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第111話『チャラ堕天』

「チョロいですわね」


 ダンジョンに潜入して数分は立ったであろうか、もう第一階層のボス部屋と思われる場所の前まで来ていた。

 道中では、マリアが圧倒的な強さで敵を叩き込めしており、俺はほぼ棒立ちで経験値を得る事が出来ていた。


「なぁ、マリア、ボスって強いのか?」


「ミノタウルスですわね、HPが半分になりますと斧を飛ばしてきますので、注意が必要ですわ」


「当たるとどうなるんだ?」


「HPが減りますわね」


「ゲームオーバーになると?」


「わたくしが1人であと99体のボスを倒すことになりますわね」


 俺は「頑張ります」とマリアに言いながら、ヒノキの棒を抜いて、両手に構えた。

 マリアが重苦しく重そうな扉に手を添えると、扉は勝手に開き、俺たちが中に入ると大きな音を立てて閉まってしまった。後戻りは出来ないと言うことだろう。

 ボス部屋と思われる場所は暗く、辺りを見回しても何も見えない。

 すると、奥から松明の光と思われるものが点灯しだし、辺りを明るくする。魔王様にしては、いい演出だ。

 そしてボス部屋の内側が見えだした頃に、頭上から大きな物体が音を立てて降って来た。


 ミノタウルスだ。


「行きますわよ」


 マリアに「了解」と少し気合いの入った返事を返し、戦闘が始まる。

 ミノタウルスは俺の身長の約5倍はありそうな大きさに、その大きさと同等の斧を構えていた。

 得意のヒットアンドアウェイ戦法で行こう。俺は素早く駆け出し、ミノタウルスの足元を狙って一撃を入れるが、ヒノキの棒は弾かれ、俺の身体も仰け反ってしまった。

 素早く体制を直し、一度距離を取る。ヤバい、結構しんどいぞ、これ…………。


 どうしようかと考えていると、マリアが目にもの止まらぬ速さで姿を消し、気付いた時にはミノタウルスの脳天にハンマーを振り下ろしていた。

 その直後、「エリアクリア」の文字が表示された。


「はぁ––––––––––––––––––––!?」


「チョロいですわね」


 悠々とハンマーを担ぎながら、俺の元にマリアは戻って来た。

 さては、これイージーゲームだな。マリアが居れば。



 *



 その後もマリアの快進撃は続き、あっという間に99階層に到達した。ゲームの中なので、疲労しないのは有難い事だ。

 マリアは文字通り圧倒的な強さで、全てのボスをほぼ一撃で葬っていた。おかげで俺も大量の経験値と、お金を手に入れてる事が出来た。

 階層が進むごとに、いける町も増えるようで、最初に買ったヒノキの棒はあっという間に『iBou』へと、移り変わっていた。

 そういえば2階層にも武器屋と思われる緑色のモンスターがおり、名前を聞いたところ『イッホイ』だそうだ。

 さては、五十音すべてのホイを用意してるな。

 そして先程、99階層の武器屋でやっと『ヨッホイ』を名乗る緑色のモンスターから『iBou』を購入する事が出来た。このゲーム内では、超レアアイテムらしい。

 そして、俺はなんか聞いた事がある『固有スキル』を習得していた。


「オーダー、無限アンリミテッド時間タイムワークス


「戦闘中じゃないと、発動しませんわよ」


 最終ダンジョンを歩きながら、勢い良く指を鳴らしてみたが、マリアの言う通り、何も起こらない。

 ゲーム内のこのスキルは時間制限はあるものの、10秒程は一方的に攻撃出来るような強力なスキルとなっていた。

 このスキルがあるなら、この先に待つという最終ボスも、余裕で勝てるのではないだろうか?


「なぁ、マリア」


「なんですの?」


「アンリミすれば、ラスボスも楽勝なんじゃね?」


「まぁ、ラスボスに対してある程度の耐性はあると考えてもいいですわね」


 マリアの言い回しから察するに、彼女はラスボスがどのような相手なのかを知っているようであった。


「ラスボスはどんなモンスターなんだ?」


「すぐに分かりますわよ」


 マリアはそう言うと、漆黒の大きな扉の前で足を止める。

 長かったダンジョンも、ここが終着駅のようであり、ラスボスに相応しい雰囲気を醸し出している。

 マリアが扉に触れると、ひとりでに扉は開いた。もはや、見慣れた光景だ。

 中に入ると、扉は大きな音を立てて閉まる。これも、見慣れた光景だ。

 奥から松明の灯りが灯り、ラスボスとの決戦ステージの概要が見えてきた。

 辺りは重厚感のあるゴシックカラーをベースとした場所で、正面にはこれまた黒くて刺々しい椅子が置いてある。

 よく目を凝らすと、誰かが座っておるようであり、その人物は立ち上がりもせずにグラスを傾けて何かを飲んでいた。

 俺とマリアが近付くにつれ、その容貌が見えてきた。

 黒いネイルに、ホルスターからぶら下げられた2対のiBou。そして、赤い瞳。

 その人物は赤い瞳をこちらに向けると、ゆっくりと立ち上がり、右手をかざした。


「よくぞ参った、冒険者。ここは刻の狭間。我は––––」


「宵闇の魔王かよ!?」


「人間、我が話をしているのに、口を挟むな」


「宵闇の魔王は自分が話している最中に、スキップされるのを嫌いますわ」


 マリアが小声で俺に耳打ちしてきた。目の前にいるのは間違いなく、宵闇の魔王であり、俺だ。本当によく出来ていやがる。

 宵闇の魔王は俺を見ると「ほぅ」と微笑をもらす。


「纏しその翼、堕天の輪となりて、祝福へと導かん」


 普段なら、意味分からない! となる所だが、メッセージ欄に略が表示されていた。


【お前の服、まじぱっないな、似合ってるぞ、まじで】


「略、チャラくない!? しかも、ちょっと褒めてくれてるし!」


 この服、というか装備は、例の色々弾くローブであり、俺はなるべく普段自分が使っている装備品をゲーム内でも揃えた。

 それらがこのゲームに実装されていたのは、嬉しい驚きである。

 宵闇の魔王は口元に手を当て、くちびるに軽く触れる。


「堕天の輪、円滑の理、其方もそれを預る者か」


「堕天の輪なんて持ってないぞ」


 宵闇の魔王はその言葉を聞くと、自身の頭を指差した。


「堕天の輪って、天使の輪かよ! 髪の毛に艶があると出来るやつじゃねーか!」


「ズッキーにもありますわよ」


 マリアが「こそっ」とまたまた小声で俺を小突く。

 髪の状態がいいのは、定期的にケアをしてくださっている、あのギャル神様のおかげかもしれない。

 宵闇の魔王は「お喋は終わりだ」とでも言わんばかりに、立ち上がり、腰に手を当てる。


 俺とマリアは武器を構え、戦闘態勢を取った。


 よいやみのまおうが あらわれた! ▼


 戦闘開始の合図と共に、壮大なBGMが鳴り響く。如何にも中二病っぽいやつだが、ラスボスに相応しい仕上がりとなっている。

 瞬間、辺りがブラックアウトする。宵闇の魔王の『アンリミ』だろう。マリアはアンリミ中は行動出来ないが、俺は出来る。役に立つとはそう言う事だったのか。

 俺はマリアの前に彼女を守るように立ち塞がり、iBouを構えた。10秒間攻撃を凌げば、マリアは動ける。そうすれば後はマリアが何とかしてくれるはずだ。

 俺の仕事はこの10秒間の間、マリアを守ることだ。



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