第114話『内職バナナ』
「カズキくん、バナナ」
俺は「はいはい」と空返事をしながら、魔王様から"バナナ"を受け取った。
現在魔王城オフィスにて、バナナタイム中だ。
なぜバナナなんて食べているかというと、もちろん魔王様のせいだ。
俺の後ろ、並びにデスク周辺、おまけにオフィス内にも無数のバナナが置かれており、これは全て魔王様の誤発注である。
魔王様が言うには「間違えちゃったっ」らしいが、間違えすぎだ。賞味期限も近付いているらしく、こうしてオフィス内では、各自バナナの消化作業に当たっていた。
若干パワハラ感は否めないが、バナナを食べてるだけでお給料を貰えるなら、安いものだ。
だが、限界は近い。
マリアは平然とバナナを食べ続けているが、レヴィアさんなんかは、もう無理そうな表情でこちらに助けを求めているし、小春ちゃんに至っては、バレないようにマリアの方へさりげなくバナナを渡していた。
俺は仕方なくレヴィアさんの手から、食べかけのバナナをヒョイと取り上げた。
「俺が食べますよ」
「あっ、でも、それ食べかけで……」
「量が少ないから、丁度いいですよ」
そう言いながらバナナを食べようとしたが、俺の手から誰かにバナナを取り上げられてしまった。魔王様だ。
「何するんですか、魔王様」
「お腹が減ったからよ」
魔王様はそう言うと、2口でレヴィアさんの食べかけバナナを食べてしまった。俺は自身の背後を指差す。
「バナナなら、その辺にあるじゃないですか」
「そんなには要らないわ」
「魔王様、今日でバナナ5日目なんですが」
「健康的じゃない、痩せるわよ」
「いや、他の物も食べたいです……」
「チョコバナナとか」
「それ、バナナですね」
「ベーコン巻きバナナとか」
「それ、昨日レヴィアさんが作ってくれたやつですよね」
「バナナプリンとか」
「それ、2日前のオヤツにレヴィアさんが作ってくれたやつですよね」
「やるわね、レヴィア」
俺は「そうですねー」と息を吐くだけのような返事を返した。レヴィアさんは持ち前の料理上手を生かして、試行錯誤してくださったのだが、昨日レシピのストックが尽きたらしい。その間は俺も美味しくバナナを食べる事が出来ていたのだが、素のバナナは…………もう見たくもない。
マリアは何故、平然と食べ続けられるのだろうか?
「なぁ、マリア」
「ふぁんれすのー?」
マリアは口をモゴモゴと動かしていた。
「食べてから返事しろ」
「食べましたわ!」
「なんで、そんなに食べれるの?」
「生きてたら、お腹が減るのは当たり前ですわよ」
「お、おう」
あまりに当たり前の事を言われ、思わず尻込みをしてしまった。俺は気を取り直して再度「じゃなくて……」と、質問をする。
「バナナばっかりで、その、飽きないの?」
「わたくしバナナ好きですわよ」
「いや、俺もどちらかと言うと好きだけどさ、さすがに食べ過ぎると嫌にならないか?」
「ズッキーはもっと食べるということに、感謝すべきですわね」
「なんで、マリアは悟りを開いてんの!?」
よく見るとマリアは、澄んだ目で一心にバナナを食べていた。さてはこいつ、バナナを食べ過ぎておかしくなっちまったな……。
しかし、バナナを食べているだけなら無害だから、放って置こう。現状、最大戦力だし。
小春ちゃんも頼りにしているようで、バナナの皮を剥いては、マリアに差し出していた。見た目は餌付けだ。
「マリアおかしくなってるよね」
小春ちゃんは皮を剥きながら、マリアの方をチラリと見た。
「マリアはん、バナナはどうどす〜?」
「食べますわ」
「うちは正常やと思いやす」
「小春ちゃんのマリアに対する普段の認識が、よく分かったよ」
小春ちゃんは不思議そうな顔をしながら、バナナの皮むきに戻る。なんか、内職をしてるみたいだ。
俺は再度後ろを振り返る。そこには以前バナナの入った箱が積まれており、このペースだと、後数日はバナナ生活である。なんとかしないと、精神的にキツい。
「魔王様、このバナナ売れたりとかしませんかね」
「短期的にこんなにバナナが売れるわけないでしょ」
「デスヨネー」
その通りである。確かにバナナなんて、売れはするだろうが、一気に売れる事はないだろう。
バナナは、既にいくつか黒くなり始めており、賞味期限はすぐそこまで迫っていた。
黒くても食べれるだろうが、見た目は悪い。黒いバナナよりは黄色いバナナの方が美味しそうだからな。宵闇の魔王も黒じゃなくて、黄色い服でも着れば、少しは陽気になるのではないだろうか? …………うん? 宵闇の魔王?
「カズキくん、どうしたの?」
「魔王様、閃きました」
「バナナヨーグルトなら、初日にやったわよ」
俺は「そうじゃないですよ」とバナナを一本手に取り、黒いマジックで塗りつぶしてから、魔王様に差し出した。
「黒いバナナなんてどうするのよ」
「宵闇バナナです」
「………………」
「宵闇の魔王のサイン付き」
「採用」
*
その後、宵闇バナナは注文が殺到し、全て賞味期限前に売れた。後は発送するだけである。
小春ちゃんなんかは「カズキはん、えろう商売があんじょーになりはりましたな〜」と感心していた。
しかし…………
「ほら、カズキくん、ここ黄色いわよ」
「はいはい……」
「ほら、白いマジックでサインも書いて」
「全部ですか?」
「当たり前じゃない。発案者なんだから、責任を持ってやりなさい」
「そんな、バナナ!」
「くだらないシャレを言ってないで、早くやりなさい」
これなら、食べる方がマシだったかもしれない。もう、バナナなんて見たくもない。
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