第12話『1ダメージ』
「こんな時に魔王様がいらっしゃらないだなんて……」
「本当ですよね」
レヴィアさんの意見に同意しながら、考えを巡らせる。
この世界で1番強いのは魔王様、もしくはギャルの神様。それにあの漫画家の神龍様が続く。
その次に強いと言われているのが、ドラゴンだそうだ。
俺はまさかとは思いつつも疑問を口にする。
「レヴィアさん、戦闘になるなんてことは……」
「分かりません」
自信がないご様子だ。だが、神龍様に来て貰えばなんて事はないのだろう。
「もしもの為に神龍様をお呼びしたらどうですか?」
「神龍様の所に伺うのは可能なのですが、あちらから神龍様を召喚するのは魔王様でなければ……」
「つまり呼べないと?」
「はい……」
魔王様のスマホに連絡を取ろうとしたが、繋がらない。そもそも繋がるのかさえ分からない。
ならば勇者のパーティーに救援と思い付いたが、それは不可能だろう。
我々の面目が立たない。内部の揉め事に外部の力を借りたとあっては信用問題に発展する。
この商売は信用こそなのだ。
「あの、レヴィアさんもしもの時は……」
「わたしが戦います。これでも魔王代行ですから」
そう言って無理に笑って見せる彼女のその言葉は、まるで自分に言い聞かせているようであった。
*
「レヴィアさん、そろそろ……」
「えぇ」
城外の平原で緑のスタッフとレヴィアさんが打ち合わせをしている。
反対に少し離れた所に待機する俺はというと……
剣の代わりにボールペンと、盾の代わりにタブレットPCを装備し、黒のコートと、イカした包帯を装備してきた。
鋼の剣をお土産に置いて来たのは、失敗だったかもしれない。
戦力になるかは分からないが、俺は死んでも14Gで復活出来る。
全て自腹で復活したとしても、3万回以上は復活出来る計算だ。
そもそも、戦闘になるなんて事はないだろう。ドラゴンだって話せばきっと分かるはずさ。
誰だって争いは嫌いなはずだ。
「おい、新入り!」
モンスターがあらわれた! ▼
ではなくて、駆け寄って来た緑のゴブリンこと、スタッフが俺にヒノキの棒を手渡してきた。
「持っておけ、いいか? 無茶はするなよ?」
「ヒノキのぼうで……ですか?」
「そのペンよりはマシだ」
緑のスタッフは中々渋い声で俺の胸元のペンを指差す。
緑のスタッフはレヴィアさんの方を一目見ると、声のトーンを落として耳打ちしてきた。
(絶対にレヴィアさんを戦わせるな)
(分かってますよ)
(そうじゃない)
(じゃあ、なんですか?)
スタッフはレヴィアさんの方をもう一度見ると、念を押すように伝えてきた。
(レヴィアさんは弱いんだ。ドラゴンよりな)
(…………分かってますよ)
*
ドラゴンがあらわれた! ▼
「久シイナ、レヴィア」
「お久しぶりです。ドラゴンさん」
ドラゴンはレヴィアさんや俺の10倍の大きさはあるだろうか……。赤い甲羅に鱗、遠くからでも他を寄せ付けない圧倒的なオーラを感じる。
「シテ魔王様ハ?」
「現在、現実世界の方へと行っております」
「俗世ニ現ヲ抜カスカ」
「大事な仕事があるので……」
「俺ハソレガ気ニ入ラナイ」
「ですが……」
「勇者ヲ殺スナ! 戦闘ハ破壊ヲセズニ行エ! フハハハハハッ! 俺ヲナンダト思ッテイル?」
「ドラゴンさんは……とてもお強いので」
「闘エ」
「………………ですが」
「アソコノ人間ト、城ノ中ノ奴を相手ニスルゾ」
「……分かりました、城から少し離れてもよろしいですか?」
「良カロウ」
遠くから見守っているが、ドラゴンとレヴィアさんが城から離れていくのが見えた。
慌てて緑のスタッフに話しかける。
「どうなっているんですか? どうして、城から離れるんですか! まさか!?」
「待て」
「ですが!」
「いいから待つんだ!」
緑のスタッフに静止され、固唾を飲んで見守る。ドラゴンが何かのボトルを取り出し、中身を小さなグラスに注いだ。
「サア、飲メ」
「いただきますね」
遠くからでは分からないが、レヴィアさんとドラゴンは何かを飲んでいるようであった。
戦闘前の儀式とかなのだろうか……
と、思っていた矢先レヴィアさんが倒れてしまう。
「おい! レヴィアさんが!!」
「あぁ……」
「なんで、そんな平気な顔してるんだよ! 俺は行くぞ!」
「あ、おい! 待てよ!!」
緑のスタッフの制止を振り切り、レヴィアさんの元に駆け寄る。
ドラゴンを睨み付けてから、急いでレヴィアの容体を伺う。まだ、息はあるようであった。
「レヴィアさんに、何をした! この、トカゲ野郎!」
「ホウ、次ハ貴様ガ相手カ」
「いいだろう、やってやる!」
「ナラバ、飲メ」
ドラゴンに差し出された液体を、受け取る。色は茶色であり、クンクンと匂いを嗅いでみる。酒だ。
意を決して、ゴクリと飲み干す。毒はないようだが、喉を焼けるような痛みが襲った。かなりのアルコール度数のようだ。
「フム、少シハ、ヤリオルナ……デハ、俺モ」
ドラゴンはそう言うと、器用に手を使い酒を飲み干した。
「ドウダ、次ハ貴様ノ番ダゾ」
「ちょっと待て」
「ナンダ?」
「まさか戦いとは、酒を飲むことか?」
「ソウダ」
「この、飲んだくれがぁ!!」
どうやらレヴィアさんは、強いアルコールを飲み、気を失ってしまったようだ。お酒弱かったもんな……。
緑のスタッフが言っていたレヴィアさんが弱いとは、お酒のことだったのだろう。
反対にドラゴンは結構イケる口で、先程から俺と交互にワン・ショットを何杯も飲んでいた。
もう何杯飲んだか忘れらフラフラになっていたが、突然ドラゴンが火を吐き、暴れ出し始めたのを見て声を荒げる。
「なんだ、おめ〜やんのか、こら〜」
「おい、危ないから離れろ! ドラゴンは飲むと暴れ出すんだ」
「酒癖悪いやつだな、おい!」
スタッフに腕を引かれ、俺はレヴィアさんを抱えながら、ドラゴンの元を離れる。
緑のスタッフに貰った水を飲み、少し視界と思考がクリアになった。
ドラゴンはというと、緑のスタッフが言う通りで理性を失ったかの如く、辺りを破壊しながら魔王城に迫っていた。
「どうするんだよ! 魔王城壊されちゃうぞ! それに中にいる人は……」
「俺が時間を稼ぐ、その隙にお前はレヴィアさんを抱えて逃げろ」
「あんた……あんたと城の中の人はどうする?」
「俺たちよりも、レヴィアさんの方が大事だ」
「全員生き返るんですよね!?」
スタッフはその質問に少し考えた後に「……何人かは生き返るだろう」と短く答えた。含みを持たせた言い回しで。
意味は何となく理解していた。城の再建、スタッフ全員の復活代金。そんなもの、とても払えるような金額ではない。
ましてや、ドラゴンが酔っ払って城を破壊したとなれば、魔王様の面目丸潰れである。
それをギャルの神様にお願いして、代金を踏み倒して復活させたりでもしたら、明日のトップニュースは『酔っ払いドラゴンが魔王城を半壊! 魔王様、復活代金を踏み倒す!』となるだろう。
それは、これまで魔王様が築き上げて来たものの崩壊を意味する。
「新入り……おい、新入り!!」
「な、なんだよ、急に大声を出すなよ……」
「……そのヒノキのぼう大事にしろよ」
「何言って…………おい、ちょっと待てよ!!」
そう言い残すと、俺の制止も聞かずに、緑のモンスターはドラゴンの元へと勢い良く向かって行った。ヒノキのぼうを握りしめながら。
モンスターのこうげき! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンのこうげき!▼
モンスターは しんでしまった! ▼
だが、一瞬でドラゴンにやられてしまった。ドラゴンはどんどん城に近づいており、もう、俺が何とかするしかない。
覚悟を決め、緑のスタッフから渡されたヒノキのぼうを握りしめ、駆け出す。
酔っ払っているドラゴンは俺の接近になど気が付いていない様子で、後ろから回り込みヒノキのぼうを振り降ろす。
ドラゴンに1ダメージ! ▼
が、まったくダメージを与えられない。ドラゴンは俺の方に向き直ると、大きな牙の生えた口を開き、今にも熱線を吐き出そうとしていた。
このままでは、やられる……。このままでは、死ぬ……死ぬ。レヴィアさんや、みんなが死ぬ……。
「こんなところで………やらせてたまるかぁぁぁぁあ!」
熱線を吐かれる前に素早くヒノキのぼうを、ドラゴンの厚い甲羅に叩き付ける。
ドラゴンに1ダメージ! ▼
その一撃で、ドラゴンの体制を崩せたのか、動きが鈍くなった。
まるで、"止まっているかのように"。やるなら今しかない。
俺は動かないドラゴンに対して、ヒノキのぼうを無我夢中で振り下ろし続けた。
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
ドラゴンに1ダメージ! ▼
*
ドラゴンをたおした! ▼
………
……
「レヴィア? カズキくん!? どこなの!?」
「レヴィア! 大丈夫!? しっかりして!」
レヴィアは1人の子供を抱えており、そこにカズキの姿はなかった。
To Be Continued