表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/160

第114話『内職バナナ』



「カズキくん、バナナ」


 俺は「はいはい」と空返事をしながら、魔王様から"バナナ"を受け取った。

 現在魔王城オフィスにて、バナナタイム中だ。

 なぜバナナなんて食べているかというと、もちろん魔王様のせいだ。

 俺の後ろ、並びにデスク周辺、おまけにオフィス内にも無数のバナナが置かれており、これは全て魔王様の誤発注である。

 魔王様が言うには「間違えちゃったっ」らしいが、間違えすぎだ。賞味期限も近付いているらしく、こうしてオフィス内では、各自バナナの消化作業に当たっていた。

 若干パワハラ感は否めないが、バナナを食べてるだけでお給料を貰えるなら、安いものだ。


 だが、限界は近い。


 マリアは平然とバナナを食べ続けているが、レヴィアさんなんかは、もう無理そうな表情でこちらに助けを求めているし、小春ちゃんに至っては、バレないようにマリアの方へさりげなくバナナを渡していた。

 俺は仕方なくレヴィアさんの手から、食べかけのバナナをヒョイと取り上げた。


「俺が食べますよ」


「あっ、でも、それ食べかけで……」


「量が少ないから、丁度いいですよ」


 そう言いながらバナナを食べようとしたが、俺の手から誰かにバナナを取り上げられてしまった。魔王様だ。


「何するんですか、魔王様」


「お腹が減ったからよ」


 魔王様はそう言うと、2口でレヴィアさんの食べかけバナナを食べてしまった。俺は自身の背後を指差す。


「バナナなら、その辺にあるじゃないですか」


「そんなには要らないわ」


「魔王様、今日でバナナ5日目なんですが」


「健康的じゃない、痩せるわよ」


「いや、他の物も食べたいです……」


「チョコバナナとか」


「それ、バナナですね」


「ベーコン巻きバナナとか」


「それ、昨日レヴィアさんが作ってくれたやつですよね」


「バナナプリンとか」


「それ、2日前のオヤツにレヴィアさんが作ってくれたやつですよね」


「やるわね、レヴィア」


 俺は「そうですねー」と息を吐くだけのような返事を返した。レヴィアさんは持ち前の料理上手を生かして、試行錯誤してくださったのだが、昨日レシピのストックが尽きたらしい。その間は俺も美味しくバナナを食べる事が出来ていたのだが、素のバナナは…………もう見たくもない。

 マリアは何故、平然と食べ続けられるのだろうか?


「なぁ、マリア」


「ふぁんれすのー?」


 マリアは口をモゴモゴと動かしていた。


「食べてから返事しろ」


「食べましたわ!」


「なんで、そんなに食べれるの?」


「生きてたら、お腹が減るのは当たり前ですわよ」


「お、おう」


 あまりに当たり前の事を言われ、思わず尻込みをしてしまった。俺は気を取り直して再度「じゃなくて……」と、質問をする。


「バナナばっかりで、その、飽きないの?」


「わたくしバナナ好きですわよ」


「いや、俺もどちらかと言うと好きだけどさ、さすがに食べ過ぎると嫌にならないか?」


「ズッキーはもっと食べるということに、感謝すべきですわね」


「なんで、マリアは悟りを開いてんの!?」


 よく見るとマリアは、澄んだ目で一心にバナナを食べていた。さてはこいつ、バナナを食べ過ぎておかしくなっちまったな……。

 しかし、バナナを食べているだけなら無害だから、放って置こう。現状、最大戦力だし。

 小春ちゃんも頼りにしているようで、バナナの皮を剥いては、マリアに差し出していた。見た目は餌付けだ。


「マリアおかしくなってるよね」


 小春ちゃんは皮を剥きながら、マリアの方をチラリと見た。


「マリアはん、バナナはどうどす〜?」


「食べますわ」


「うちは正常やと思いやす」


「小春ちゃんのマリアに対する普段の認識が、よく分かったよ」


 小春ちゃんは不思議そうな顔をしながら、バナナの皮むきに戻る。なんか、内職をしてるみたいだ。

 俺は再度後ろを振り返る。そこには以前バナナの入った箱が積まれており、このペースだと、後数日はバナナ生活である。なんとかしないと、精神的にキツい。


「魔王様、このバナナ売れたりとかしませんかね」


「短期的にこんなにバナナが売れるわけないでしょ」


「デスヨネー」


 その通りである。確かにバナナなんて、売れはするだろうが、一気に売れる事はないだろう。

 バナナは、既にいくつか黒くなり始めており、賞味期限はすぐそこまで迫っていた。

 黒くても食べれるだろうが、見た目は悪い。黒いバナナよりは黄色いバナナの方が美味しそうだからな。宵闇の魔王も黒じゃなくて、黄色い服でも着れば、少しは陽気になるのではないだろうか? …………うん? 宵闇の魔王?


「カズキくん、どうしたの?」


「魔王様、閃きました」


「バナナヨーグルトなら、初日にやったわよ」


 俺は「そうじゃないですよ」とバナナを一本手に取り、黒いマジックで塗りつぶしてから、魔王様に差し出した。


「黒いバナナなんてどうするのよ」


「宵闇バナナです」


「………………」


「宵闇の魔王のサイン付き」


「採用」



 *




 その後、宵闇バナナは注文が殺到し、全て賞味期限前に売れた。後は発送するだけである。

 小春ちゃんなんかは「カズキはん、えろう商売があんじょーになりはりましたな〜」と感心していた。

 しかし…………


「ほら、カズキくん、ここ黄色いわよ」


「はいはい……」


「ほら、白いマジックでサインも書いて」


「全部ですか?」


「当たり前じゃない。発案者なんだから、責任を持ってやりなさい」


「そんな、バナナ!」


「くだらないシャレを言ってないで、早くやりなさい」


 これなら、食べる方がマシだったかもしれない。もう、バナナなんて見たくもない。


セーブしますか? ▼


▶︎はい

 いいえ


▷はい

 いいえ


セーブがかんりょうしました! ▼


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ