと問題が……」
『調子はどうかしら? ”お、う、さ、ま”?』
「知ってたのかよぉぉぉぉぉお!?」
『当然じゃない』
「なんで、止めてくれなかったんですか?」
『面白そうだったからよ』
「………………」
無言で抗議の意思表示をしていると魔王様が『プロモーションも兼ねているのよ』と補足してくる。
それならば、ある程度は納得ができる。しかし……
「何をしたらいいんですかね?」
『ふふっ、セーブとか?』
「出来ませんよ、そんな事」
『冗談よ、普通にしていたらいいのよ』
魔王様はそう言うと『忙しいから』と電話を切ってしまった。
やれやれ、とりあえず同じ王族であるマリアに意見を伺ってみますかね。
「マリア姫、お時間よろしいですか?」
「やだっ。まだ、お昼ですわよ?」
「何言ってるんだお前? 王様ってのは何をすればいいんだ?」
「……とりあえず、城下町の様子を見てみるのはいかがかしら?」
*
マリアのアドバイス通り城下町へとやって来た。
噂通りの陽気な国という事もあり、町中から笑い声や、リズム感のある音楽が鳴り響く。
町中から「王様こんにちは〜!」と話しかけられる。
最初は、王様が変わった事に気が付いていないのか?と勘繰ったが、貼られていたポスターを見て事前告知されていたのだと気が付いた。
どうやら、王様が変わるのは以前から決まっていたらしい。
村人達の話によると街中にいる本物の王様を見つけるまで俺が王様だそうだ。
なるほど、国を挙げてのイベントってわけか。
「マリア、王様はどこにいると思う?」
「ここにいるではありませんか」
「そうじゃなくて! 本物の王様だよ! 本物の!」
「そんなの分かるわけありませんわ」
マリアは少し、機嫌を損ねているようだ。久々に外に出たからだろうか?
「疲れたのなら、戻って休んでもいいぞ」
「休むのでしたら、宿屋がいいですわね」
「分かった」
ちょうど近くに宿屋があり、足を踏み入れる。かなり大きな宿屋であり「ホテル」という表現がしっくりくる。
フロントに人が居ないようであり、部屋を選択し、料金を払うシステムのようだ。
「どの部屋がいい?」
「……わたくしはどこでも」
マリアはまたもや、赤面し俯いている。余程疲れたのだろうか。
俺は適当にお姫様である彼女がくつろげそうな部屋を選択する。
ホテルのかぎをてにいれた! ▼
「行くぞ」
「ふつつか者ですが、よろしくお願いしますわ」
「何言ってんだお前」
廊下を抜け、鍵を差し込み扉を開く。室内はかなり豪華な造りとなっており、テレビからベッド、ソファーに至るまでとても高品質なものが配置されていた。
マリアはというと、落ち着かない様子であたりをキョロキョロと見回している。慣れない部屋だからだろうか。
「緊張しているのか?」
「それは…しますわよ!」
「初めてだもんな」
「……分かっているのなら優しくしてください」
どうやらお姫様であっても初めてきた部屋だと、気が休まないようであった。
仕方ない、少し気を使ってやるか……
「マリア」
「は、はい!」
「先にシャワーを浴びてこい」
マリアはその言葉を聞くと耳まで真っ赤に染め、小さく「はい」と呟くと浴槽へと向かった。
しかし、浴槽へ向かう途中でお風呂が全面ガラス張りになっている事に気が付いたのか、恥ずかしそうにこちらをチラリと振り返る。
それじゃあ、見えちゃうもんな。それなら……
「じゃあ、腹減ったらルームサービスでなんか食べろよ。お金はここに置いておくから」
「は、は? え…?」
呆然とするマリアを置き、俺は王様探しへと戻ったのであった。
*
「王様、探しましたよ」
「おお、見つかってしまったか!」
村人達の話を頼りに闘技場にいた王様を見つけ無事にミッションを遂行した。
*
––––後日
「ふんっ」
「なぁ、なんでそんなに怒ってるんだよ?」
マリアのきげんをわるくしてしまった! ▼
セーブしますか? ▼
▶︎はい
いいえ
▷はい
いいえ
セーブがかんりょうしました! ▼