表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/160

第109話『健康ランデブー』

「高カロリーな物ほど、美味しいのよね〜」


 魔王様が、何かの雑誌を読みながら物思いに呟いた。現在魔王城オフィスにて、休憩中である。

 確かに、ケーキや油ものは太りやすいと聞いた事がある。

 そして魔王様がカロリーを気にしている理由も明白だ。明日は、健康診断なのだ。




 *




「ほら、カズキくん、急いで」


 俺は「はいはい」と返事を返しながら、魔王様に続いて歩く。

 本当は朝から健康診断の予定だったのだが、急な仕事が入ってしまったため、俺と魔王様はその処理にあたっていた。おかげで大遅刻である。

 健康診断は神様率いる教会の主導で、ここ、魔王城内で行われている。会社にとっては、社員全員参加の一大イベントと言ってもいい。

 受付に行くと、何故かレヴィアさんが出迎えてくれた。


「あっ、カズキさんっ、魔王様、こっちでーす♪」


「レヴィアさん? 何やっているんですか?」


「ちょっと人手が足りないので、お手伝いを……」


 なんともレヴィアさんらしい理由であった。そんな困っている人を見過ごせないレヴィアさんから、用紙を受け取り記入する。いわゆる『自覚症状のチェック』だ。

 記入が終わったら、それを提示して、魔王城健康診断巡りの旅が始まる。


 まずは、視力検査だ。

 可愛らしく手を振るレヴィアさんと別れ、視力検査の会場に到着したが、誰もいない。


「魔王様、誰も居ませんよ」


「まぁ、遅刻しちゃったものね」


「どうしますか?」


「視力検査程度なら、自分達で出来るでしょ」


 魔王様はそう言うと、スタスタと視力検査ボードに近付き、細長い棒でそのボードを指差した。


「この文字は読める? あ、右目を隠してね」


 俺は右目を隠しながら、魔王様の差した文字を読み上がる。


「ま」


「じゃあこれは?」


「お」


「コレは?」


「う」


「コレと、コレ」


「さ、ま」


「中々いいわね、それじゃあ反対を隠して、コレは?」


「だ」


「コレは見えないでしょ?」


「い」


「ならコレは?」


「す?」


「コレ」


「………………分かりません」


 魔王様は少し残念そうな顔をすると、俺の用紙に視力と思われる数値を記入した。

 次は俺がボードを差す番だ。魔王様は文字を差したが、俺は『C』のどこが空いているかを適当に差した。魔王様の結果は2.0であった。


「まぁ、このくらいなら分かるわ」


「もっと見えたりするんですか?」


「見える限りは見えるわ」


 この言い方だと、地平線とかも見えたりするのだろうか。

 その後、胸部X線やら、血圧の検査を行った。

 教会の職員の方は中々の美人揃いであり、これは悪い所もすぐに治りそうだ…………なんて考えていたら、魔王様にその考えを読まれたのか、急に耳を引っ張られた。俺は文句を言いながら、魔王様と共に次の会場へと向かう。


 次は、血液検査である。注射? 嫌いだよ。




 *



「はーい、チクっとするよ〜!」


 ドラゴンが注射器を片手に、血を抜いていた。

 その隣では、竜王さんも同様に注射器で血を抜いている。

 竜王さんとドラゴンは何故かナース服を着用しており、特に竜王さんはとても可愛い。長いツインテールのナースさんなんて、コスプレみたいだ。

 おそらくこのナース服は、竜王さんの手作りとかなのだろう。

 ここで大事なのは、初心者は可愛い竜王さんの方に、注射して貰いたいだろうが、それは甘い。ここはドラゴンが正解なのだ。

 ドラゴンはあぁ見えて、器用であり、なんでもそつなくこなす。間違いなくそんなに痛くない。反対に竜王さんは申し訳ないが、危険な香りがプンプンする。

 竜王さんの方が先に空いたので、俺は魔王様に「お先にどうぞ」と促したのだが…………。


「嫌よ『胸の脂肪も吸い出してやろう』とか言うわよ、絶対」


 断られてしまった。「軽くなりますよ」なんて、絶対言わないぞ俺は。流石にデリカシーが無さすぎる発言だ。


「体重、軽くなるかしら……」


(自分で言ってきただと!?)


「ねぇ、カズキくんはどう思う?」


(しかも、意見を求めてきただと!?)


「大きい方が好き? それとも小さい方が好み?」


 俺はその質問から逃げるため、無言で竜王さんの元へと向かった。

 背後では、「あっ、待ちなさいよ!」と言う魔王様の声が聞こえたが、無視だ。

 竜王さんは俺を見ると、微笑み、大きな瞳を細めた。


「やぁ、宵闇の魔王。君の血を貰えるかい?」


「違う、カズキです。早く注射してください」


「なにっ、わたしにチューして欲し––––」


「注射」


 相変わらず話は通じない竜王さんだが、腕をまくって差し出すと、アルコール消毒をしてくれた。

 そして注射器の針を俺の腕に近付ける。見ているのが、怖いため、目を瞑り、その瞬間に備える。

 ………………くるかっ? まだか………………くるぞ、くるぞ、絶対くる…………。

 ……………………………………あれ? 中々痛みを感じないため目を開けると、針が腕に刺さっていた。


「いつ入れたんですか?」


「今だ」


「痛くなかったです」


「痛みを感じない魔法をかけてやった」


 魔法の力って凄い。採血が終わると竜王さんは、注射の跡を魔法で修復してくれた。本当に魔法の力って凄い。竜王さん大好き。

 竜王さんにお礼を言ってから、最後の内科検診と、歯科検診へと向かう。あれっ、そういえば…………


「魔王様、体重とか、身長とかやってないですよね」


「そっ、そうだったかしらー」


 魔王様は急に視線を逸らした。


「魔王様、ダメですよ、ちゃんとやらないと」


「"カズキくんは"やればいいじゃない」


「魔王様もですよ!」


「内科検診と、歯科検診はあっちゃんがやってくれるのよー、悪い所があったらその場で治してくれるわー」


「話を逸らさないでくださいよ!」


「ま〜ちゃん、0キロだもーん」


「浮くのダメですからね」


「あっちゃん以外じゃ、わたしが浮いてるなんて分からないわよ」


 魔王様がうだうだ言っているうちに、その神様のいる魔王城医務室へとやってきた。

 そこで、俺はあるものを発見した。俺にとっては別にどうでもいいが、魔王様にとっては最悪の代物だろう。


 俺はそれをゆっくりと指差した。


「魔王様、体重計がありますよ」


まおうは しょうしつまほうをとな––––


「何やってるんですか、魔王様!」


「ちょっと、離しなさい! あんなもの、消してやるわ!」


 俺は魔王様の指を掴みながら、ニタリと微笑む。


「魔王様、器物破損はダメですよ」


「カズキくん、すごい悪い顔をしてるわよ」


「そんな事ないですよー」


 魔王様には日頃から散々色々されてきた。この辺で仕返しをしてもいいかもしれない。

 俺はカーテンの向こうからこちらにやってきた、神様を見つけ、話しかけた。


「魔王様が体重を計っておりません」


 神様はソレを聞くと一瞬で内容を理解したようであり、すごーい悪い笑顔で微笑んだ。


「ま〜ちゃん、先に聴診器当てますね〜」


「ちょ、ちょっと、何よ、その顔は……」


「神様、忘れ物ですよ」


 俺は神様に体重計を手渡した。ソレを見た魔王様は全てを悟ったようだ。


「嫌よ、離しなさい〜! ちょっ、ちょっと! この、離しなさい!」


 魔王様は神様に手を引かれながら、カーテンの奥に消えた。

 カーテン越しに神様と魔王様の会話が聞こえる。


「先に計る? みたいなっ?」


「はぁ…………いいわよ、でもちょっと待って」


「いいけど…………って、脱ぐの!? 全部!?」


「少しでも軽くするためよ」


 布の擦り切れる音のみが、医務室に響き渡る。……………………何も考えるな。ヨッホイの顔でも思い浮かべろ!


「うわっ、ま〜ちゃん、すっごい! おっきい〜!」


「コレの分、体重を引いて欲しいものよ」


「ソレ、何キロぐらいあるの〜?」


 何キロあるかは囁き声のため、聞こえなかった。が、神様の反応で大体想像は出来た。


「うっそ、スーパーで売ってるお米くらいあるじゃん!」


「だから、常に浮かせてないと、肩が凝るのよ」


 魔王様は、自身の重力魔法で常に胸を浮かせている。相当重いらしい。

 そんな事を思い出して、気を紛らわしていると、突然、魔王様がカーテンから顔だけを出した。


「カズキくん、覗かないでね」


「分かってますよ」


「ちなみに、今わたしは服を着ておりません」


「そんな報告はいりません」


「カズキくんのスケベっ」


「ちょっ––––」


 反論する前に魔王様は、ひょいと顔を引っ込めた。俺は絶対に覗かないぞ。仮に何かあったとしても、絶対にカーテンは開かない。

 数秒後、ヒタヒタと魔王様が裸足で歩く音が聞こえてきた。


「じゃ、じゃあ乗るわよ」


「ズルして、重力魔法で浮いたら分かるからね」


「分かってるわよ!」


 暫しの沈黙、そして…………


「きゃああああああ!」


 魔王様の悲鳴があがった。俺は立ち上がり、急いで、カーテンを開いた。


「魔王様!? どうしたんですか!?」


 カーテンの奥を確認すると、手で隠してはいるが、溢れんばかりに盛られた大きなバストが、視界に飛び込んできた。

 魔王様は「きゃっ」と短く悲鳴を上げると、すぐに後ろを向き、しゃがみこむ。


「ちょ、ちょっと、カズキくん! どうして入ってくるのよ!!」


「い、いや、だって悲鳴がっ」


「それは、その…………」


「体重が思ったより、あったみたいだよ〜」


 神様が、悲鳴の理由をニヤニヤとしながら、答えた。

 俺は素早く後ろを向き、カーテンを閉める。

 まったく、健康診断なのに、健康に悪いじゃないか………………………………。


 すっごい大っきかった。




セーブしますか? ▼


▶︎はい

 いいえ


▷はい

 いいえ


セーブがかんりょうしました! ▼

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ