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第115話『休憩ティータイム』


「なんか最近、お茶飲んでばかりな気がするわ」


 魔王様がもっともな事を言いながら、紅茶をすする。現在魔王城オフィスにて、休憩中だ。

 魔王様以外にもレヴィアさん、マリア、小春ちゃん、かくいう俺も、レヴィアさんの作ってくれたお菓子をつまみながらお茶の時間である。


「お茶の時間はダメなんですか?」


「別にダメじゃないわよ、糖分は脳の栄養だしね」


 魔王様はティーカップに角砂糖を入れながら、そう答えた。

 そしてメモ帳を開くと、何を思い出したかのように告げる。


「明日、緊急の会議があるから」


「何の会議ですか?」


「『お鍋の蓋』に変わる最弱盾の名称を決める会議よ」


 なんかどーても良さそうな会議だ。

 しかし、きっと大事な会議なのであろう。その証拠にレヴィアさんが、いそいそとオフィスにあるカレンダーに「会議」と記入していた。


 魔王様はそれを眺めながら、再び紅茶をすする。未だ休憩時間のようだ。

 この魔王城にあるオフィスは休憩時間がとても長い。……というか、レヴィアさん以外はみんな勝手に休んでいたりする。

 真面目そうに見える小春ちゃんも実はかな〜り休憩していたりする。

 そもそも小春ちゃんの場合は、仕事が速すぎてすぐに終わってしまうのも関係しているのかも知れない。

 今後の為にその速さの秘訣を聞いて見よう。


「小春はん、小春はん」


「カズキはん、最近うちのこと、『ちゃん』やのうて、はん付け呼びはりますなぁ」


「ダメですかね?」


「別にかまへんよ、そんでどないしたん?」


「どうすれば、仕事が早くなりますかねー?」


 小春ちゃんはいつも通り「せやなぁ……」と顎に手を当てる。その後魔王様の方をチラリと見ると、怪しい笑みを浮かべた。


「こっ、小春ちゃん?」


「カズキはん」


「……なんですかね?」


「仕事を早く終わらせへんのなら……」


「へんのなら?」


「減給どす〜」


「やめて!?」


 俺の辛辣な悲鳴を他所に、小春ちゃんはクスクスと笑った。冗談なのは分かるが「減給」の2文字は俺にとっても効く。

 小春ちゃんはお詫びとでも言わんばかりに、いつもの人懐っこい笑顔を浮かべると、俺に小さなチョコレートをくれた。包み紙をカサカサと開き、チョコレートを口に入れる。美味い。許した。


「わたくしにも一つくださいなっ」


「かまへんよ〜」


「わたしにもちょうだい」


「かまへんよ〜」


「あっ、では、わたしもいたただけますか?」


「かまへんよ〜」


「わたくし、もう一つ欲しいですわ!」


「かまへんよ〜」


「じゃあ、わたしも」


「もう、あらへんよ〜」


 ぼんやりと小春チョコレート工場から、チョコが出荷されるのを眺める。

 そして、最後の一個を食べたマリアはご機嫌に、逃した魔王様はしょんぼりと肩を落とした。


「魔王様、俺もチョコありますよ」


「ほんとっ?」


 魔王様は輝くような笑顔でこちらに振り向いた。

 俺は引き出しからチョコレートを1つ取り出して、魔王様に手渡した。


「とうぞ」


「カズキくん、ありがとうっ」


 魔王様が包み紙を開き、チョコレートを口に放るのを尻目に、紅茶をすする。美味い。


「すいません、コーヒー豆を切らしてしまいまして……」


「構いませんよ、紅茶も美味しいですし」


 申し訳無さそうに、レヴィアさんは紅茶の入ったポットを持ち上げる。

 俺はティーカップに残った紅茶を一気に飲み干してから、レヴィアさんにティーカップを手渡した。

 レヴィアさんはゆっくりと、俺の渡したティーカップに紅茶を注いでくれた。


「はーい、どうぞっ」


「ありがとうございます」


 レヴィアさんにお礼を言ってから、紅茶から立ち昇るりんごの香りを吸い込む。

 そういえば、いつだったかマリアの城で出された紅茶もこんな匂いだった気がする。


「マリアは紅茶とか好きなのか?」


「好きでもなへれば、嫌いれもありまへんわね」


 マリアはレヴィアさんが焼いてくれたパンプキンパイをかじりながら、モゴモゴと答えた。


「食べてから答えろ」


「食べましたわ!」


「さっきの続きだが、好きでもないのになんで飲んでいたんだ?」


「毎日飲んでいますと、習慣化してしまいますの」


「それは…………なんとなく分かるな」


 朝コーヒーを飲まなければ眠気が覚めないとか、お昼休みにはコーヒーを飲まなければ、仕事に身が入らないとか…………全部、コーヒーだ。

 確かに魔王様に言う通り、俺たちはお茶をし過ぎなのかもしれない。別に悪くはないのだろうが…………むしろ、俺なんかは休憩がちょくちょくあった方が、仕事の効率が上がるタイプだと思う。

 しかし、休み過ぎだ。これでは仕事が疎かにになり、全然進まない。ここは、魔王様にガツンと言うべきだろう。


「魔王様………………あの、何してるんですか?」


 腕を伸ばしたり、縮めたりしている俺の上司は「体操よ」と短く答えた。


「なんでそんな事してるんですかね……」


「食べた分は、消費しないと」


 その胸が大きく揺れるだけの体操に脂肪燃焼効果があるとは思えないが、黙っておくことにしよう。

 しかし、いつになったら、仕事に戻るのだろうか? なーんて再び考えていると、魔王様に後ろから肩を叩かれた。振り向くと、ほっぺに指を当てられてしまった。


「…………なんですか?」


「明日、ぷっ…………会議あるの覚えてるかしら?」


 魔王様は肩を震わせながら、カレンダーを指差した。


「すいません、忘れてました」


「メモくらい取りなさい」


「メモ帳持ってないです」


「そう、なら手を出しなさい」


 メモ用紙でもくれるのかと手を出すと、その手を掴まれ、マジックで手に文字を書かれてしまった。


「何するんですか!」


「これなら、忘れないでしょ」


 手の平を見ると「明日、会儀」と書かれていた。確かにこれなら忘れないだろう。問題は……


「魔王様、会議の『議』の字が違います」


「えっ、うそ!?」


 俺は魔王様に手の平を見せた。


「『議』は、『にんべん』ではなくて、『ごんべん』ですよ」


「………………さーて、仕事、仕事」


「あっ、魔王様! 逃げないでくださいよ」


 ちょっとばかり長い休憩は、仕事に逃げる魔王様と共に終わりを告げた。

 さーて、それじゃあ、俺も仕事に戻りますかね。


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