第113話『猫耳にゃんらいふ』
「宵闇の魔王、これをやろう」
俺は「魔王じゃなくて、カズキです」と否定しながら、竜王さんから可愛らしい紙袋を受け取った。
現在、魔王城会議室にて竜王さんと打ち合わせ中である。
俺は紙袋の中身を除いてみた。猫耳だ。
「なんですか、これ」
「竜王堂の新商品だ」
「竜王堂?」
「わたしのブランド名だ」
「あぁ、なるほど」
竜王さんは制服を中心としたファッションブランドを展開しており、結構人気らしい。
この猫耳もアクセサリー感覚の物とかなのだろうか?
「これ、俺に付けろってことですか?」
「レヴィアにでも、あげたらどうだ?」
なるほど、竜王さんは天才だ。
*
「あっ、カズキさんっ、おはようございますっ」
「おはようございます、レヴィアさん」
朝はなんとなく気だるい感じがする今日この頃だが、今日は違う。
俺は昨日、竜王さんにもらった紙袋を持参していた。
レヴィアさんの事だ。後ろからこっそり猫耳を付けたくらいじゃ「何するんですかっ」と、可愛らしく恥ずかしがる程度で、怒りはしないだろう。
幸い、魔王様や小春ちゃんは、まだ出社して来ていないようであり、イタズラをするならば今がチャンスだろう。
俺はレヴィアさんの方をチラッと盗み見る。レヴィアさんは現在パソコンに向かい、モニターを注視している。今!
俺は素早い手付きで、猫耳をレヴィアさんの頭に取り付けた。
「ふえっ!? ちょっと、カズキさんっ、にゃにするんですか!?」
「猫耳ですよ、レヴィアさん」
「にゃんで、そんにゃことするん…………あれっ、言葉がおかしくにゃってますよっ!?」
おや、気のせいだろうか? 可愛いにゃんにゃんが居るぞ。
レヴィアさんは頭を触り、猫耳を取ろうとするが外れない。
「にゃんで、取れにゃいんですか、これ! ちょっと、カズキさんっ」
可愛い。なんか、可愛い。レヴィにゃん爆誕である。しかし、取れないのはおかしい。
「本当に外れないんですか?」
「はい…………取ろうとしても…………頭に、張り付いている…………ようでして」
レヴィにゃんは、にゃんにゃんしないように言葉を選びながら、ゆっくりと話す。
俺はレヴィにゃんの頭に手を伸ばし、猫耳を触る。上に持ち上げると、普通に外す事が出来た。
「取れましたよ」
「あっ、良かったです…………って、なんなんですか! その、猫耳!」
「竜王さんにいただきました。新商品らしいですよ」
「取れなくなりますし、それに何故か言葉もおかしくなりましたよっ」
確かおかしい。何か無いかと紙袋の中をもう一度見ると、説明書と思わしき紙切れが入っていた。
俺は説明書を取り出して読んでみた。
「この猫耳は、付けると『にゃんにゃん』しちゃいます。そして付けた人しか、外す事は出来ません」
「だから、わたしでは外せなかったんですね」
ほう、つまりこれをレヴィアさんの頭に乗せれば、ずっとレヴィにゃんのままとなるわけか。悪くない。竜王さんは天才だ。
「あの、カズキさん…………目が怖いですよ」
「レヴィアさん、いや、レヴィにゃん」
「は、はい?」
「可愛くなーれ」
「なーにやってるのよ」
「いてっ、ちょっと魔王様!」
魔王様に後ろから耳を引っ張られてしまった。咄嗟に猫耳は紙袋にしまったため、俺のイタズラはバレなかったようだ。
レヴィアさんも何事も無かったかのように「こっ……コーヒー淹れてきますね〜」と、早足にデスクを離れて行った。
しかしこの猫耳、いい、とてもいい。イシス女王に付けたら、どのような反応を見せてくださるのだろうか?
「これは、にゃんですの?」とか、言ってしまうのであろうか。
「カズキくん」
「なんですか、魔王様」
「減給ね」
「なんで!?」
「仕事中に鼻の下を伸ばしている人は、減給よ」
確かに、鼻の下は伸びていたかもしれない。だが、減給はあまりにも横暴である。
ここは、日頃の仕返しの念を込めて、猫耳を装着すべきではないだろうか?
猫耳を付けた魔王様を、ちょっと見てみたい気もする。
俺は紙袋を片手に、魔王様の後ろに回り込んだ。
「魔王様、髪の毛に糸くずがついてますよ」
「どこかしら?」
「取ってあげますよ」
「悪いわね」
俺は素早く紙袋に手を突っ込み、猫耳を取り出した。今だ!
「ちょっとカズキくん、今頭ににゃにか、付けたでしょ?」
「にゃにも、付けてないですよ、魔王様」
俺は後ろを向き、肩を震わせた。魔王様は、デスクからコンパクトミラーを取り出し覗き込む。
「にゃによ、これ! あっ…………ちょっと! カズキくん!?」
「猫耳ですよ、魔王様」
「どうして、こんにゃもの、付け………………」
「似合ってますよ、魔王様」
魔王様は状況を理解したようであり、猫耳を外そうとするが、外れない。
「ちょっと、カズキくん! これ、外しにゃさいよ!」
「嫌です」
「いい加減にしにゃいと、怒るわよ!」
普段なら、「すいません」と謝るところだが、あまりの可愛さに頬が緩む。
「ま〜にゃん、可愛い」
「えっ…………ま〜にゃん? それって、わたし?」
俺は無言で頷いた。魔王様は猫耳姿が恥ずかしいのか、俯いてしまった。頬が少し赤い気もする。
「あの…………魔王様?」
「カズキくん」
「はい」
「その、猫耳とか、好きにゃの?」
「今までなんとも思っていませんでしたが、魔王様が付けているのを見たら好きになりました」
「ほっ、ほんと?」
「ほんと、ほんと」
「ふっ、ふーん、まぁ、たまには悪くにゃいかもしれにゃいわね」
魔王様は嬉しそうに声を弾ませた。怒ってはいないようだ。
それにしても、なんて可愛いさなのだろうか。レヴィにゃんも可愛いかったが、普段キリッとしている魔王様のにゃん語は、また違った印象を受ける。やはり、竜王さんは天才だ。
魔王様は鏡を見ながら、猫耳をちょっと嬉しそうに触っていた。
「カズキくん」
「なんですか、今度は」
「この猫耳って、取れにゃいのかしら?」
「付けた人だけ、外せるみたいです」
「そう、にゃら、そろそろ取ってもらえにゃいかしら? これじゃあ、仕事ににゃらないわ」
確かにその通りである。いつまでもま〜にゃんでいられるとこちらまで仕事にならない。
俺は魔王様の頭に手を伸ばし、猫耳を外した。
が、その直後その猫耳を奪われてしまった。
「まっ、魔王様! 何するんですか! ちょっと、その怪しい顔は何ですか!?」
その後、俺がどうにゃったかは、誰も知らにゃい。
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