表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/160

第14話『はんなり姫』



「ジパングに行くわよ」


 城内の社員食堂で、レヴィアさんと朝食を取っていると唐突に魔王様がBセットを食べながら、話し出した。


「ジパング、ですか?」


「えぇ、あっちゃん……神様もそこの出身なのだけれども、数多くの魔術や妖術が存在するのよ」


「妖術……魔法とは違うんですか?」


「そうよ。わたしもあまり詳しいわけではないのだけれど、もしかしたらあなたが元に戻る方法があるかも知れないわ」


 数日間この小さい体で過ごしたが、かなり不便だ。重い物は持てないし、高い所は無論手が届かない。さらに……


「カズくんっ、またこぼしてますよ〜 」


 これである。

 こうなってしまった責任を感じているのか、レヴィアさんの過保護が大爆発してしまった。

 しかし、一体どうして小さくなってしまったのか……

 俺の疑問を晴らすかのように、魔王様が話を続ける。


「どうやら、神様は小さくなったのを元に戻せるそうなのよ」


「じゃあ、お願いしたら……」


「『そのままの方が面白いからいんじゃね〜』だそうよ」


 魔王様が神様の真似をして、ギャル口調で話す。ちょっと可愛い。

 どうやらあのギャル神様には、元に戻してくれる気はないようだ。だが、"元に戻る"というのが分かっただけでも、前進したのだろう。


「それで、ジパングにはいつ行くんですか?」


「今日よ」


「また、急ですね……」


「それと、レヴィアは魔王城に待機ね」


「どうしてですか!? 魔王様!」


「だってあなた『カズくぅ〜ん』って言ってばかりで、全然仕事してないじゃない」


「ですが……」


「あなたのやるべき仕事が溜まってるのだけれど?」


 レヴィアさんは「分かりました」と呟き渋々食堂を後にする。

 これでやっと"レヴィアママ"から解放されるわけか。名残惜しい気持ちも残しつつ、俺も準備をするため食堂を出る。


 自室に向かう途中で目を擦りながら、ふらふらと歩く寝不足ジャージ姫に遭遇した。


「よう、マリア」


「…………おはようございますわ」


 日々このお姫様に対する敬意の欠如を感じつつも、俺は彼女にしばらくジパングに行く旨を伝えた。


「分かりましたわ。不便ですものね、その身体ですと……カズくん?」


 マリアはクスリと悪戯っぽく笑うと、食堂へと消えて言った。

 みんなが俺を"カズくん"呼ばわりするのにはもう慣れたもんだ。さて、準備をするか。





 *





「それで魔王様、何でジパングまで行くんですか? また車ですか?」


「違うわよ。前回は近かったから車にしたけども……今回は移動魔法で行くわよ。持って行く荷物も無いしね」


 魔王城のガレージで待機するスーツ姿の魔王様と落ち合い、今日の段取りを確認する。

 前回は式典用に荷物があったが、今回は何もない。

 移動魔法はレヴィアさんと共に何回か体験したが、移動魔法を使わない側、つまり俺が移動中に離れてしまうと、大変な事になるらしい。どおりで手の繋ぎ方が、恋人繋ぎだったわけだ。

 その時の事を思い出し自分の手を見ていると、魔王様がニヤニヤとしながらからかって来た。


「はい、じゃあ手を……カズくんは抱っこの方がいいかしら?」


「なぁ……!?」


「そっちの方がはぐれる心配もないしね。はい、おいで〜」


 俺は「ブンブン」と音が出るような勢いて首を横に振るが、魔王様お構い無しに俺を拾い上げ……


「はい、ぎゅ〜」


 抱きしめた。

 スーツの上からでも分かるその膨らみに、遠慮なしに俺は押し付けられる。ほのかな香水の香りが、彼女をさらに魅力的な女性だと認識させる。

 下手に動く訳にもいかずジッとしていると、魔王様の心音がドクンドクンと脈打っているのが聞こえた。

 何故かは分からないが、その音はとても心地よく、俺の心を安らかにしてくれた。


「ちょっとの間、我慢してね〜」


「ん〜〜〜っ!」


 そう言ってはいるが、何も見えない。上手く口が動かせず、ぐぐもった声しか出せなかった。

 軽い浮遊感の後、魔王様が「着いたわよ」と俺を優しく地面に下ろしてくれた。

 辺りを見渡すと、マリアの城のある街や、魔王城とは違い……



 なんと高層ビルが立ち並び、車が走っていた。

 ビルは高くそびえ立ち圧迫感があった、横断歩道の向こうからは、4人組のOLさんらしき人が「今日のランチどうする〜?」という声まで聞こえる。


「随分現代的なんですね」


「このエリアだけね。向こうの方はもう少し落ち着いているわ」


 魔王様は歩きながら、ジパングが重要拠点である事。

 神様が多額の資金を投入し、街の発展に貢献した事などを教えてくれた。やるな、ギャル神様。


「昔はきんの都ジパングなんて呼ばれていたのだけれども、今じゃすっかりかねの都よ」


「そうなんですか?」


「えぇ、世界中から多くの人がこの街を訪れるわ。商人、遊び人、賢者でさえも。知識は多様に得られるからね」


 魔王様は1つのビルを指差し、あそこが「異世界グラム」の本社だと教えてくれた。

 ここにあったのか。


 少し歩きビジネス街を抜けると、辺りは一変し、木造建築の家屋やお店。それに少し離れた所には大きめのお屋敷が見える。


 俺が辺りをきょろきょろと見渡していると、魔王様は俺の手をとり「よそ見をしてると、はぐれちゃうわよ〜」と子供扱いをしてきた。

 確かに、始めての街、知らない場所ではぐれるわけにはいかないので、素直に魔王様の手を握り返す。


「はんなり姫にアポを取ってあるわ」


「はんなり姫?」


「このジパングのお姫様よ。一代であのビジネス街を形成したのよ」


(相当やり手の人のようだ。一体どんな人なのだろうか?)


 目的地はお屋敷のようであり、近付くにつれ、その全貌の大きさが見える。

 大きな庭園や枯山水かれさんすいなどもあり、こちらで言う所の和風建築という表現がしっくりくる。

 背丈より大きな扉を潜り、中に入ると和服を着た女性が話しかけてきた。


「よくお越しくださいました、魔王様」


「ありがとう。はんなり姫は居るかしら?」


「奥でお待ちです、どうぞ」


 いくつかのふすまをぬけ、長い廊下を歩く。廊下からは日本庭園が一望でき、池からは大きなこいが跳ねるのが見えた。

 窓ガラスも古いガラスのようで、斜めから見るとゆがみが見える。1枚1枚が違うゆがみ方をしており、かなり昔に作られたようだ。

 桜の襖の前で、止まりその扉を開く。ついにはんなり姫とご対面だ。無礼のないようにしないと……


「ほんに、このややこはめんこいの〜」


 長い黒髪の少女が視界に入ったと思ったら、一瞬にして、消え後ろからこそばゆい感覚を感じる。

 後ろから、抱きしめられているようだ。


「あ、あの……」


「魔王はんから送られて来た写真を一目見た時から、うちはそなたの事が気にいってしもうたんや〜」


「は、はぁ」


「ほな、名前はなんと言いはるんやろか〜?」


 魔王様が俺の代わりに「カズくんよ」とクスクスと笑いながら答えた。


「ほんに、かあいらしいの〜!」


「あの、そろそろ離れて頂けませんか?」


「あ……きずつないっことを。うちは子供がえろう好きでな。せやから、こやって可愛い子を見ると忙しなくなってまうんや〜」


「ほんま、かんにんな〜」と謝る少女の姿を改めて見る。

 着物の似合う彼女は、艶やかに輝く黒のストレートヘアーに、白い肌、そして砂糖菓子のような可愛らしい顔立ちをしていた。

 頭の上にちょこんと付けたかんざしがよう、つってはりますな〜。

 ※似合っている。


「うちは、小春こはるいいはります。どうぞ、よしなに〜」


「あ、えとカズキです。魔王様の部下をしています」


「それでこはるん、早速なんだけど彼の身体を、元の大きさに戻せないかしら?」


 ”こはるん”の部分に違和感を覚えるが、きっとビジネス系の仕事で仲良くなったのだろう。多分そうだ。


「ん〜? 別にえぇんとちゃいます〜、うちはこのままの方が好きどす〜」


「仕事に支障が出るのよ。ねぇ、何とかならない」


「せやったら……交換条件がありますえ〜」


「何かしら?」


「半月くらい前から、ヤマタノオロチが復活しとってな。小さな子供が家に帰って来なくなっとるんよ……」


「……あのオロチね」


「せや、何とかならんやろか〜」




セーブしはります〜? ▼


▶︎しはる

 しない



▷しはる

 しない



セーブがかんりょうしたどすえ〜 ▼




「うちの紹介はまだやろか〜?」


それは次回!



「作者はんは、ほんに京都弁が好きやさかい。うちも困ってしまいやす」


ちなみにこはるんが、ヤマタノオロチというオチはないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ