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第16話『オロチキッズ』



(あのおじさんがオロチだ。魔王様に連絡しないと……)


「…………!?」


 スマホのアンテナが立っていない。洞窟だから当然と言えば当然だろう。

 これでは魔王様に気が付いて貰えないし、連絡も出来ない。

 なんとかしてあのオロチの隙を突いて、子供達を連れて脱出するしかない。


 子供達は興味深そうな目でこちらを見ていた。人数は16〜18人程度だろうか。

 おそらく、あのおじさんがオロチだとは分かってないはずだ。

 だがそんな想いは虚しく、ドアの後ろから足音が聞こえてくる。

 勢いよくドアが開き、そして……



 ヤマタノオロチがあらわれた!▼




「あ〜オロチだぁ!」



 「ん?」



「オロチおやつまだー?」


「ヤマオロ遊ぼう!」



 「ん?」



「オロチ〜今日は何して遊ぶのー?」


 様子がおかしい。目の前には間違いなくおじさんではなく、首がいくつもあるヤマタノオロチがいる。

 その大きさは5〜6メートルはあるだろうか。天井にまで届きそうな首をうねらせ、その顔には……チョコレートの缶を咥えていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁあ!?」


「うおっと! ごめん、ごめん! びっくりさせてもうたな!」


 そう言うとオロチは一瞬にして、先ほどのおじさんの姿へと変身した。


「すまんの、あの姿の方が一度に沢山のお菓子を運べるんや」


「は、あ……え?」


「びっくりさせてもうたな、かんにんな! ……ほな、チョコレートあげるで! これで許してや〜」


「あの、子供をさらってるっていう……」


「ちゃいます、ちゃいます! わいは遊びに来た子供達にお菓子をあげたり、一緒に遊んでるだけなんや!」


「では、なぜ子供を帰さないんですか?」


「実は帰ってくれんのや……」


「へっ?」


「オロチ! また首を滑るやつやりたい」


 子供の1人がおじさんに向かって、話しかけてきた。その子供はとても楽しそうに笑っていた。

 俺は今までの光景、魔王様とはんなり姫の会話から、全ての状況を悟った。


「子供が好きって、そっちかよぉぉぉぉおおお!?」


 大きな勘違いをしていたようだ。"子供が好きなオロチ"には2つの意味があったのだ。

 1つは子供がオロチの事が好きなことだ。見ていれば分かる。オロチと友達のように遊ぶ子供達の笑顔に偽りはない。

 2つ目は……


「ほな、高い高いや〜!」


 オロチも子供が好きな事である。俺は元気に走り回る子供の1人を呼び止めた。


「君は良くここにくるのかい?」


「うん! 毎日だよ!」


「両親は心配してないのか?」


「うちの両親共働きだからさ……」


 なるほど、街の急激なIT化が進むに連れ、働き手が必要なったということだろう。

 子供が帰って来ないと言うのは、オロチが攫ったり、食べたりしたのではない。

 正しくは、子供達がオロチと一緒に遊ぶのが楽しくて、帰ってこないというのが正解だ。

 両親が家にいないため、寂しくてここに遊びに来ている子もいるのだろう。

 しかし、そうなると1つの疑問が残る。だれがオロチを復活させたのだろうか?


「あの、オロチさん」


「なんや〜? チョコレートは嫌いやったか?」


「いえ、そうではなくて。オロチさんは最近復活したと聞きましたが、どなたに復活して貰ったんですか?」


「お〜、子供なのに難しいことを知っとるな〜関心、関心。わいを復活されたんは、はんなり姫や〜」


 彼女は子供が好きだと言っていた。同じ子供好きなオロチの事を放って置けなかったのだろう。

 もしかしたら、IT事業もオロチ復活資金のために始めた可能性だってある。

 オロチは話によると中々強いモンスターだそうで、その復活資金もかなりのものなのだろう。


「オロチさん、実は……」


 俺は自分の成り行きや、魔王様の事。はんなり姫が子供達が帰って来ない事を心配しているのをオロチに伝えた。


「せやったか。子供にしてはやけに落ち着いとると思っとたで! それにしてもはんなり姫には、よう迷惑をかけとる……」


「彼女とは、仲がよろしいんですか?」


「おぉ! そらもう! 彼女が小さい頃から一緒に遊んどったんや! せやけど、最近は……わいが復活した時に一度来てくれたきりや」


 そう語るオロチの目はとても嬉しそうであり、悲しそうでもあった。


「彼女も忙しいんでしょう。街の方もかなり開発が進んでますし……」


「せやな、商人あきんどには堪らん場所なんやろなぁ。せやけど、それに溢れる子供達はどないするん? わいは昔の様に子供達が遊べる場所を作りたいんや!」


 もう一度部屋を見渡してみる。おもちゃ、ボールを始め様々遊具が揃っている。そして何より……


「いてて、こら髪を引っ張らんといてや〜!」


 オロチ自身が1番のおもちゃになっている光景に俺は思わず笑ってしまう。

 オロチは人懐こい笑顔を浮かべながら、時計を確認すると、俺に話しかけてきた。


「そろそろ子供達を街に送っていく時間や。悪いけど手伝ってくれへんか?」


「もちろん」





 *





「ねぇ、オロチ明日も来てもいい〜?」


「えぇけど、ちゃんと両親に言ってからくるんやで〜」


 帰りは子供達にとっては恒例のオロチタクシーだ。

 まさか、オロチに乗る日がくるなんて思っても見なかった。乗り心地は……気にしたら負けだ。

 そんな事を考えていると、ポケットの中のスマホが振動する。


「はい、お疲れ様です。魔王様」


『ふふっ、どうだった?』


「魔王様、騙しましたね」


『あら、わたしは嘘は言ってないわよ』


「問題と言うのは、共働き家庭の子供達の事だったんですね」


『そうよ。なんとかならないかしら?』


「簡単ですよ、魔王様」





 *





 ーー翌日



「オロチはんお久しぶりどす〜」


「お久しゅうごさいます、はんなり姫。姫こそお変わりなく……」


「オロチはん先日のお話の件やけど、どうどす〜?」


「しかし、えぇんですか? わいなんかがこないな場所でやっても……」


「うちもオロチはんにはお世話になったさかい。そんに、この辺の子らはみんなオロチはんの事をすいとるさかい。せやから……どやろ?」


「分かったで! 今日からオロチ園長先生や!」


「ほな、おおきに〜! オロチはん!」


 オロチが子供達の多く集まる場所に保育園を開く運びとなった。需要と供給の一致だろう。

 子供達の遊ぶ場所の提供、問題はオロチの住処が街から離れていた事にある。

 そもそも住処が離れていた理由も「わいはこれでもこの地域のボスやから」だそうだ。


 勇者も訪れるこの街で、IT以外の生業なりわい。すなわち武器、道具屋、宿屋など。彼らの生活を支えるために必要なのは、モンスターなのだ。


 モンスターがいなければ、薬草は売れない。


「ふふっ、ほんにカズくんのお陰であんじょうに事が運んでしもうたさかい。ほんま、おおきに〜」


「それで、カズキくんを元に戻せるの?」


 はんなり姫は「にこり」と笑うと小さな瓶を取り出す。


「これを飲みはると、元の年齢まで歳をとれるさかい。ほな、ねきよって〜」


 手招きする彼女から小さな小瓶を受け取り、匂いを嗅いでみる……臭い。


「やはり、”縮んだ”のではなく。”若返った”が正しいようね」


「せやな。ただこの薬品は劇薬どす〜、年に何回もは飲めへんで〜」


「大丈夫よ。これっきりのはずよ……」


 魔王様がこちらを見ながら笑って見せる。

 そもそもなぜ、俺は縮んだ……いや先程の魔王様の話からすると、若返ってしまったのだろうか?


(まぁ、いいか。これで元に戻れる)


 小瓶の中の薬品を飲もうとすると魔王様が「あ、待って」と手を差し出し、制止をしてくる。

 何か、不都合でもあるのだろうか。聞いてみよう。


「どうして、飲んじゃダメなんですか?」


「小さい方が、移動魔法を使う時に便利なのよ」


「面積が小さいですもんね……」


「それもあるけど、もう1人連れて行くのよ」


「もう1人?」と疑問に思い、首を傾げていると巾着袋をもったはんなり姫が、ちょこんと登場する。


「うちもよろしゅうにっ」


「実ね……今回は、新しい事業を手伝ってもらうための出向の手続きも兼ねているのよ」


「俺がオロチさんのところに行っている間にですか?」


「そうや〜。ふふっ、うちの事もこれからよろしゅうたのんますえ〜」




はんなりひめがなかまになった! ▼






セーブしはります〜? ▼


▶︎しはる

 しない



▷しはる

 しない



セーブがかんりょうしたどすえ〜 ▼






〜登場人物!〜


【オロチ】


職業 園長。

子供が大好きなオロチ。 お腹にはチョコレートが沢山詰まっている。



【カズくん】


職業 子供。

番外編が終わるまではちっこいまま!






「ところで魔王はん。あんの、接吻に意味はありはるんやろか〜?」


「目印に飛べるのは本当よ」



次回は番外編となります。

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